54.乙女ゲームの目的は
ライラがついにずっと僕が聞きたかったことを話しだす。僕は固唾を飲んでライラの言葉を待った。
「私は……いうなれば、逆ハーレムルートを狙っているの」
きっぱりと言い切るライラと僕の間に風が通り抜け、木々がざわめき出した。
「逆ハーレムルート…………だって?!」
「ときプリ」はマルチエンディング形式のゲームだ。各攻略キャラクターとの親密度、ゲーム中にこなしたイベント、選んだ選択肢、主人公ライラのパラメーター数値によって迎える未来が変わるのだ。
その中でも逆ハーレムエンドと呼ばれた「ときプリ」プレイヤーたちを震撼させたエンディングがある。
親密度やパラメーターは、高みを目指せば目指すほどゲームとしての難度が上がる。しかし、難度が上がる分だけイベントも多く発生するし、攻略キャラクターが主人公に向ける態度も情熱的になり、各キャラクターとの個別エンディングでは恋愛の素晴らしさを感じさせてくれる幸せな結末を堪能できる。
各キャラクターを攻略する中で、ときプリプレイヤーたちは、親密度は上げるもの、パラメーターは上げるものだと刷り込まれていく。
攻略キャラの個別エンディングを見るには、自身のパラメーターの他は基本的には対象の攻略キャラの親密度だけ上げていけばよい。
しかし、そこで考えるのだ。全キャラクターの親密度と主人公のパラメーター、つまり上げられるもの全てを一度に上げていったらどうなるのか、と。
ゲーム中の難易度としては、間違いなくMAX。
難易度が上がれば、その分だけ素晴らしい未来が用意されているはずと思ってゲームに挑むプレイヤーたちを待ち受ける逆ハーレムエンドの未来は、凄惨なものだった。
親密度の上がりきった攻略キャラクターたちはライラを取り合って争うようになってしまうのだ。
例えば、ルークは失踪するし、ディーノはギルを刺すし、僕はライラを連れて国外逃亡を謀るし、ギルはライラを王宮の一室に閉じ込めてしまう。
そうして数々の問題を発生させる元凶となったライラは卒業後に修道院送りとなり、エンドロールの後に「魔性の女として後世まで語り継がれた」との文字がプレイ画面に浮かび上がり終了となる。
かくいう前世の僕も、まさか乙女ゲームで「足るを知る」という言葉の重みを感じることになるとは思わなかった。普通に考えれば7股かけて当然の結果なのかもしれないが、そこはゲーム、ご都合主義の大円団でも良いのに……と多くのプレイヤーが逆ハーレムエンドに散っていったのである。
再びタイトル画面に戻った後に、メニュー画面から「思い出」を開くと、1枚のスチル絵が追加されている。卒業式で主人公と攻略キャラクター全員が楽しげに笑っている写真風のスチル絵。タイトルは、「叶わなかった夢」。もちろん、ストーリー中にこのスチル絵が出る場面は1度もない。制作陣の配慮だという者もいれば、悲しみとやるせなさを煽っているという者もいた。
ちなみに、主人公のパラメーターが低い状態で逆ハーレムルートを目指すと、主人公は攻略キャラクターたちのペット的存在となり、それはそれで幸せなエンディングを迎えることになる。
しかし、今のライラの高いパラメーターでペットエンドは有り得ない。
「何故そんな…………」
膝が震え、額から汗が滲み出る。
慌ててライラが付け加えた。
「ごめんなさい、その様子だと、あなたも相当やり込んだクチね。正確にいうとルノワール先生以外のキャラクターでの逆ハーレム」
なんだ、それなら話は大分違うじゃないか。でもなんでルノワール先生以外なんだ?
「私……将来は王立議会のメンバーになりたいのよ」




