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25.ギルバートとライラ

ウィリアムとエレノアがギルバートの心配をしていた日の放課後のことである。

ギルバートは校舎の外廊下を歩いて別棟の生徒会室へ向かう途中だった。しかし、目の端に校舎の裏側に向かうライラを見つけると、思わず足を止めた。

あの先は行き止まりで見るようなものも何もない。まだ校内の地理に慣れないのだろうか?学内は広いので仕方がないだろう、と、ライラを彼女の目的地までエスコートするつもりでライラの後を追った。


そこでギルバートが見たのは、全身ずぶ濡れのライラだった。

「ライラ?!これは一体・・・。」

「ギルバート様?!」

季節は初夏。

濡れた薄い服はライラにべったりと張りつき、少女から女性への過渡期であるこの娘の身体のラインをはっきりと露にしている。白いシャツはライラの肌着と白い肌までもを浮き彫りにしてしまう。

ギルバートは赤面して思わず目を背ける。

「ここに着いた途端、上から大量の水が降ってきて・・・。」

上を見れば、4階建ての校舎の窓が開いているのが見えた。ライラに対して嫌がらせを仕掛けた輩がいるのだろう。酷いことをする。

「とにかく、濡れた服を何とかしよう。ライラ、着替えはどこかに持ち合わせてはいないだろうか。」

「少し行った先のロッカーに馬術の授業用の着替え1式があります。」

「そこまで急ごう。」

ギルバートは自分の着ていた白いシャツを脱ぐと、ライラの身体にかけた。また、ハンカチを取り出すと、ライラの顔と髪を丁寧に拭き、外部からはライラの顔が見えないように下を向かせ、ハンカチを頭に被せると目的の校舎に向かった。


校舎の外で待っていたギルバートの元にすっかり乗馬服姿になったライラが現れた。

「先程はありがとうございました。」

先程までギルバートに借りていた彼のシャツを返すと、ライラはギルバートの座っていたベンチの隣に腰掛け、ぺこりと頭を下げた。

ギルバートは手渡されたシャツを羽織る。少し湿気ったそれは、先程までライラの肩にかかっていたものだ。少しくすぐったい気持ちになりながら、ギルバートは先程から思っていた疑問をライラにぶつけた。

「大変な目にあったね。可哀想に。しかし、何故あんな場所へ?」

「それは・・・。」

ライラが言いながら一通の手紙を差し出した。

手紙は、先程の場所にライラを呼び出す内容のものだった。差出人は「ウィリアム・ヴォルフ」。

「・・・ウィルの書いたものではないな。まず筆跡が違う。」

「ウィリアム様と同じ授業を受けた後、気がつくと教科書に挟まっていました。ウィリアム様からのものではないと思ったのですが、どちらにせよ誰が書いたのか確かめたくて。」

ライラが悔しそうに唇を噛んだ。

「それではあなたは、自らその身を危険に晒しにいったというのか?」

「ちょっとした嫌がらせくらい、たいして危険ではありません。でも面倒なので相手の顔が知りたかったのです。相手がわかれば対策のしようがありますので。」

これにはギルバートも驚いたが、意を決してライラに向き合った。

「ライラ、あなたは強い人だ。自身で立って物事に向き合っている。しかし、そんなあなたの助けになりたいと思っている人間がここにいることを覚えておいて欲しい。」

「ギルバート様・・・。」

「ギルバート様、では堅苦しい。ギル、と。」

「しかし・・・」

「ギル。」

「ですが・・・」

「ギル。」

ギルバートの真剣な面持ちに、ついに観念したようにライラが首を振った。

「では、ギル。ありがとう。私なんかにはもったいないお言葉です。」

「そんなことはない。私はウィルにも負けるつもりはない。いつか、私が一番だとあなたに言わせてみせる。」

何の事・・・と言いかけて、ギルバートのあまりに神々しい微笑みに流石のライラも頬を染めた。

「でも、ギルには私よりもギルを必要としている人がいるわ。」

ライラは最後に小さく呟いたが、その言葉はそのまま夕暮れに溶けていってしまった。

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