59.ライラとアルベルト 幼少時代 出会い編(アルベルト視点)
本日は、視点がちょっと変わります。初のアルベルト視点です。
ライラとの出会いは、俺が11歳、ライラが7歳の時のことだった。
「店の品物を大事にせんかい!」
ここら辺一帯を締めているフェラー商会の跡取り息子の俺は、日々商売とは何かを問う親父に扱かれていた。
何時ものように親父に頭をぶっ叩かれて、捻くれないでいるだけ有難く思えと思いながら港を歩いていると、路地の脇の果物屋の裏手、積み重なっているりんご箱の上で泣いている女の子を見つけた。
泣いている女の子程面倒なものは無い。2人の姉と2人の妹がいる俺はそれを身に染みて知っていたので、見つけた瞬間に遠回りをしようと心に決めた。そおーっと回れ右をしようとした時に、女の子がりんご箱の上に立ち上がった。
「泣いていても しかたないわ、こうなったら あがいてあがいて、あがくのよ!」
空に届けと言わんばかりに拳を突き上げて
そう宣言した女の子は、日に当たってキラキラしているプラチナブロンドの髪とくりくりの丸い宝石みたいな青い瞳をしていて、拳を突き上げている姿の異様さと相まって、逃げようとした俺が思わず見惚れてしまうほど可愛いかった。
パチパチパチ
何だか解らないけれど、宣言が見事だったので拍手をする。
「あなた、誰?」
突然の拍手に驚いた彼女がこちらを見て俺に向けて指を差そうとした時、危ういバランスを保っていたりんご箱が、彼女の突然の動きのためにその足元から崩れた。
「きゃっ―――!」
俺は慌てて、落ちてきた女の子を腕の中に受け止めた。
「俺はアルベルト・フェラー。お前は?」
「……私はライラ・スペンサー。助けてくれてありがとう」
キラキラに輝いていて抜群の存在感があった女の子は、手の中に入れてみると驚く程軽かった。こんな小さな女の子が涙を振り切り、決意した事。それってなんなんだろうと、純粋に興味を覚えた。
「さて、ライラは何を足掻きたいの?俺に教えてよ」
ライラはそれはそれは胡散臭そうな顔でこちらを見てきたけれど、俺がかの有名なフェラー商会の息子で、何かと役に立つと思うよとしきりに進めると、暫く俺の顔をしげしげと眺めてやがて頷いた。
「アルベルト・フェラーって言ったわね。ほんとうに あのアルベルトなのね。こんな所で会うとは思わなかったわ。いいわ、おしえてあげるけど、かわりに私にきょうりょく してね?」
「まかせろよ。か弱い女性は守ってやるのが男だからな」
幼い女の子の悩みにそんな大それたものは無いだろうと俺は油断していたんだ。協力内容を聞かず安易にオッケーを出してしまった。
もちろん、今もライラに協力しているのは、遠いあの日の約束を守るためだけではないけれど。
以来、ライラとの腐れ縁がずっと続いている。
つかず離れず、俺にとっては家族以上の存在となったライラ。
あの、幼いライラが拳を振り上げていた姿を、俺は一生忘れないんだろうと思う。
ライラが拳を空に突き上げて自分の人生を切り拓く決意をしたあの日、知らず知らずのうちに俺の人生もまた、大きく動き出していたのだから。




