19.ウィリアムの誕生日2
本日2度目、前日からは5度目の更新です。眠い。。
「やっと帰ってきたな、待ってたぞ。」
「ルーク!クラブは良いのか?」
「全く、ウィリアムの祝いに生徒会室を使うなどと。」
「ディーノ、本意じゃなくとも嬉しいよ。ありがとな。」
僕は促されるまま、生徒会室の真ん中に設置された料理卓の前に立った。今週末には自宅で誕生日祝いのパーティが公爵家主催で開かれるのだが、当日に身内だけで祝って貰えるのは本当に嬉しい。
僕は幸せものだ。
食事が始まり、隣のエレンが僕に尋ねた。
「今まで何処に行ってたの?」
「ライラ嬢からプレゼントを貰っていたんだ。」
「そうなの・・・。授業中のあれは驚いたわ。」
「うん。僕も。」
妙な沈黙が落ちる。
「わ、私も後で貴方にプレゼントがあるの。」
「何だろう?お祝いの会だけでなく、プレゼントまでくれるの?嬉しいな!エレンがくれるものは毎年センスが良いから重宝しているんだ。ずっと使わせて貰ってるんだよ。」
「そんなに期待されると困るわ。」
と、眉を下げながらエレンはにっこり笑った。
「俺たちからもあるぞ。でもまずは料理だ、食べろ食べろ!」ルークは容赦なく口に食べものを突っ込んでくる。本当にガサツだ。
「ちょ、ひゃへふから・・・!やめっ・・・」
エレンが水を差し出してくれた。気がきくなあ。ルークは豪快に隣で笑っていたが僕は死ぬところだった。笑い事ではない。
その時、ドアが開いてライラが入ってきた。「お待たせしました。クッキーを焼いてきましたの。」
ええっ?!クッキー?!
嫌な予感がして、ライラの持ってきた皿の中をうかがってみる。
ハート型だし、やっぱりどうみてもラブリースマイルハートクッキーだ。
本当はこのクッキーこそ1番初めに取り締まりたい。この間の持ち物検査で没収したおまじないレベルの媚薬などよりも効果抜群なのは、「ときプリ」をプレイして知っているのだ。
しかし、堂々と手作りと言われると手出しができない。
この生徒会室という狭い空間に、僕も含めて攻略キャラが4人も集っている。ライラからしたら格好の狩場だろう。なんて恐ろしいことを考えるんだ、ライラ。
「わお!このクッキー絶品なんだよな~。」
皆をどうやってクッキーの毒牙から守ろうか算段する暇もなく、ルークがクッキーの並べられた皿をライラから取り上げ、テーブルの真ん中に置いた。
バカルーク!ライラから皿を受け取り移動中にうっかりを装って転倒し皿ごとクッキーを駄目にする作戦はこれで潰えた。
「うーん、やっぱり美味い!」
止める間もなくルークがクッキーを食べだす。もう知らないぞ。どうせ既に毎日食べているんだ。今日食べないくらいでは今更どうにもならないだろう。ルークは放っておこう。
「そんなにもなのか?僕も頂いてみよう。」
今度はディーノがクッキーに手を伸ばす。
ディーノは上品にひと欠片を口に含むと、はっとした表情でライラを見る。
「これは・・・確かに興味深い。味わえば味わうほどにもっと欲しくなる。」
ディーノはまだライラを見つめている。
これは効いてそうだ。ごめん、ディーノ。恨むならルークを恨んでくれ。
「本当に美味しいわ。」
横を見ればエレンまで!うーん、一見エレンには変わった様子は見られないけれど、少しでも毒が薄まりますようにと、エレンのカップに大量の紅茶を注ぐ。
ギルはどうだろう。せめてギルだけでも守らなくては。
「ウィルは食べないのか?」
当のギルが僕に話しかけてきた。
「そうだそうだ。誕生日の主役なんだからウィルも食べてみろ。」
ルークが追い打ちをかける。
どうしよう、絶対に食べたくない。
カレー味の豆か、豆味のカレーか、ラブリースマイルハートクッキーか、というぐらいに食べたくない。
僕は咄嗟に嘘をついた。
「その・・・苦手なんだよね。ハート型のクッキーが。」
僕がクッキーを食べられることは、ライラ以外は皆長い付き合いなので知っている。だからハート型だけ駄目なことにしてみた。
「はあ?そんな事あるか?」
「ちょっと、トラウマ的な・・・。ハート型だけは駄目なんです。なので、僕は無理です。すみません。」
我ながらナイスアイデア!トラウマにしておけば、そうそう突っ込まれないだろう。
「どうせ女性絡みだろう。この色男は。」
呆れたように言うディーノの、女性絡みという言葉に反応してエレンが僕の背中に手刀を繰り出した。
「では私も頂こう。この間から食べる機会が来るのを楽しみにしていたんだ。」
ギルがクッキーを手に持ち、口に運ぶ。
「ギルは駄目!」
考えるより先に体が動いた。
気づけば、僕はクッキーをギルから掠めとっていた。
あまりのことに一同がシン・・・となる。えーと、言い訳。
「ギルは女性からの手作りクッキーは禁止。僕とエレンだけOK。」
我ながら苦しい言い訳である。
「おいおい、いくら仲良しだからってその発想はちょっと気色悪い・・・ムグッ。」
わかっているから黙れとばかりにギルから奪 ったクッキーをそのままルークの口につっこむ。
「誕生日とはいえ、あまりの振る舞いだな。ライラ、ウィリアムの非礼を僕からも詫びよう。」
淡々とクッキーを食べるディーノの言葉も胸
に刺さる。
ギルは少し考えた後に、無言で再びクッキーに手を伸ばした。
僕はすかさずクッキーを奪うとそのままルークの口に入れ込む。おいおい・・・と言いつつも、ルークは口に詰め込んだ分のクッキーはきっちり食べた。ライラは満面の笑顔で僕達3人を見ている。
この攻防はクッキーがなくなるまで続いた。




