31.鶏
今日は乗馬の授業がある。僕は乗馬が好きだ。馬は、自分が素直になればそれだけ期待に答えてくれる。呼吸があった時にはどこまでも駆けていける気さえする。ここ最近の疲れも癒されるに間違いない!
「今日はよろしくな」
馬の鼻柱を優しくさすると、馬は嬉しそうに鼻を鳴らした。
「ウィル、其処の湖まで競争しようか」
「それは楽しそうだな、行こう」
森の木々の中を馬の腹を蹴り駆け抜ける。顔を撫でる風が気持ちいい。
癒し効果抜群だ。
「なぁ、ウィル、……ライラは君に何かしたのだろうか?君に避けられているようだと相談されてな。ウィルは理由なく人を避けるような人柄では無いから気の所為ではないかと私は言ったのだが、ウィルと私の間に入れるくらいに仲良くなりたいから間を取り持って欲しいとライラに頼まれた。決して気の所為などでは無いので、何かしてしまったなら謝りたいとの事だ。」
ギルが申し訳なさそうにこちらを見ている。
ライラは、ギルに対して自分を好きになるように仕向けているのだし、ギルの気持ちは知ってるだろうに。この話をギルにさせるライラの神経を疑った。
残念。とても楽しい気持ちだったんだけどな。
ライラに関して口を開こうとした時、僕の目の前に鶏が飛び込んできた。
「嘘だろ?!」
馬の鼻っ面に鶏の羽根が当たり、驚いた馬が高く前脚を挙げた。咄嗟に背後に手綱を引っ張りバランスを取り何とか立て直す。……危なかった。
「ウィル大丈夫か?」ギルが慌ててこちらに馬を寄せてきた。
「何処から鶏が飛んできたんだ?」
どうどうと興奮した馬の背を摩る。鶏はコケーッと一鳴きし、もう一度僕に向かって羽をバサバサしている。鶏までもライラの味方だった。
鶏と目が合う、初めての体験を得て僕の疲れと疲労はピークを迎えたのだった。
目が合った鶏は、ライラの顔をしていた。
「ギル……。あの鶏の顔、ライラだよ!」
青ざめながら叫ぶ僕に、心配そうな顔をしながらギルが答えた。
「どこが!」




