21.植物園デート
本日2話目更新です。
黒縁眼鏡と目深に被った帽子。非常に不本意だが、炎天下の中、この暑そうな残念な格好をしている。
「ねぇ、ウィル。暑い。脱いでも良い?」
「シーっ!今、ターゲットが喋ってるから待って。この壁にひっつけば少しは冷えるから。僕の腕でも良いよ。少し冷たいと思う。」
「腕にも壁にもくっつきません‼︎何で校内でこんな風に隠れなきゃならないのよ!」
「静かにして。良し、移動する、行こう。」
ギル曰く、今日ギルとライラは植物園でデートをするらしい。
僕は散々悩んだ挙句、やはり心配なので尾行する事にした。
だって、自然な流れで良い雰囲気になるならまだしも、ドーピングばんばんされて恋に落ちる親友なんて、見たくない。
エレンはというと、コソコソ怪しげな動きをしている僕を見つけて怪訝な表情で声をかけてきたので、ターゲットの2人に見つかる前に、僕と同じ黒縁眼鏡と黒い帽子を無理矢理つけさせて僕の隣に座らせた。
植物園には季節に関係なく、人を魅了する花が咲いている。その情報さえ知っていれば、そこにターゲットを連れて行き、匂いを嗅がせて少しその気になってもらう事が出来る。
ライラの狙いはそれだろう。
ちなみに、妖しげな花の情報は、前世のゲーム「ときプリ」中では、あるキャラクターとの会話で手に入る。
「恋人たちをより親密にしてくれる花があるそうですよ。気になる方と訪れてはどうでしょう?」
ご丁寧に、落としたい奴を連れていけとのアドバイス付きで教えてもらえるのだ。
ゲームをプレイしていた時は、効率よく親密度をあげられる便利スポット程度に軽く考えていた。むしろ深く考えたことなどなかったが、現実となるとたまったものじゃない。
僕はただ純粋に、そんなものを使わずに恋して欲しいだけだったのに。悲しいことに、この世界のライラからは打算しか感じられない。
「やだ、お兄様とライラさんを尾けてるの?何で?」
「2人のデートが気になるからね。」
隠したってしようがないので、堂々と言い切る。
「気になるってそんなにはっきりと。そんなに格好良く決めて言うセリフ?」
その時、例の花が咲く通りに2人が差し掛かった。
「まずい。エレン、先回りするよ!」
その通りの前に『清掃中、立ち入り禁止』の看板を設置して、さっと隠れる。
ライラが「あら、立ち入り禁止だなんて。是非お見せしたいお花がありましたのに。残念です。」と寂しそうに隣のギルを見上げていた。
やっぱり、匂いを嗅がせようとしてた。油断がならない。
ギルは「次の楽しみが出来たね。」とライラの肩に手を置いて彼女を慰めていた。
ギルは慰め方がスマートだなぁなんて感心していると、甘ったるい香りがしてきた。
僕は馬鹿だ、ギルとライラに気を取られて、僕達はあの花のエリアに入ってしまっている。
「エレンごめん。こんな所に連れてきて。なるべく匂い嗅がないで。」
とエレンの口元にハンカチを当てる。
「凄く甘い良い匂いね。何の花なのかしら?」
「あんまり嗅がない方が良いんだ。早く出よう。」
その時、植物園の葉に溜まっていた水滴が僕の肩に落ちてきた。
焦った僕は呼吸が浅くなっていたようだ。
「わっ!」
と驚いた時に空気を思いっきり吸い込んでしまった。
隣のエレンを見る。物凄く可愛い。
エレンの柔らかそうな肌が近くにある。眩暈がしそうだ。クッキーもそうだがこの世界の物は効き目が良すぎる。
「エレン、可愛くて綺麗だ・・・。」
幼馴染には恥ずかしくて、何時もは言えないようなセリフか口から出る。
「ウィル?どうしたの?」
僕はゆっくり、壊れ物を触るように丁寧にエレンに手を伸ばした。
この綺麗な人を僕の腕の中に囲いたい。その一心で。
後、もう少しで彼女に触れられる。
「こんな黒縁、黒眼鏡が可愛いはずないじゃない!また、からかって!」
パチンとエレンに頬を叩かれて、一瞬だが正気に戻った。
我に返った僕は、その場からエレンの手を引いて逃げ出した。危なかった。あの花の匂い。凄い威力だ。
「からかったの謝りなさいよ。」エレンは睨んできていたが、
「いつも可愛くて綺麗なのは本当なので、謝りません。」
と、ヒリヒリする頬を摩りながら答えてやった。
それにしても、花の効力があったとしても本音でもあったのに。褒めて殴られるなんてない。どんな言葉なら信じて貰えるのか、気になる僕だった。




