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153/164

153.告白

夢を見た気がした。

向こう岸には一面の花畑。

様々な種類の花々が咲きみだれ、現実味がない。

「この花は本物なのだろうか、それとも丹念につくられた造花なのだろうか―――」

そんなことを対岸の僕はぼんやりと考えているのだった。



気持ちの良い暖かさと瞼の裏からの光を感じて、僕はうっすらと目を開ける。

目の前には、柔らかい金髪を揺らし、端正に整った顔立ちをした、僕の好きな人によく似た顔があった。


「――――ギル」

思わず目の前の人物の名前を呼ぶと、ギルの翠色の瞳に安堵が広がった。

「気がついたか。本当に良かった」

「ここって?えっ!??」


ギルが目の前にいることに驚き、僕は上体を起こした。僕の体は新しい清潔な服をまとい、ふかふかのベッドの中に沈んでいる。

肩の傷などは手当てがされているようだ。


「王宮の客人用の一室だ。一昨日倒れてそのままずっと寝てたようだな」

「……。一昨日?!!服も変えてあるし……今は朝なの?一体どうなってるんだ?エレンは?ライラは?」

「ライラとヨシュアは見つけたし、私達の方は何の問題もなかった。むしろ大変だったのはお前達だったな」

ギルの言葉に、ライラはやっぱり大丈夫だったんだと思うと同時に、エレンについての言及がないことに少し不安を感じた僕は、再びギルに問うた。

「……エレンは?」

ギルの顔が一瞬で厳しい様相を呈す。


―――悪いんだ。

僕の心臓が嫌な音をたてて鳴った。


「高熱が出て下がらない。……意識も朦朧としていて先程も酷くうなされていた。後で見舞いに行ってやってくれ」

「そんなの、すぐに行くよ!」

僕は慌ててガバッと起き上がると急いで靴を足につっかけた。

「お前は平気なのか?起きないから心配していたが」

「全然元気!ああもう、誰か起こしてくれれば良かったのに」


エレンに傍にいるって言ったのに。急がなきゃ。


そのまま急いで部屋を出ると、部屋付きの女官だろう人物がドアまで追いかけて僕の背後から叫ぶ声が聞こえてきた。


「ウィリアム様!安静にしてください!医者を呼びますから診てもらわなくては」

「後でね!」

そう返事をして早足でエレンの部屋に向かう。


エレンの部屋に着くと、侍女が1人出迎えてくれたが彼女の目は真っ赤に腫れていた。その姿に一気に不安が煽られる。


「……エレンは?」

恐る恐る訊ねると、侍女が答えてくれたが、話が進むにつれてその目は涙に曇り、声も掠れがちになるのだった。

「エレノア様は高熱がずっと続いております。少し寝てはうなされての繰り返しで、私たちの呼び掛けも分かってらっしゃらないご様子です。とてもお気の毒で……」

そういう侍女もすっかり憔悴しきっていて、痛々しい。僕は彼女もお気の毒だと思った。

医者に何度訊ねても、『今は様子を見ましょう。あなた達のお世話が肝心です』としか言われないと愚痴を零した侍女。


そんなに悪いんだ。


はやる気持ちのまま部屋の中に進む。エレンの部屋に入るのは、そういえば初めてだった。

部屋の真ん中のベッドに臥していたエレンは、熱のためか苦しそうな息遣いをしている。

「しばらく前にまた眠りについたんです。ウィリアム様、お茶をご用意いたしますので少々お待ちください」

侍女はそういうと部屋を出ていった。


「エレン、遅くなってごめん……」

僕はエレンのベッドの脇の椅子に座り、エレンに話しかけるも当然のごとく返事は返ってこない。

エレンを眺めながら、昨日2人でたゆたった洞窟の暗がりを思い出す。

川に落ちた瞬間は、もう駄目かもしれないと思った。

その後の暗闇の中では、気を抜けばすぐにでも不安と絶望に押しつぶされそうだった。

エレンがいたから自分を保てたのだ。

そのエレンは今や額に汗をかいて苦しそうな呼吸で喘いでいる。

僕の事を認識している様子はなく、ただ苦しそうなのだ。


割と長い間そうして時間を過ごしていたのだろう。先程の侍女がやって来てベッドの近くに置かれたサイドテーブルに紅茶を置いてくれた。僕は侍女に訊ねる。

「エレンはずっとこの状態なの?」

侍女はこくりと頷くと言った。

「熱が引けば意識は戻ると思うのですが……」


その言葉を聞いて僕はぞくりとした。

前世と違って、この世界では原因不明の熱病に罹って亡くなることは割と現実的な事だった。前世ほど医療水準が発達していないのだ。


侍女は一礼すると隣室に引き下がっていった。気を使ってくれたのかもしれない。

僕は再びエレンを見る。


王宮に来たからもう大丈夫だと思ったのに。

せっかく昨日の洞窟を乗り越えたというのに、まさか、ここで……?

そんなのは十分ありえる話だった。


僕はベッドの前に膝をつき、祈るようにエレンの手を握りしめ、頭を垂れた。

昨日感じた死の影がまだここまで続いてる。


「エレンがいなくなってしまったら、僕は生きていけない」


「好きなんだ……」

思わず本心が口をついて出た。


エレンが好きだ。

彼女がいない世界なんて考えられない。

どうか――――

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