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158.お見舞い?

エレンの部屋に入ると、枕を背もたれ替わりにしてゆったりとした姿勢でベッドから身を起こしているエレンが見えた。


「エレン、起き上がって大丈夫なの?」

「このくらい平気よ。それより、ウィル、学校は?」

「ああ、エレンが治るまで休んで一緒にいる事にした」

「ええ?良いの?」

「良いんだ。一緒にいるって約束だろ?治るまで客間にいるから、エレンが呼んでくれさえすれば何時でもくるよ」


エレンがあからさまにホッとした顔をする。

「嬉しい」

とはにかみながら笑うエレンを見て無理を言って王宮に残って良かったと心から思う。

良かった、僕の決断は間違っていなかった。

それにしても、なんとなくエレンがいつもより素直な気がする……。両想い効果か?


しばらくすると、侍女がもうすぐ昼食の時間であることを告げてきた。

折角なので、僕もエレンと一緒に頂くことにする。侍女がお粥をサイドテーブルにおき、退出する。


僕はスプーンを手に取ると、お粥を掬い、少し冷ました後にエレンの口元に運んだ。

「少しでも食べれるかな?」

「………」

「どしたの?まだ食欲無い?」

「……えっと、これって……。ううん、何でもないわ」

エレンの身体が少し強張ったが、その内におずおずと口開けて、お粥を口に含んだ。

良かった食べれた。

思わず安堵の笑みが漏れる。食事も食べれたし、後は医者の言う通り回復に向かって行くだろう。


「食べられて良かった。もっと食べてね。はい、あーん」

「……ウィルもお腹すいてるでしょう?私に構わず食べて」

「僕の分は適当に摘むから大丈夫。サンドウィッチで食べやすいし。それより今はエレンでしょ。はい、あーん」

「………」

僕が掬ったお粥をパクパクと素直に食べるエレン。これならもう大丈夫だろう。早くエレンの元気が戻りますように。


「ご飯を食べたからかしら、身体が暖かくて、また眠くなってきてしまったのだけれど…。あの、ウィル、まだここにいて欲しいの」

そのお願いは可愛い過ぎる…。

誰も見ていないのはわかっているのに、目を瞬きし、キョロキョロ挙動不審になる僕。

僕の無言を否定と取ってしまったのか少し不安そうにするエレンに慌てて、弁明をする。

「了解。起きるまで、側にいるからね」

僕の片手をしっかりと握り、また眠りにつく。眠るエレンの横で、繋いだ手とは反対の手で静かに本を読む。

握ってくれている手がどちらの体温なのか心地よく熱くなっていった。



……どうやら僕もベットサイドで寝てしまったらしい。

陽も傾きかけた頃、エレンが僕の前髪をさらさらと触る感触で目が覚めた。


「ごめん起こしちゃった。本当に寝て起きても一緒にいてくれると思わなかった。幸せだわ」

そう言って笑うエレンの顔が眩しくて、目を細める。片手はしっかりと握ったままだ。


今まで生きてた中でこれ以上の幸せがあっただろうかと感動し、これから幸せは更新されていくのだろうと思うと、必然的に顔がにやけた。

すると、突然キャアとエレンが悲鳴をあげた。

どうしたの?にやけた僕の顔気持ち悪かったかな??

「エレンどうしたの?具合悪い?直ぐにお医者さん呼ぶから待ってて」

僕も慌てているが、エレンも慌てている。

「しなくていいしなくていいから」

「でも…」

食い下がろうとする僕に、エレンは本当にか細い声で理由を言ってくれた。

「私、お風呂入れてない。ウィルこんなに近くにいるのに…に、におうから…」

恥ずかしそうに俯くエレン。そんな様子を見ながら、何だ嫌われたんじゃないんだ、良かったと言う思いと、恥ずかしそうで可愛いなという思いで、にやにやしてしまう。


「大変だったんだからそんなこと気にならないよ。熱が下がったばかりなのにそんな気にしないで」

「私が気にするの!早く、出てって直ぐに。でも、呼ぶから、呼ぶから、帰らないでね?お願い」

あまりに必死なエレンにそれ以上言う事もなくなり、暫く客室に戻り勉強する事にした。

帰らないでって懇願するエレンが可愛かったな、なんて考えていたら、時間はあっという間に過ぎ、そうこうしてるうちに再びエレンに呼び出され、また部屋に入ると、今度はふんわり良い匂いがした。


湯上りのエレン横には夕食の用意がしてあった。

「夕飯も一緒に食べましょう」

「良いね、そうしよう」

昼からの定位置のベットサイドに座る。僕が、自分の食事を食べようとするとエレンが頬を染め下から見上げてきた。


「もう、食べさせてくれないの?」


かっと顔が赤くなる。さっきは看病だと思ってたから出来たけど、今は割と元気になったエレンにそう言われるのは恥ずかしい。というか、さっきも恥ずかしかったのだろうか?そういや、エレンは一口目躊躇ってた気がする。頬に熱が集まるのが止められない。けれど、可愛いエレンがそう聞いてくれているのだから、僕も男だ、腹をくくろう。

「じゃあ、行くよ?はい、あーん……」

「ん……」


僕もエレンも真っ赤になりながら、僕がスープを一口掬って食べさせようとした時。

ドサッとした音が部屋に響き渡る。僕とエレンが音のした方に目を向けると、苦い顔をしたギルが立っていた。

足元には本が何冊か落ちており、先程の落下音はそれだったのだとわかる。


「……すまない。来る時間を間違えたようだ」

「ギル?!!」

「お兄様!!!」

僕とエレンが2人同時にギルを呼ぶも、ギルは踵を返すとそのまま部屋を出ていってしまった。

引戸であるドアを間違えて押して開けようとするくらいには慌てていたようだ。


「なんだか、お兄様に悪いことしちゃったわ……」

少ししょげるエレン。

「後で謝っておくよ」

しかし、どう考えてもギルが失ったものは何も無く、僕達が失ったものの方が大きいような気がしてならないのだった。

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