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161.久々の学園!ウィル詩人になる

エレンと幸せな数日間を過ごした後、僕は久々に学園に戻ってきた。

日は輝き、新緑が眩しい。

雲の隙間から射す太陽の光は金色のヴェールのようで、エレンの黄金の髪を彷彿とさせたため、僕は思わずエレンを思い出していた。太陽の光は暖かく、目を閉じた僕は心の中に愛する人を思い浮かべる。そうだ、彼女の傍にいる自分は、いつだってこんな風に心が暖められていたんだ!その事実に驚愕と共に歓喜を感じながら僕は思わず愛する人の名を呼んでいた。

「エレン……」


朝露に濡れた花からはエレンの髪と同じ誘い込まれるような優しい香がする。

自然はこんなにも美しかっただろうか……。

そして、僕はその自然のあらゆる造形の完全性の中にエレンの姿を見たのだった。

「やあ、噴水の飛沫のきらびやかさったらないな。まるで光に揺らめいた時のエレンの瞳みたいだ」

「あの小鳥たちの歓喜のさえずりときたら!エレンの声みたいに僕に心地よく語りかけてきてる」

万物の中にエレンを感じながら僕は笑いだしてしまいたかった。


「ウィルー!おはよう。久しぶり!」

突然声をかけられて顔を上げると、目の前にはライラがいた。

「なんだ、ライラか。元気そうだね。ギルから事の顛末は聞いていたけど、ヨシュアのイベントで居なくなったきり顔を見ていなかったから少し心配してたんだ」

「本当に心配してた?何だかそんな風には全然見えなかったけど。声掛けても全然気がついてなかったし」

どうやらライラは僕に何度も呼びかけていたらしかった。ちょっと膨れっ面をしてライラが僕に抗議した。

「ごめんごめん。でも、後ろから小さな声をかけられたって気がつかないよ」

「後ろじゃなくて右方向斜め前方だったけど。それより!ヨシュアの地下聖堂イベント、ちょろいと思っていたのにすっかり騙されたわ……。実は幽霊イベントだったってウィルは知ってた?」

「幽霊?ギルはそんな事一言も言ってなかったけど」

「ギルは見てないものね。でも私とヨシュアは確かに見たのよ。それに、今思えば、ヘクターの服はやたら古くさかったし、崖から落ちたのに都合よくランタン持ってる時点でおかしかったんだわ」

「ヘクター?」

それから、講堂に向かいながらライラと僕はヨシュア地下聖堂イベントについて情報を整理したのだった。

「なるほど……。じゃあ、やっぱりイベント発生条件の噂話が手がかりだったんだね。旧教会に女の幽霊が出る。その幽霊は、その昔、結婚式当日に新郎が姿を現さなかった事が原因でそのまま倒れて亡くなった……」

「新郎の名前はヘクター。式に来れなかったのは前日に崖から落ちて洞窟の中で亡くなったから。以来、洞窟の中を出口を探してさ迷っていたって事かしら」

「死してなお結ばれる愛か……。なんて美しいんだろう」

「そう?ヘクターが旧教会についた時、デルタさんが出てきたんだけど怒ってて超怖かったわよ。今思い出してもゾッとする。ヘクターだって好きで死んだわけじゃないのに、今思えばちょっと気の毒だったわね。その時は怖くてそれどころじゃなかったけど」

「え……。それでどうなったの?」

「ヘクターが必死で身の上話をして、デルタさんに愛を語ってようやく宥めたのよ。亡くなっても人は人ね。そう!それで、一段落したと思ったのに、今度はヘクターとデルタさんが2人して指輪を墓の中に入れろと強要してくるもんだから、恐怖の極みよ」

「指輪?」

「ヘクターが持ってたルビーの指輪。もうどうしようと思っていたら、アルベルトとギルが来てくれたの。ヨシュアはクソの役にも立たなかったわ」

「………」


「僕がどうしたって?」


ライラがヨシュアを悪く言った言ったところで、当の本人が勿体つけたような優美さを持って登場した。

「ヨシュア」

「ウィリアム様もお変わりなく。ライラ、今日の午後空いてるか?旧教会の司祭を訪問する日を決めちゃいたいんだけど」

「いいわよ。講義の後でね」


ライラとの約束を取り付けるとヨシュアはそのまま先に行ってしまった。

「何だ?随分打ち解けた感があるじゃん。それに、約束だって?」

地下聖堂イベント、好感度の上昇だけはゲーム通りという事だろうか。いや、ライラは翌日には普通に学園に復帰してる訳だから、その辺もゲーム通りと言えばゲーム通りなのか……。

「旧教会で出るって専らの噂だった女の幽霊を退治したのが私とヨシュアって事になっちゃったのよね。それで、教会の牧師様が私たちを教会で讃える行事を計画してるみたいなの」

ライラの話では、洞窟のもう一方の出口は旧教会の墓地に通じていて、分厚い石板で出口が塞がれていたけれど、その微妙な隙間から強風などの気象条件が揃うと女の鳴くような甲高い音がするようになっていたそうだ。

「幽霊の噂の原因はそれだけだったんだ」

「元をただせば、ね。尾ひれはひれついてたけど。噂を怖がって今まで誰も検証する人がいなかったのね。それに、もしさかしたら実際に何人かは幽霊のデルタさんを目撃してたかもしれない」

そう言ってライラはぶるっと体を震わせた。

「隙間は塞いだから泣き声(に聞こえていた音)はしなくなったんだけど、洞窟の存在を一般に知られるのは避けたい王宮側と、これまた洞窟なんて認めたくないし、ついでに聖職者の霊性を市民に顕したい教会側と、既に広まりつつあった幽霊退治の噂、色んな思惑が錯綜した結果、私とヨシュアが幽霊退治したって事にすることになったの」

この辺りの話は、ギルからも聞いていた。旧教会と学園の礼拝堂が秘密の通路で結ばれていた件で、王宮と教会は今揉めているらしい。王宮側が教会を激しく糾弾しているようだ。教会側は慌てて古い記録を調べだしているそうだ。

ちなみに、洞窟内を流れる川の一部が直接的に王宮の水路に通じている事は、僕はギルにしか話していない。

「教会側は、本当はヨシュアだけが幽霊を退治して、私はその証人って事にしたかったみたいだけど、ギルもあの場にいてヨシュアが何にもしなかったの見てるし」

「へえ?ギルが交渉してくれたんだ」

地下聖堂の洞窟については、あまり公にしたくない意向もあって今回の出来事の処理はギルが直々に取り仕切っているけれど、当事者としてそんなこともしてたんだ。

「お陰で私に聖女イメージがついたの。笑っちゃうけど、推薦状のために聖職界へのとっかかりが欲しかったからギル様々!」

BL好きの聖女か……。ライラが、と思うと笑えるけど、ジャンルとしてはアリだな。

「ギルに御礼言っておけよ~。苦労してそうだったぞ」

「もちろんよ!でも、御礼を言ったら、将来聖職者として政治に参加するだろうヨシュアにあまり力を付けさせたくなかったから気にしないで……みたいな事を言われた」

なんて事だ。ギルはもっとライラに恩を着せておいても良いのでは?なんにも言わずに「貴女のためだよ」って言って口説いてしまう人だって中にはいるだろうに!ライラに思惑が見透かされていたら口説き文句としては空しいのかもしれないけど、「気にしないで」はいくらなんでも慎ましすぎやしないか?

ううむ……と唸る僕を尻目に、ライラはふと呟いた。

「地下聖堂イベント、発生条件に、ディーノからお兄さんの話をしてもらう必要があったけど、あれは何だったんだろう?」

そう言われれば、確かに不思議でもある。

「うーん、ヘクターがイシュマーニ家に関係があるとか?」

「そうなのかしら?でもお兄さん?ディーノのお兄さん、すっごく病弱でこの間も失神して1日意識が戻らなかったって……ーーーーあ」

突然ライラが言葉を切り神妙な顔つきになった。

「何?何?どうした?何かわかった?」

ライラは僕の言葉を否定する様にぶんぶんと首を横に振り、手で口を覆ってしまった。明らかに様子が怪しい。

「いや、何か思い当たったんでしょ。教えてよ」

「ダメよ……ダメ。どうしてもというならアルベルトに聞いて!」

そうしてライラは講堂に向かって一目散に駆けて行った。

「何だよ、待って!」

ライラを追いかけて僕も講堂に入る。

すると、そこにはエレンとギルがいたのだった。


――――――エレン。



僕の鼓動が一際大きく跳ねる。

王宮では会っていたけど、学園で顔を合わせるのは初めて。

今まで何度も繰り返してきたはずの朝の挨拶だけれど、今までそれがどうなされていたのか最早思い出せない。


「ギル、エレノア様、おはようございます」

「ライラにウィル。おはよう」

ライラとギルが挨拶を交わしている声が遠くに聞こえる。

僕はエレンから目が離せないでいたけれども、エレンと目があった瞬間に顔が熱くなる。きっと僕は赤面してしまったのだろう。

そんな僕の様子を見たギルが柔らかく微笑んだ。

エレンは慌てて、僕を席に引っ張っていく。

「もう!恥ずかしいんだから」

「エレン……おはよう」

気分が高揚したままエレンに挨拶をした。




――――攻略キャラのくせにヒロイン差し置いて脇役に熱を上げるなんて。忌々しいったらないよ。自由意志なんてクソくらえ!




「――――!??」

突然、不機嫌な声が頭の中に響いた気がして僕は思わず後ろを振り返った。

後ろでは、ギルとライラが楽しそうに談笑してるだけで、他に特に変わった様子はない。


「……気のせいかな…。最近あまり寝てないし、ちょっとおかしくなってるのかもしれない」

気を取り直すように頭を振った。

「ウィル?どうしたの?どこか具合悪い?」

エレンが心配そうに僕の顔をのぞき込む。その仕草だけで僕の頭はエレンで一杯になり、他の全ての事柄は些末な事として意識の下に沈んでいった。それに、頭だけじゃなくて心臓も高鳴る。

「うん。ちょっと胸が変だ。でも大丈夫。原因はわかっているから」

僕の話を聞いてエレンは益々目を見開いて切ない顔をする。

「そんな!無理をしたばっかりだし、お医者様に診てもらいましょう?」

僕だけに向けられた、僕を心配するエレンの顔。本当に、胸が締め付けられるくらい可愛い。

「違うんだよ。僕のは病気とかじゃなくて……。原因はエレンだから」

「あっ……」

エレンは僕の言葉に小さく声を出して驚くと、真っ赤になってしまった。

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