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155.元気になったウィル

二人の間に沈黙が訪れる。僕の脳内はエレンの言葉でザワザワし始めた。


あれ?エレンは今何て言ったんだっけ?僕のこと好き?都合の良い幻聴?だってカインは?


僕は素面でそのまま思ったことを反射的に口に出してしまった。


「え……?だって、エレン。君はカイン様が好きなんじゃなかったの?」

「何それ。ウィルのバカ」

「ちょ……待って待って。本当に?もっかい言って」

「ウィルのバカ」

「そこじゃなくて!あ……まさか友人として好きってこと?気を使ってくれた?」


あまりの自体に思考力が低下した上、饒舌になっているようだ。このままいくと残念なことばかり喋りそう。


「ウィルのバカ。ウィルが好き。私…カイン様じゃなくてウィルとずっと一緒にいたい……」


エレンが眉根を寄せて切なげに言う。

エレンの言葉をきいた僕は思わずエレンを抱きしめていた。


「ありがとう。僕もエレンが好きだ」


涙声なのは、実際に少し泣きそうになっていたからだ。

エレンも掛布の上に出ていた片手を僕の背中に回して抱き返してくれた。


二人の間に再び沈黙が訪れる。しかし、今度の沈黙の何と素晴らしかったことか!


僕は、エレンはカインが好きなのだと思っていたけど。

……違ったんだ……。しかも、ずっと僕と一緒にいたいって……。

まさかまさかまさか、僕が好きな人とじゃないと結婚したくないって話していたのを受けてのずっと一緒にいたい発言?僕と結婚してもいいと思ってる?

僕とエレンじゃ身分的に釣り合わないと思うけど……エレンはそれでもいいの?

僕1人で考えだけ先走ってる?


色々な思考がぐるぐると頭を巡る。


自分、落ち着こう。

もうちょっと自分の中で整理してエレンの体も回復してからだな。


僕は上体を起こすとエレンの頬に自分の手のひらをすべらせ、そのまま優しく撫でながらささやいた。

「まずはエレンは元気にならなくちゃね。それから、先のことを相談しよう」

「ええ……」

エレンがコクンと頷く。

それは、恋人たちが未来の約束を視線だけで確かめ合う素晴らしい時間だった。



***



その後、エレンは再び眠りにつき、医師の診察もあるとの事だったので僕は一旦部屋を退出した。


落ち着かなくって、医師の診察が終わりそうな頃合を見てエレンの部屋の前に向かうと、そこにはギルの姿もあった。

ギルに声をかける前に、エレンの部屋のドアが開かれ医師が出てくる。

後ろに控えていたエレン付きの侍女は明るい顔をしている。

医師は部屋の外にいる僕達に気がつくと一礼して言った。


「良かったですね。王女殿下はもうご心配ありません。峠は越えました」

侍女の顔が一層輝き、彼女の上司であるセグルスに報告するのだと言ってそのまますっ飛んでいった。

ギルは感謝の言葉を述べながら医師とがっちりと握手をしている。

「何よりも本人に生きる活力があるのが良いです。昨日とはまるで違うので驚きました」


医者の言葉で確信した。


エレンが快復に向かっているのは、愛の力だ。僕との!!

もちろん口が裂けてもそんなことは言えないけど。


「回復のためには、あとは良く栄養をとることです」

医師の言葉に僕は思わず聞き返していた。

「栄養……。それには精神的なものも含まれますか?」


僕の発言に医師は一瞬怪訝な顔をして返答した。


「野菜やタンパク質ですね」


医師の返答に僕は冷水を浴びせられたような気分になったが、これが至極もっともな返答なのは間違いがなかった。

僕は言うなれば、聞く相手を間違えただけだ。



医師を見送った後、ギルが呟いた。


「……思った通り、効果てきめんだったな」

「え?」

何のことだろう。ギルの言い方に腑に落ちないものがある。

「それで、妹の病気を回復させるなんてお前はどんな魔法の言葉をつかったんだ?」

「ええええっ?」


ギルの声色は柔らくて、語りは疑問文だったけれど、本気で僕が答えるのは期待していないようだった。

まさか、ギルにはお見通しなのか……?


「ウィル、顔が真っ赤だぞ」

「……っ」


そんな事ってあるだろうか?

僕は自分の気持ちをギルどころか誰にも話したことはないのに。


言葉にしなくても僕の疑問がギルには伝わったらしかった。


「ずっと2人の傍にいたんだ。様子を見てれば何となくわかる。でも、ウィルがそれ程赤面するのは想定していなかった」

「好きだって言ったの思い出したら、顔が爆発しそう……」

「とにかく、妹が助かったのはお前のお陰だ。ありがとう。大事な片割れを失わずに済んだ」


エレンが助かった安堵と喜びをギルと分かち合う。


「いや……危険な目に合わせてしまって申し訳ないと思ってる。僕がもっとしっかりしていれば……」

「無事に連れ帰ってくれただけで感謝しているよ。私も思慮が足りなかった。しかし……あの後お前たちに何が起こったのか聞かせてくれないか?」

「場所を変えよう。結構長くなると思う」


あの水路に、ローザの存在。

廊下で立ち話にするような内容ではない。

僕とギルは連れ立ってギルの部屋に向かうのだった。

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