50.ローザ・ラビエール
ドアが開いて、僕達に邸宅の外で最初に声をかけた外国の男が入ってきた。続いて現れたのはローザ・ラビエール。ぞろぞろと先程僕達を捕らえた男達を従えている。
ローザは僕達を見て驚いたようだった。
「学園の生徒がコソコソ嗅ぎ回ってるというから誰かと思えば……王子に王女、御身分の高い方々がこんなにも」
続いて、僕達を捕えた外国の男に何やら外国語でまくしたてている。
話はわからないが、どうやら叱責しているようだ。恐らく、外国の男はギルやエレンの身分を知らずに拘束したのだろう。その事をローザは怒っているようだった。
男は、最後にはローザが持っていた扇でピシャリと叩かれている。
なんて怖い女性なんだ。
ローザは僕達に向き直ると言った。
「まさか、あなた方がこんな事をするなんてね。これでこの国での私は終わりました。口封じに王子を殺せば反逆者、王子を逃せば王子の口から事件が語られるでしょう」
睨みをきかせたままローザが言葉を続ける。
「ですから、あなた方には私が安全にこの国から脱出するための人質となってもらいます」
どうやらローザは、僕達を人質にして国境を越えるつもりらしい。外国語しか話さない男達といい、ローザの本拠地は国外なのだろう。アスティアーナ国さえ脱出すれば身を寄せるあてがあるとでも言うのだろうか。
「お断りする。私は人質になどならないし、お前を国外に逃がすつもりもない」
ギルがきっぱりとローザの要求をはねのけた。
「交渉決裂ね。殺すつもりはないとは言っても痛いのは覚悟なさい。ウィリアム様、あなたとは違った関係を築きたかったのですが、残念ですわ」
ローザが少しだけ悲しげな視線を僕に投げかける。
ええっ。まさか本当に僕、モテてたの?
学期始まりに1~2度声をかけただけなんだけど……?
ギルが「ほら見たことか」とばかりに目配せしてきた。いや、この場面でそんなのは必要ないでしょ。
それにしても、僕はこういうタイプにモテるのか、嫌だなあ。
ローザの合図で男達は携帯していた剣やナイフを構えた。
「次は武力行使というわけか」
ギルが先程部屋で拾った廃材の棒切れで剣の構えをとる。
ルークは指をならし、軽くジャンプしたりして、試合前のアップのような動きをしている。
僕はエレンを背中の後ろに隠すようにして、ギルと同じく構える。
ローザは外国語で男達に指示を出した。
途端に、男達が僕達目掛けて飛びかかってくる。
その瞬間ーーー
「みんなー!無事ー?!」
威勢のいい声とともにやってきたのは、鉄の棒を振り回したライラだった。