45.ローザンヌ商会にて
「ここの建物の5階が目的地ね!」
僕にギル、ディーノに何故かエレンが街の中心部で、とある建物を見上げている。
ここにはローザンヌ商会-ディーノの作成リストにある業者のひとつ-の地区本部があるはずだ。
「エレン、生徒会じゃないのに何でここにいるんだよ」
「だって、ローザンヌ商会でしよう?今、ここのアロマが人気なの。クラブで出す紅茶の香り付けにも使っているから来てみたくて」
「だからって遊びじゃないんだぞ」
咎めるように言う僕に、ギルとディーノが「別にいいじゃないか」と言う。
ギルはエレンに甘いし、ディーノはギルとエレンの意向は可能な限り尊重する。僕だけ悪者みたいになってしまった。
ローザンヌ商会の応接室で待っていると、現れたのは1人の女性だった。
「商会の地区代表のローザ・ラビエールと申します。我社をご訪問頂き、光栄至極ですわ」
僕らが自己紹介をすますと、ローザは商会の説明を始めた。商品の取り扱い範囲はフェラー社と比べても遜色ない。価格は総じて高めだが、オシャレなものが多い印象を受けた。
「素晴らしい!ぜひ学園の品を調達していただきたいのだが、まずは試しに一部の商品からというのは可能ですか?」
ディーノがかなり前向きだ。
ローザの説明とともに運ばれてくる品々はどれも素敵で、ディーノがそう思うのも無理らしからぬことだった。
「一部の商品だけでも構いませんが、他に代替する他社製品が販売されていないことが条件になります。商品の価格を抑えるという意味でも、ある程度の量を発注いただくことも条件です。実は、契約書の原案を作製してありまして……。その辺の条件なども記載があるので、読んで頂き、よければ双方でサインをして契約を交わしましょう」
手渡された契約書をざっと見たディーノは、隣にいる僕にも見るように渡してきた。僕もざっと目を通して、隣にいるエレンを飛び越してギルに渡す。期待通りにエレンがちょっと不満そうな顔をしたので、面白くなって少し口の端が緩む。
契約を前向きに検討するというディーノ。
ライラの件もあるので、ここは慎重に時間を稼ぎたい僕。
「でも、やっぱりこの内容だと、今の業者を切らないといけないけれど、何の理由もなく突然大規模に契約打ち切りは難しいんじゃない?」
実際、フェラー社は黒い噂は色々あれど、表向きには何の問題も起こしていないのである。ソロモンの事件で使われた薬物も、フェラー社のものだと公表はされていない。
ローザが優雅に紅茶のカップを手に取りながら僕に反論した。
「そうでしょうか。フェラー社の悪い評判は日に日に大きくなっておりますし、噂といえど看過しかねるかと。学園内で不買運動も起こっているそうではありませんか。その点、我社は安心第一、大量にご注文いただいても確実に納品できますし、ご信頼を裏切るような事は致しません」
「学園の事情にお詳しいようで。いずれにしても、1度持ち帰った上で改めてお返事致します」ディーノが返事をする。
「お返事はいつ頃いただけるのかしら?」
「そうですね……」ディーノの話に被せるように、今まで黙っていたギルが口を開いた。
「ミス・ラビエールには貴重な時間を頂き感謝している。だが、今回は見送るという事で、この場でこの話は終わりにしたい」
これには、ローザも少し驚いたようだった。もちろん、ディーノも僕もエレンも驚いている。
「どの点で契約の妨げになるのでしょうか?よろしければ教えて頂けませんか」
ローザの疑問に、僕はすかさず答えた。
「あなた方には何の問題もありません。ただ、今の業者を切る公式の理由がないだけです」
ギルのおかげで、言いたかったセリフがごく自然に言えた!ギルの考えはわからないけれど、ナイス!
ディーノが困ったような顔でローザに返事をする。
「すみません、学内で意見をまとめるためにも、契約の返事は少々時間がかかるかもしれません」
それでは、とギルが立ち上がるので、ローザが慌ててドアまで案内する。
「何か疑問がありましたら、学内でも構わないのでいつでもご連絡ください。良き返事を頂けるよう、再考頂ければ良いのですけれど」




