44.ディーノのリスト
生徒会会議が終わり、僕はギルと今度は2人だけでカフェでお茶を飲みながら緊急会議を開いている。
「お前はどう思う?ライラは何故学園に来ないのだろうか」
先程のディーノの退学処分発言が相当堪えたのか、ギルの顔が曇っていてかっこいい。
「もしかすると真犯人に捕まらないように逃げ回っているのかもしれない。少なくとも、ライラ嬢は今回の事件の犯人ではないと思う」
僕の言葉にギルは少し、顔の強ばりを和らげた。
「私もライラがそんなことをするはずはないと信じている。ただ、周りはそうではない。エレノアですら、私には言わないが、最近ではライラを疑っていると思う。ウィル、お前だけだ。心からこの気持ちを分かち合えるのは」
ギルの真剣な瞳が前世の“私”を射抜く。これだけ真剣に思われているライラが羨ましい。正直にいえば、僕は前世の知識でライラが犯人ではないと知っているだけで、ライラを信じているわけでも何でもない。前世の知識がなければ僕も真っ先にライラを疑っていただろう。純粋にライラの無実を心の底から信じているギルとは違う。ただ、ギルとは違うとも言えず、曖昧に頷く。
このまま事件が解決されず、ライラが現れなくとも、学園はいずれ平和になるだろうし、ライラがいなければギルがライラに振り回されることもない。ただし、ライラにかけられた薬物の密売容疑に殺人未遂容疑は、男を2~3人手玉にとっただけの一女生徒が背負うには重たすぎる。無実なのに疑われたままなのはいくら何でも可哀想に思えた。腐女子には良い人も悪い人もいるが、だいたいは良い人だ。それに、僕とライラの話はまだ終わっていない。
「早くライラ嬢に会いたいね」
とつ、と僕が口をつけば、ギルが長い溜息をつきながら言った。
「本当に、逢いたい。無事でいればよいのだが」
ギルはギルで事件の関係者を独自に調べたようだった。ライラとソロモン・グランディの間には、接点は特になく、ギル曰く「驚くべきことにソロモン・グランディは本当に平凡で特筆すべき事が何もない」そうだ。
フェラー社が薬物密売をしているという証拠も特に出てこないという。
「ときプリ」の知識が正しければ、犯人はフェラー社の同業他社。ヒロインのライラがアルベルトの攻略ルートに入ると、フェラー社を陥れて販売シェアを奪おうとする謎の商会が起こす事件に巻き込まれてしまうイベントが発生した記憶がある。謎の商会の名前はゲーム上には出てこなかったが、ディーノの作成したリストのうちのどれかだろう。生徒会として、学園の購買に並べる商品の契約を検討するという形なら、怪しまれずに各業者に近づける。ディーノのことはあまり褒めたくないし、面と向かっては絶対に言わないけれど。
「僕の作ったリストよりちゃんと調べてあるし情報源もしっかりしてるものなあ」
ウィル、何か言ったか?とギルに覗き込まれた。声が出てしまっていたらしい。明日から業者選定だね、なんて言いつつ話を誤魔化した。




