47.青年探偵団2
「じゃあ、全部ローザンヌ商会の陰謀ってこと?」
ヒソヒソ声でエレンが話す。
「ソロモン・グランディの薬物は?フェラー社のものだったじゃないか。一緒に見ただろう」
ギルも疑問をぶつけてくる。
推理をした訳じゃなく、前世の知識で当たりをつけているだけなので、細かいところを付かれると弱い。
「とにかく、僕の考えが正しいなら、近いうちに動きがあるはずだよ。ローザンヌ商会は学園と早く契約を結びたいはずだ。ライラが捕まっていないから、焦っているはず!」
「ライラが捕まっていないと何で断言出来る?もしかしたら、口封じにローザンヌ商会に捕まっているかもしれない」
「そこはライラを信じよう!あのライラだから大丈夫だよ」
ギルの心配を一言で終わらせてしまった。
「ときプリ」のストーリーに則れば、ライラは今はアルベルトと一緒にいるはずだ。アルベルトルートでは、謎の商会に捕まったライラは、アルベルトに助け出され、抱きしめられ、愛の言葉を囁かれる。こうしている今も、恋愛イベント真っ最中だっておかしくない。
ギルには気の毒だが、前世のゲームの話をする訳にもいかない。いや、前世のゲームの話をしたところで、ライラがアルベルトに助け出され、抱きしめられている話をギルには話せない。どっちにしろ言えないか、と思い直す。
僕はそのまま話を進めることにした。
「とにかく、近いうちにフェラー社との契約を打ち切っても問題ないような事件をローザンヌ商会が起こすはずだよ」
「どんな事件かしら?事件っていうだけじゃ、対策が立てにくいわ」
「注視しておく価値はあるな。急いでいるのだから、すぐに仕込んですぐに結果が出るような事件か……」
3人で煮詰まってしまった。
「可能性は色々あるから絞れないな。ひとつ思いついたのだが、」
コホン、と咳払いをしてギルが言う。
「ラビエールさんはウィルのファンの様だし、ハニートラップはいかがだろう。ベッドの上なら心もほぐれて秘密を漏らすかもしれない」
ギルの顔は大真面目だ。
「駄目ー!」
エレンの声がレストランに響いた。
周りの視線に気づき、声のトーンを落とすエレン。
「お兄様、ありえないわ。何考えてるの!最低よ!」
上目遣いで必死に兄を攻めている。
「そうだよ、ギル。いくらライラが心配だからって、僕の扱いがあんまりだ」
「そうか?何も最後までする必要はないのだし。ウィルは元々似たようなことをしていそうだから問題ないと思ったのだが」
何だって?!
断じて、僕はそんなキャラでは無い!!
「本気で言っているなら僕は泣くよ?!それに、ラビエールさんはライラを呼び出したかっただけでしょ。ライラと僕が噂になったことがあったから、それで僕の名前を利用しただけだよ」
そうだそうだ、とエレンの加勢を受け、当然この作戦はポシャリとなった。
ギルは、そうかなあ、いいと思うけどなあ、などと呟いていたが、まさか本気で僕のことを誤解しているんじゃないだろうな。
じゃあ、他に何か考えはあるのかと問われ、考え込む僕に、前世でプレイしていた「ときプリ」のゲーム画面が思い浮かぶ。
『パンを食べたらお腹を壊して倒れたらしいわ。』
「ときプリ」プレイ中、ルークに会いに行った際に、1度だけ、クラスメイトに言われたセリフだ。
前後になんの説明もなく唐突に出てきたセリフで、その唐突ぶりでなんとなく印象に残っている。その日、ルークは学園のどこにもいなかった。クラスメイトの言葉通り、お腹を壊して家に帰ったのだろう。何かの前置きかとも思ったけど、その後は特に何もなく、気が付けば元気なルークにいつものように会えるようになっていた。
ちょうど、アルベルトを攻略中で、事件の前後頃だったと思う……。
「……パンだ!」
少し声が大きくなってしまった。
声を落として再びギルとエレンに囁く。
「学食のパンだよ。異物混入騒ぎを起こすのだと思う」
「何その確信……」
エレンが怪訝そうに僕を見る。
「とにかく、僕を信用して」と、ギルとエレンを説き伏せる。
早速明日から作戦開始だ。