38.花(エレノア視点)
王宮の一角に綺麗な庭園がある。今はいないお母様が作ったものだ。庭園は殆ど誰も訪れない。というのも、新しいお母様は別の庭園を作っているので、皆そちらにかかりきりだからだ。
今、そこを管理しているのは、今はいないお母様が元気でいた頃からこの庭園をみてくれている庭師のノルムさんになる。部屋も外もどんどん義母の好みに塗り替えられてしまっているから、この庭園は、王宮内では唯一、母が生きていた事を感じられる場所だった。小さい頃はノルムさんの邪魔をしながらお兄様とウィルと良くここにお茶を飲みにきたり植物を育てたりしてた。
年頃になると令嬢としての教育が始まり、ガーデニングをする時間は取れなくなっていった。
「本当は土弄り、していると怒られちゃうのよね」
私はノルムさんにお願いして、可愛らしい小さい花の蕾が沢山ある苗を庭のバラのふもとに植えている。
この花はウィルが地方に行った時のお土産に買ってきてくれた物だ。何となく誰かに渡して埋めてもらうより、自分でやってみたくなり今に至ってる。
「増えると良いなぁ」
赤い蕾をちょんちょんとつついていたら、ノルムさんがやってきた。
「流石、お嬢様です。とても綺麗に植えられましたね」
「ノルムさんこのお花の事知っていますか?」
「そうですね。育てやすい花なので、このまま綺麗に咲いてくれると思いますよ。これはウィリアム様から貰ったと聞きましたが、」
ノルムさんはにこにここちらを見ている。
「そうですけど何か?」
「花言葉に
君がいると幸せ
と言う意味があるんですよ。仲良しで良い事ですなぁ」
絶対に、ウィルは花言葉なんて考えて送ってない。それだけはわかるのに、君がいると幸せだと、そう思ってくれたら何て幸せなんだろうと言う気持ちで、頭の中が支配されてしまった。
意識の遠くの方で、
「……赤だと永遠の愛と言う意味も」
とも話してくれていたが、赤くなった私はそれ以上言葉の意味を考えるのをやめてしまった。
花の名前はアイビーゼラニウム。




