34.決意
「ウィル、また怪我をしたの?」
エレンが顔を曇らせて僕の腕を見ている。
「ちょっと切っただけだよ」
とは言ったものの、それなりにはざっくりいっている。
「心配だわ。医務室に行って手当てしてもらいましょう?」
「大丈夫、包帯ならここにあるから」
そう、あまりに怪我が多いので最近では救急セットを持ち歩いているのだ。これで医務室に行く必要がなくなる。救急セットからガーゼと包帯を取り出して怪我をした右手に巻こうと試みる。どうも上手くいかない。
「……利き手じゃないから、やりにくい……」
不器用な動きをしている僕を見かねたのか、エレンが言った。
「貸して。やってあげるわ」
エレンは僕から包帯を取り上げると、テキパキと腕に巻き始めた。
エレンの真剣な表情を見ながら、入学してからのことを考えた。思えばライラに振り回されっぱなしだ。その上ここのところの不幸な事故続きで僕は心細くなっていた。
誰にも相談出来ないから1人で駆けずり回って、空回りも多くて現実には何一つ解決できていない。ライラという存在に押し潰されそうだ。
「ウィル、今はきっとそういう時期なのよ」
「え?」
「何かをした訳でもないのに、不幸な事が続く事ってあるわ。でもいつか落ち着く時がくる」
「そう、かな……」
「ウィルの心に早く平穏が訪れるように祈るわ」
包帯の結び目と格闘しながらエレンが言った。
怪我だけじゃなくて精神的に参っている所までフォローされてしまった。
エレンが、僕のことを心配して応援してくれる。
包帯の出来上がりは結構不細工だった。
「……。もう一度やり直すわ」
エレンも、自分でも出来がわるいと自覚したのだろう。やり直しを提案してきた。
「別に良いよ」
「駄目。もう1回やらせて。ウィルが元気がないからこれくらいはきちんとしたくて」
僕のことを考えてくれるのが嬉しいけど、僕はこのエレンが巻いてくれたぶきっちょな包帯が気に入ってしまった。エレンの申し出を断るために、素直な気持ちを口にする。
「いや、これがいいんだ。一回目にエレンが真剣に巻いてくれた包帯だから、僕はこれがいい」
自然に、瞳を閉じて包帯の結び目に口付ける。
僕にとってこれは大事なモノだ。
「エレン、ありがとう」
瞳を開けると、エレンが真っ赤な顔をしていた。一瞬の間をおいてその意味を悟り、慌てる。
「これは……そのっ、違くて!すごく感謝の意味を伝えたかったというかっ……!」
顔が熱い。たぶん、僕の顔も赤くなっているかも!
「とにかく、これで頑張れそう!ありがとう!!暑いからちょっとルークと走ってくる!」
教室を走って飛び出して、走ったせいか自分の心臓の音がすぐ側で聞こえる。
エレンを置いてきてしまったのは申し訳ないけど、今は恥ずかしくて顔を向けることができない。
エレンのおかげで決心がついた。
逃げてばかりじゃ駄目だ。
今日はルークと走って、明日は医務室に行こう。
ライラと対決するために。




