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42.趣味

一連の騒動があってから、僕の心情がそうさせるのか、僕は癒し系グッズ作りがしたくてたまらなくなってしまった。同人活動の基本。好きなものが無ければ作れば良いという精神だ。

せっかくの休みだし、触り心地の良い布を街に探しに行く事から始めようと思う。

生地屋に男1人で行くのは浮くだろうからエレンに付き合ってもらおう。

馬車を呼んで、エレンを王宮まで迎えに行く。王宮につくと、ギルが「エレン、デートじゃないか良かったな」とエレンをからかって、兄妹でキャッキャッしているところだった。

「もう、お兄様ったら!ウィルは生地を選ぶために仕立て屋さんを周りたくて私を誘っただけだと言ってるのに。デートだなんて」

頬を染めながらはにかむエレンを見て、そういう可愛い反応をするからからかいたくなるんじゃないかなと思った。

「半分は本当、もう半分は不正解かな?生地を選ぶついでにエレンと美味しいものでも食べたいと思ってるんだ。付き合ってくれない?」

「貴方という人は……いえ、勘違いしてはいけないわ、こういう人なの」

と、エレンが何だかぶつぶつ呟いている。

そうこうしている間に目的の店についた。

あるのかどうか疑問だったけど、この世界ではパイル生地を普通に手にする事が出来た。ここぞとばかりに業者に頼み込み、パイルの毛足の長いものを特注で作って貰う約束を取り付けた。これで、モフモフのふわふわの色々なものが出来そう。大満足で僕達は店を後にした。


***


「今日は付き合ってくれてありがとう。おかげでとても良い日になったよ。何でも好きなもの頼んでね」

帰りに寄ったカフェテリアのテラス席でウィリアムは満面の笑みをたたえながら言った。

さっき仕立て屋から出てきてからずっとこの笑顔だ。よっぽど生地ができるのが嬉しいのね、と思いつつもその理由がわからないエレノアである。

「ウィル、あの生地で何をするつもりなの?」

アールグレイの紅茶に白桃のタルトを注文しつつエレノアが聞いた。

「試しに色々つくってみるつもり!上手にできたらエレンにもあげるね。安らぎをあなたに!!」

ウィリアムのテンションが何だかおかしい。

「あなたの作ったもので私が安らげるかしら……って、ウィルが作るの?」

驚いたエレノアにウィリアムの顔が真面目に戻る。

「何を言っているの、エレン。僕は裁縫だって君より得意な自信がある。こうみえて手先がかなり器用なんだよ」

証明してあげよう、と言うが早いか、向かいの席に座っていたウィリアムが何故かエレノアの隣の席に移動してくる。

「ちょっ……、何でこっちにくるの?」

「エレンをもっと可愛くしてあげる」


ウィリアムはどこからかリボンを取り出すと、エレノアの髪をいじりはじめた。

「さっきの仕立て屋で買っておいたんだ。今日のお礼に、帰り際に渡そうと思ったのだけど、せっかくだからここで付けてあげる」

恥ずかしいからいいと断るエレノアをなだめつつ、ウィリアムは手早くエレノアの髪をブロッキングし、編み込んでいく。気がつけば、かなり手の込んだアップヘアになっていた。サイドから続く編み込みが後ろでまとめられ、リボンが編み込みの所々から顔を覗かせている。

いつの間にか、ウィリアムの手腕を見ようと、カフェにはちょっとしたギャラリーができていた。エレノアの髪型の完成に、ギャラリーのご婦人方から感嘆の声が漏れる。

「素敵……!あの髪型、流行るわ!」

「私も真似したい!」

お付きの者に明日はあの髪型にしろとお願いしている身分の高そうな女性やら、エレノアの髪をみながら自分の髪を編み込みはじめている若い娘さん、皆が皆、エレノアの髪型に注目している。

「ありがとう、ありがとう。ボヘミア風の髪型です。ありがとう」

ウィリアムが 歓声に答えると、ウィリアムの周りにたちまち人だかりができる。若い娘から中年女性、メイドや美容院の店主までもがウィリアムを囲んで髪型について質問攻めだ。

エレノアはギャラリーの1人の女性が差し出してくれた鏡を見る。

ウィリアムにやってもらった髪型は、派手すぎることはなく、ただし、一目で手の込んでいることがわかる繊細で贅沢なつくりだった。

今着ている空色のサマードレスにも合っているが、髪飾りを変えればそれこそ舞踏会でも遜色ない。

そして、何よりもよくエレノアに似合っていた。

「あの方、あなたの事よく見てらっしゃるのね。とてもあなたに似合っているもの」

女性にも言われ、確かに自分でも似合うとは思ったが……、エレノアは複雑な心境で観衆ににこやかに応対を続けるウィリアムの背中を眺めるのだった。



「やあ、エレン。デートはどうだった?楽しめたかい?」

ギルバードが外出から帰ってきたエレノアに声をかける。デートなんかじゃないわ!と否定する妹の反応を予想していたのだが、今回はどうも勝手が違った。

「せっかく!二人きりだったのに!あれじゃあ、デートどころじゃないわ!」

どうやら邪魔が入ったらしい。

怒っている妹の気を逸らそうと、話題を変えてみる。

「髪、変えたのか?素敵じゃないか」

「お兄様には関係ない!!」

どうやら火に油のようだ。

こんなに怒ってばかりじゃ、いつかウィルに愛想つかされるぞ……と思いつつ、口には出さずにその場を退散するギルバートであった。

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