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150.やっとウィルのターン

「エレンッ」


足元から崖を滑り落ちるエレンの体を右腕で抱きとめるも、重力に抗えずに2人で一緒に岩肌を滑り落ちていく。

僕の左腕は松明を持ったまま岩肌の側面を擦り、服の袖が見る間に摩耗していくも残念ながら止まる気配はない。松明の明かりが岩をなぞり火の粉を散らして、僕の頭にかかる。

熱い――と思った次の瞬間には僕とエレンは足先から冷たい川に潜り、水に物体が落ちる音が洞窟内に広がっていく。

僕は水中でエレンを抱き締める。

川の流れは僕達を引き離そうとするけれども、ここでエレンを離してしまったら、僕は一生後悔するだろう。

息ができないまま、エレンの髪に顔を埋める。


崖からの転落で、反射的に脳裏を掠めた″死”という文字。

地面に叩きつけられなかっただけマシなのか、水の中でこのまま死ぬのか……。

服越しに伝わるエレンの感触は柔らかいけれど、水の冷たさに体温は伝わらない。

エレンがこのまま死んでしまうなんてことがあるだろうか。

そんな事は絶対に嫌だった。

エレンが助かるなら僕は終わってもいいかもしれない。エレンのために落とす命なら僕は価値を見いだせる。そうしたら、エレンは一生僕の事を忘れたり出来なくなるだろう……。

それも難しいのだとしたら。だったら、最後まで一緒にいよう。


様々な思考が形にならないまま霧散していく中、束の間にそんな事を思う。

水中にいたのはどのくらいの時間だったんだろう。

一瞬だったような、もっと永かったような。

やがて水の中で僕とエレンを引き剥がそうとする力は感じられなくなり、僕は必死で浮力を感じる方に向かって足をばたつかせる。



「ぷはっ」

水中から顔を出した僕は、息を吸い込みエレンを見る。ささやかな息遣いは感じるけれど、意識はない。気絶してるのだろうか。

残念ながら、ゆっくりとエレンの状態を確認できるような状況ではなかった。


辺りを見回すと、先程の洞窟の、二股に道が分かれた辺りまで流されて戻ってきたようだ。

向こう岸に、さっきまで歩いていた道が見える。

岸に向かって懸命に泳ぐも、2人分の体重を抱えてはたどり着けないままに水流に流されていく。


そのうちに川の両側は登れそうもない岩壁がそびえ、天井から時折見えていた空の隙間もない完全な洞窟の闇の中に川の先が飲み込まれていくのが見えた。

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