43.ヒロイン退学
二学期が始まってもライラは現れなかった。
事件についての噂は、休暇をはさんでも収束することはなく、警備隊の事情聴取を受けた生徒が体験談を語ると多くの生徒が耳を傾けるのだった。
ソロモン・グランディは停学処分で学校には来ていないものの、嘘か誠か、彼が警備隊に語った内容が風の噂で学園に流れて来るのだった。それによれば、ソロモンは金髪美女から「金髪になる薬」を買って飲んだらしい。王室御用達の品といわれ、信じてしまったと語っているそうだ。噂によれば、警備隊が見せたライラの似顔絵を見て、「この人です!」と断定したとか。
ソロモン以外にも、金髪美女から、王家の紋が刺繍されたハンカチに包まれた薬を差し出された生徒達が何人かいたことも判明した。それぞれ「美人になる薬」だとか、「頭の良くなる薬」だと言われたが、怪しかったり値段が高かったりと購入にはいたらなかったようだ。
それら生徒の中には、金髪美女をライラだと断定する者もいた。そういった生徒をギルが問い詰めると、「実はベールで顔が隠れていてよく見えなかった」とか「金髪だから瞳は青かったはず。だからライラだと思う」とか、実に曖昧な返事をするのだった。その度にギルは、「根拠なく彼女を侮辱するな」と、相手の生徒を窘めているのだから、真っ直ぐなのにも程がある。
「これだけ騒ぎが大きくなっているからには、何か対策を取らないとならないだろう」
場所は生徒会室。
生徒会長のディーノに顧問のルノワール先生、僕とギル他生徒会メンバー合計10名程で会議中である。
ディーノの言葉に、生徒会メンバーが発言をはじめる。
「手荷物検査の頻度を上げてはいかがでしょう」
「薬物廃絶の標語を思いつきました!『 やるたびに どんどん未来 消えていく』」
「『 あると思うな 明るい未来』はどうでしょう?」
「五七五でないと。『手を出すな クスリやるのは ゴミ人間 』くらいは言っていいのでは」
皆思いついたまま発言してるけど、対応の方向性がズレてきている。
ドンドンっとディーノが机を叩いた。
「我々が行いたいのは噂の沈静化です。そして学園が安全な学びの舎であることを生徒達に思い出してもらうことです」
あたりがシンと静まりかえる。
「それではウィリアム君、学園で流れている噂がどんなものか簡潔に説明してくれたまえ」
ディーノは面倒なことは僕に振ってくるよなあと思いつつ答える。
「ライラ嬢が王族を陥れようとしてソロモン・グランディを毒殺しようとした」
「犯行に使われた毒物は?」
「フェラー社のものだともっぱらの噂です。公表はされていないのですが」
「その通り。ウィリアム君ありがとう」
そこで、とディーノが改めて発言する。
「ライラ・スペンサーを退学処分にし、フェラー社と学園の間にある商取引の契約の破棄を検討する」
え?
退学処分?
ライラを?
ざわついた会議室で、1番初めに発言をしたのはギルだった。
「疑わしきは切る、という発想だろうが、罪を犯したとも分かっていない生徒を嫌疑だけで退学処分にはできない」
ディーノが答える。
「恐れながら、私はライラを騒動の犯人として退学処分にするとは言っておりません。ライラには、学園に来て皆の前で嫌疑を晴らすように、警備隊の事情聴取に応じるように通達を出します。この条件が達成されないのならば、退学処分だ。やましい事がないのならば堂々と学園に出てくれば良い」
さすがディーノ、切れ味抜群である。
生徒会の別メンバーが発言する。
「確かに学園に出てこないのは怪しいです。それから、最近の風紀の乱れを考えれば、フェラー社の契約の打ち切りも学園にプラスになると思います。でもそんなこと出来るんですか?」
今まで黙って聞いていたルノワール先生が口を開いた。
「できますよ」
先生の話では、ライラもフェラー社も、有力な貴族の後ろ盾はないので、退学処分や契約解除に踏み切っても学園側で問題になることはないという。
「ただ、ライラさんはともかく、フェラー社については、大規模な商会ですし、学園の物品の調達を他の業者でできるかが問題ですよねえ」
それに関しても考えがあります、とディーノが1枚の紙切れを出した。
「フェラー社の代わりになりそうな業者のリストです。実際に会ってみて1番対応が良いところに決めればよいかと」
見れば、かなり丁寧に各商会を調べあげてある。実は僕も別の目的で休暇中に同じリストを作っていたのだが、ディーノの完璧なリストを前に、自作リストはひっこめた。




