26.気になる人(ギルバート視点)
今日はライラと出かける約束をしている。
玄関広間に出ると、お茶会から帰ってきたエレンと鉢合わせた。
「また、ウィルに怒っているのかい?」
私の双子の妹は幼馴染のウィルの事が気になって仕方ない様だ。
ウィルの人当たりの良さは天性のもので、老若男女人気者である。あんまり皆からウィルの話を聞くものだから、ウィルと1番仲が良いのは自分だと言う事をアピールしたくなる時もある。
優しいので女性からのアプローチに対してもそう無碍にはしない。私の妹はそこが気に入らないようで、お茶会で彼の話題が出ると、決まって不機嫌になって帰ってくる。
「怒っている訳では有りませんわ。何でウィルの話だと思いましたの?」
「怒っているように見えるよ。どうせ、ウィルの話だろう?その部分で話をするつもりは無い。何があったんだ。」
出かける用意を執事にして貰いながら、片手間に彼女の話を聞く。
「・・・アリアナさんの帽子が風で飛んだ時に取ってもらったとか、ミーシェさんはたまたま大きい水溜りがあって、困った時に手を取って貰ったとか、マリアさんは問題がわからなかった時に小さくノートに書いてもらったとか。」
「普通の親切じゃないか?」
「帽子を取った後、手に渡せば良いのに頭にポンと乗せて、僕がいてラッキーだったねと笑顔でお礼も聞かず去っていったとか、水溜りの時は綺麗な服が汚れたら困るよねと、丁寧に服を整えてお礼も聞かず去っていったとか、ノートに答えを書いて貰って発表したあとにもう一回、良かったねと書いてもらったとか、その後やっぱりお礼するタイミングがなかったらしいの。」
「⁇」
「お礼させなさいよ!!無駄に心に残るじゃない⁉︎」
かっ!と目をエレンが見開きワナワナしている。
「おかげで、ウィリアム様を紹介してもう一度会いたいのって人が多くて。」
「親切の何が悪いんだ。お礼したいのだろう?紹介してあげればいい。」
溜め息がでる。女の子は難しい。
ああ、でも色んな女の子に人気がある為に、この間はウィルとの仲の疑われたライラがずぶ濡れになっていたのか・・・。
決してウィルの所為では無く、その子達がいけないのだとは思うけれど。
「・・・それより、お兄様何処かにお出掛けですか?」
「ライラを観劇に誘った。少し難しい話なのだが、彼女がどういう感想を持つのか気になってな。」
「ずいぶんと仲がよろしいのですね。お兄様が女の人を誘うなんて。」
「毎日少しずつ話すうちにもっと彼女のことを知りたくなって。これもその一つだ。」
「・・・老人の戯言だと思って聞いて頂ければ良いのですが、恋は知りたいという、知識欲から始まるらしいですよ。」
それまで黙っていた、執事のセグルスが私に上着を掛けながら言った。
「愛はただその人の事、特に幸せを思う事です。」
「恋(知りたい)と愛(幸せになって)が混ざり合って、恋愛をするということだな。セグルスは詩人だな。」
エレンが、上着のボタンを締めてくれるようだ。
「今の説明聞く限り、私はお兄様を愛しています。ライラさんの噂や人と成りを見る限り、お兄様と仲良くなるのは、私は少し心配なの。お兄様には良く考えて進んで欲しい。けれど、お兄様の幸せを願ってるから、お兄様が本当に幸せならば複雑だけど応援するわ。」
「私も愛しているよ。でも、もう少し私の人を見る目を信用してくれてもよいと思うのだが。」
二人で苦笑いで微笑み合う。
「いってらっしゃい、気をつけて。」
私はその場を後にした。
「ライラ迎えに来たよ。」
ライラのいる寮の前で馬車を停める。
「ギル今日はよろしくお願いします。」
にっこりと笑った彼女に目を奪われる。
彼女の事を知りたい気持ちは止められそうにない。




