51.ライラ登場
「ライラ!前に出るな!何かあったらどうするんだ!」
後ろからアルベルトの声が響いている。
「カッコつけたいだけだろうが!」
一方のライラは、鉄棒をローザに向かって振り回す。まったくアルベルトの話を聞いていない。
ガキンッ
鈍い音がして、ライラの鉄棒とローザの扇がぶつかり合う。
あの扇……まさか金属製!!
鉄棒をはね返したローザが間合いをつめる。ライラの懐ががら空きだ。
やばい―――と思った瞬間、ルークがライラの背中―正確には背中側の服―を片手でつかんで後ろに後退させる。
鉄製の奥義が、ヒュウッと風を切る音がした。扇の先端からは、いつの間にか鋭利なものが飛び出している。
「お前……何者だ?」ルークがローザを睨みつける。
「ローザ・ラビエールと申しましてよ。ご機嫌よう」
言うが早いか、ローザがルークに猛攻をかける。かわすルークだが、反撃に出られない。
ローザが再度ルークの懐に飛び込もうとした瞬間―――ローザの鉄扇をアルベルトが剣で地面に叩き落とした。
一方のギルは、外国の男達に集中的に狙われている。この場での最重要人物(VIP)はギルとエレン。どちらかが捕まりでもしたら、その瞬間から僕達はかなり不利になる。
エレンに部屋の最奥の積まれた荷物の陰に隠れて絶対に前に来ないよう言い含める。エレンがちゃんと後ろに向かって走るのを確認してから、僕は手直にあったサイドテーブルを放ると、敵に向かって蹴り飛ばした。敵が1人サイドテーブルの下敷きになって倒れた。
「ギル、お待たせ」
「先に始めているぞ」
図らずも生徒会室でいつもしているやり取りと同じになってしまって苦笑する。
別方向から視線を感じたので目線をそちらに移したら、ライラが鉄棒を振り回す手を止めてこちらをうるうるして見ていた。非常事態でも萌えを優先するとは恐れ入る。
ギルの額にはうっすら汗が滲み出ており、近くには敵が2人倒れていた。
さて、僕も活躍するぞーと思った矢先、
「おい!本当にギルバート様がおられるぞ!早くお助けしろ!」
ドカドカと沢山の人の足音がして、王立軍の小隊が到着した。本職の軍人たちを前にして外国の男達はみるからに戦意を喪失していった。
こうして、一悶着の後にローザ達は王立軍のお縄についたのだった。
小隊を統率していた武人が、恭しくギルの前に出る。
「じいちゃん!」
ルークが進みでた武人に対して声をあげる。
そう、王立軍の現職の近衛大将はルークの祖父が務めているのだ。
「ギルバート王子にエレノア王女、ご無事で何よりです。我が身の遅参をお許しくだされい」
ルークのじいちゃんは、王子と王女に一礼をすると、捕らえたローザ一味の連行や部屋の物品の押収など、てきぱきと部下に指示を出し始めた。
「いや、大義だった。それよりも、よくこの場所がわかったな」
ギルが近衛大将に声をかける。
「いやあ、この嬢ちゃんが教えてくれたんでさ」
近衛大将が顎で指し示した先にいるのは、いつの間にか隣に来ていたライラだ。
「ライラ……?」
ライラは何でこの場所がわかったんだ、と僕が訝しげにガン見していると、ライラはちょっとバツが悪そうに言った。
「その、……攻略キャラの居場所はだいたいわかるのよ」
「……は?」
「ほら、あったじゃない。『ときプリ』で、メニュー画面から地図を見ると、各キャラクターの場所が点で表示されたでしょ」
「そのシステム搭載されてるの!」
唖然とする。
一体ライラの脳はどうなっているんだ。確かに、「ときプリ」にそのMAP機能はあった。前世の“私”は、オプション選択で簡易地図を常に画面の左上に表示させていた。便利だったからだ。
「ローザンヌ商会の悪事の証拠物品が置いてある場所を私達も探していたのだけれど、そうしたら、候補場所のひとつにギルやウィリアム様が向かっているのがわかって、すぐにピンと来たわ!」
「これでようやく全部解決だな」
ぽんぽんと、ライラの頭を軽く叩きながら、慈愛の微笑みをたたえているアルベルト。
MAP機能の衝撃が凄すぎて事件の話が耳に入ってこない……。
「ライラ!」
ようやく会えた好きな女性に声をかけようと動き出したギルだったが、空気を読まない近衛大将がギルに向き直り恭しく宣言する。
「このまま我が軍が王宮まで護衛致します故、王子と王女はお戻りになられ、お骨を休ませあれ。まだ不躾な輩がうろついているとも限りませんからな」
「いや、しかし……」
「御遠慮無用!!盤石の守備でありますぞ!」
「……」
「皆の者!王子王女をお守りするのだ!」
オオーッ!と声が上がり、小隊の士気が高まっているのがわかる。もはや何か言える雰囲気でもない。
そうして王立軍は有無を言わさずそのまま2人を連れて行ってしまった。
僕も連行されかけたが、アルベルトとライラがこっそり抜け出すのを見て後を追うことにした。
ライラには、聞きたいことが山ほどある。
建物の外に出ると、アルベルトとライラが馬に二人がけで駆け出す所だった。僕も王立軍の馬を一頭拝借して後を追った。