5.校舎の片隅での攻防
校舎の端にある、普段なら誰もこないような庭の一角に何故、この国の王子と王女とこれから何か確実に起こす一生徒と僕がいるのだろう?
まだ頭の整理をしている途中だと言うのにこの状況。
エレンは中々答えない僕をがんがん揺さぶってきてる。ちょ、ちょっと、いくら何でも今、ライラいるから、人前だから!
「、、、ウプ。やあ、ギル。探してくれてたのか医務室から出たらもう良い時間だったから、午後からまた講義に出ようと思って時間を潰してたんだよ。」
少し、説明口調だったが僕がここにいる理由をエレンにもライラにもこれ以上聞かれないようにきっぱりと話した。
それより、気になる事がある。
「今、名前を呼んでいたけれど、このご令嬢とは知り合いなのか?」
「ああ、彼女は高等部からの編入生なのは知っているか?彼女に学園の事を教えてくれと先生に頼まれて、お前が休んでいる時に一緒に学園を回った事があったんだ。」
と言いながら僕に手を差し伸べてくるギル。どうやらエレンからの揺さぶりを気遣ってくれているみたいだ。こんな動作でさえも前世の"私"は嬉しいらしく、これからどうウィル×ギルバートに持っていこうか瞬時に組み立てる。頭が痛い。
「先日はありがとうございました。」
ライラがギルに慌てた様子でお辞儀をした。あのイベントかな?なんて呑気な事を考える。
何にせよ、推すと決めた2人がもう既に知り合いだと言う事実に僕は自然と笑顔になった。
それにしても医務室で会った時に「少し驚いた。」との事だが、だと言うのに彼女は医務室で会った時にすでにギルと僕が友達だとわかっていた。一体どこでそのことを知ったのだろう?
まさか!あの入学式の時に派手に倒れて、ギルが運んでくれたと聞いた。変な意味で有名になってるかも知れない!だとしたら、色々恥ずかしい。ヤバイ。今、何を言っても裏目にでそう。
動揺を悟られまいとぐっと額に力を入れる。ここは多少無理やりでもこの場から脱出しよう。逃げてばかりだが、この場面はイベントには無かったし対策の打ちようがない。
「もう休み時間も終わる頃だよな。次の授業は皆一緒かな?一緒に行こうか。」
何と自然な流れ。
「ああ、ライラ嬢も行こうか。」
何故かギルは僕の腕を離さないで話す。良く見ると、あ、コイツ脈測ってるな。様子がおかしい僕が何も言わないから、勝手に確かめる事にしたんだろう。
エレンは今度は揺さぶりをやめて、背中を手刀で刺してきてる。あくまでも周りにバレないようにだが地味に痛い。
「そういえば、ライラ嬢はどうしてこちらへ?」
ついでに、ここへの訪問理由も聞いてみる。別にここには何も無いよな。
ライラは何故かうっとりした表情で僕とギルバートを眺めている。
「ライラ嬢?」
「ああ、すみません。一度、ギルバート様に教えて頂いたものの、自分でも学園内を歩いてみようと思いまして。最近は昼休みになると色々周っているのです。ではお言葉に甘えてご一緒させて下さい。」
こうして4人で授業に向かうことになったが、ギルはライラをエスコートすると決めたようだった。ギルは、エレンは任せたと軽く目配せをすると、ライラを促して歩き出す。
自然と僕はエレンと一緒に歩き出した。
「…余り物で悪かったわね。」エレンがとつと口を開く。
「なに、拗ねているの?」
そういえば、前世の記憶では、ゲームでギルバートルートに進むと、ブラコン気味の双子の妹がなにかと煩かったなあと思い出す。
ギルとエレンの母親は2人が幼い頃に亡くなっている。現在の王妃は、いわゆる後妻ってやつだ。新しい母親と彼らの関係はお世辞にも上手くいっているとは言えず、そういった環境がエレンのブラコン気質の一因にもなっていると思う。
僕は立ち止まると、ちょっと芝居がかった調子でエレンに手を差し出しながら言った。
「エレン、僕にあなたのエスコートをさせて頂けませんか。そして願わくば笑顔を見せてくれると嬉しいのだけれど。」
「…ウィル。ありがとう。」
そう言うと、エレンは僕の手をとって微笑んだ。
その後はいつも通りのエレンだった。
作戦成功。エレンの笑顔が見られて嬉しかった。