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163.王様の耳はロバの耳2(アルベルト視点)

いつもの声に名前を呼ばれて俺は振り向いた。

スタッカートのようなアクセントのついたその声で、ライラが物凄く上機嫌だということがわかる。


何かあったんだろう。その「何か」については、この後たっぷり聞かされることになるんだろう。

ライラの話は、面白いこともあれば、俺にとってはあまり関心が持てずどうでもいいようなことの場合もある。

ギルバート様が、とか、ウィリアム様が、とかいう話の時は正直聞き流している。

だけれど総じてライラが一生懸命に俺に話してくる姿を見るのは嫌いじゃない。

語っている内容がいわゆるBL談義だった場合には、中身について深く考えなければよい。目の前の生きる喜びに溢れているライラは、俺の耳から入る酷い内容を補ってあまりある程に俺の目を楽しませてくれる。


さて、今日のライラが持ってきたネタはどんな事だろうか?

ライラの様子からして、一大ニュースなのは明らかだ。

できれば俺にとっても面白い、興味の持てる話題だったら良いのだが。

俺だってライラと喜びを共有したいから。



これは特別の秘密だと勿体ぶって焦らしてくるライラに逆らわずに、誓いのポーズまでとってライラが内緒話をしやすいように身を屈める。

早く話したくてウズウズしているライラは、俺が身を屈めると早速耳元に両手を当ててきた。


「絶対誰にも言っちゃいけないけど………」


内緒話特有の囁き声。しかし、囁き声のくせに息の量だけは気合が入って1人前なため、猛烈にくすぐったい。

秘密を共有してくれる特権的な地位と耳に触れるくらいの至近距離は、なんとは無しに甘い気分になる。

囁き声なら、ライラの声でも色っぽいと言えなくもないかもしれない……なんて若干の期待と下心を抱いてライラの言葉を待っていたら。


「ギルバート様がウィリアム様とついに結ばれたの!!」



―――以上が続いてライラの口から出た単語の全てだった。


「―――は?」

「だから、もう一度言うと、」

「いや、いい!ちゃんと聞こえたから!意味が理解できないだけだ!」

律儀に言い直そうとするライラを慌てて止める。耳元で再度あんな言葉を囁かれたら妙な気分になりそうだ。言葉の意味はわかるけれど感覚としてついていけない。

「意味もなにも、そのまんま!BLよ♡」

困惑する俺に、人差し指を天に向かって立ててライラがウインクした。

「………」


どういう事だ?

だってこの間、地下洞窟でギルバート様からライラについてどう思ってるか聞かれたばかりだぞ?!あれは、暇つぶしの軽い会話とかそんなノリではなかった。その後の王子の態度だって……。明らかに王子様が惚れているのはライラだろ。それがどうしてこんな話になった?


「アルベルト、深く考え込まないで?Boy meets boyってわけ!こういう事は心で感じるのよ!」

「……。ライラ、さすがにその話は無理があるだろう。出処は?」


俺が信じないのが不服らしいライラは少し膨れ面をしながら言った。


「ギル本人よ」

「へえ?はっきりとそう言ったのか?その……ウィリアム様が好きだと」

自分でもすごいセリフを吐いている。舌を取り出して洗いたい。


「はっきりとは……ほら、話の性質上はっきりとは言えないでしょ。ギルも公にはできないけどって言って暗に教えてくれたの」


…………。恐らく、勝手に都合よく解釈したんだろうな。こんなんで大丈夫なのか?


「アルベルト、前に私に言ってたでしょ。攻略しないなら、あまりギルと二人きりにならない方が良いって。その気が無いのに親密度あげるのは失礼だって。私もそれを聞いて真に受けて色々ちょっと勘違いしてて、恥かいちゃった」

おいおい。何呑気な事言ってるんだ。

警戒心なさすぎだろう。相手は王子。いざとなったら一般市民の1人くらい、強制的に手篭めにできるような立場のお方なんだぞ。

「何言ってるんだ。綺麗な娘は警戒してしすぎる事は無いだろ。……本当に、ウィリアム様とギルバート様ができてるならどんなに良かったことか」

俺は大きくため息をつく。

「しっ!駄目よ!声が大きい!それに本当だって……あれ?」

ライラが慌てて俺の口を塞ごうとするが、ふと、何かに気づいたらしく動きが止まった。


「アルベルト……。ウィリアム様とギルバート様の事、応援してたの?」

ライラがきょとんとした顔で俺の方を見上げている。

「……」


断じて俺はウィリアム×ギルバート派ではない。ギルバート×ライラ……いや、俺以外の男とライラのカップリングが嫌なだけなんだが。

そういう意味では……ウィリアム×ギルバートは俺にとっては歓迎すべきカップリングではある。


「まあ……そういう事になるかもしれない」

自分自身の言葉に訝しさを感じながら俺が答えると、途端にライラの顔が一層輝きだす。

「いつの間に?もう!早く教えてくれれば良かったのに!大丈夫!2人が結ばれてるのは私が保証する!」


キラキラと輝くライラを見て俺は悟った。


……今、俺が何を言ってもこの件でライラの目が覚めることはないだろう。

こうなったらこの路線で行くしかない。


「いいか、ライラ。ギルバート様はウィリアム様との時間を大事にしたいはずだから、ギルバート様の時間を不用意に煩わせるなよ」

「もちろん」

「つまり、用事以外ではあまり近づくなよ?」

「ええ」

「用事だって、多少回り道でもギルバート様以外で何とかできそうならそっちのルートを試すんだぞ?俺にだって頼ってくれて構わない」

「当然ね」

「二人きりなんて以ての外だぞ?ウィリアム様……俺の見立てでは、割と嫉妬深そうだ」

「ええ!ウィリアム様ってギルバート様にだけは独占欲むき出しなのよね。アルベルトもわかってるじゃない」

「………」


調子が狂う。

……色々思うところはあるが、ライラが王子に近づかなくなることが俺の目的だ。目的だけを見据えていこう。


「付かず離れず遠くから観察するから大丈夫」

Vサインで鼻息も荒いライラ。

観察はしたいのか……。まあ、仕方ない。

むしろライラのBL好きがバレて王子が幻滅すれば良い。

「何かあったら教えろよ」

何となく嫌な予感に襲われている俺に、ライラは脳天気な返事をよこした。

「もちろん!ネタを仕入れたら萌えトークしましょう。ふふ」


萌トークを聞かされて相槌を打つ自分を想像すると寒気がするがこれは妥協ラインだろう。

俺は実をとる男だ……そう自分に言い聞かせて俺は覚悟を決めたのだった。

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