23.ルノワール先生
ルノワール先生は飄々としていて、掴みどころがない。その先生らしからぬ適当な感じが生徒に受けて人気者だ。生徒会の顧問でもある。
先生はテストで上位になるなど学業のパラメータが上がってないと攻略対象者として出てこない。
ライラはいきなり好成績を出しているが、普通は一学年の一学期ではそこまでパラメータは上がらない。通常なら大部後半でないと会えないキャラクターだ。
会うまでが大変だが、先生を味方にしておくと、誰とどのくらい親密になれたとか、誰はどのプレゼントが好きなのかとか誰が最近会いに行っていないせいで機嫌が悪くなっているか等を先生という立場から教えてくれる。
先生自身の攻略は、会えるようになってから落とす期間が短いので中々に難しい。
ちなみに、植物園に咲く妖しい花の情報源はルノワール先生だ。先生攻略は時間との勝負になるため、「ときプリ」プレイヤーは、ルノワール先生の教えてくれた魅惑の花の下にルノワール先生と通うという事態がまま発生する。
媚薬効果のある花と知っているルノワール先生が、「先生をこんな所に連れてきて、どうしようというのです?」に始まり、「先生、もうどうなっても知りませんよ!」から「もう、どうにでもして。」と、蝕まれていく様は、乙女ゲームの攻略冥利につきると言っていい。
「会わないようにしてたのに何で・・・?」とライラは背中の後ろで呟いている。
先生は僕とエレンとライラを見て、
「何があったかは分かりませんが、先生は良いタイミングでした?」とウィンクをした。
ライラは「はい。ちょっとだけ揉めていたので、助かりました。どうもありがとうございました!」と勢いよく言うと、その場から逃げるようにいなくなってしまった。
エレンは「ちょっとライラさん大丈夫なの?」とライラを追いかけた。
「うーん。逃げられちゃいましたねー。彼女には聞きたいことがあったのですが。」
先生があまり困っているようには見えない様子で困っていると言った。
「そういえば、先生はここ最近の校則違反の品々の流通についてどう思われますか?」
「ウィリアム君は何かを知っているのかな?もしかして、ウィリアム君もライラさんを追ってここにきたのでしょうか?」
先生の細い目が僅かに開いて僕を見る。
先生はライラに接触しようとしていたのか。
「僕がここに来たのは偶然ですが、ライラ嬢はフェラー社と仲が良いようですね。フェラー社が怪しい物を流通させているかどうかは分かりませんが、気にかけている事の1つです。」
「そうですね。実際にフェラー社が学園で問題となるような物を売っているかは分からないけれども、ライラさんになら個人的に渡していてもおかしくないかもしれませんね。」
僕と先生がお互いの腹を探るように話しているところに息を切らしてエレンが戻ってきた。
「ライラさん、足が早くて・・・。追いつけなかった・・・。」
「では、ウィリアム君、エレノアさん、僕は帰りますね。困った事があったら、いつでも相談に来て良いですからねー。」
「はい、先生ありがとうございます。」
「・・・何かあったら、またお話して下さい。」
と僕は礼をとった。
「ウィル何かあった?」
「・・・エレン、さっきは揉めているところの真ん中に飛び込んだだろう。何かあったらどうするの?」
「だって、ライラさんが危なそうだったじゃない。」
「遠くから声をかけるとか、兎に角、他にも色々やり方があるよね。エレンがやらなくても僕に止めてって言えば僕がやったから。」
「そうしたら、ウィルが危ないじゃない。」
「君に何かあるより、何倍も良いよ。」
「・・・私だって、ウィルに何かあるより、自分に何かあった方が良いわ。」
エレンの両手を握って僕の胸に引き寄せる。鞄と中身が地面にバサバサ落ちた。
「駄目。」
「駄目って・・・。」
「エレンとギルに何かあったら僕が僕でいられなくなる。それくらい大事なの。僕の為にも僕を頼って。」
「それ、貴方が危ないのは変わらない・・・。」
「うまくやるから、ね!それとも僕は頼りないかな?」
「そんな聞き方、ずるいわ。」
落ちてしまった教科書を拾いあげ、騒動で中断されてしまった図書館に向かう。
ライラの幼馴染だと言うアルベルト、ライラに目をつけているルノワール先生、どちらもライラの味方だとしたら、面倒くさいことになりそうだなと思った。




