146.分岐
「上から落ちて……そのまま死んだのか……」
アルベルトが松明の明かりを白骨死体の周辺に振りかざし、この気の毒な死者に最後に起きた出来事を推察する。
死体は天井の穴から落ちてきたであろう土や木の枝葉に所々埋まっている。
アルベルトが死者の体に積み重なった土や葉を軽く払いながら言った。
「古臭いが割と身なりがいいな。どこかの貴族の男性が、足を滑らせたか……。手に何か持っている」
アルベルトは屈むと白骨死体の右手に握られていた皮袋を掴み、片手で中身を検分する。
「金貨か……。結構な量だな」
「……奥にもう1人埋まっているようだが」
ギルが十時を切りながら言った。
アルベルトが死者を覆っていた土や葉を払った事で、最初に見つけた白骨死体とは別の骸骨の一部が顕になったのだ。
「こちらは……服装から見るに女性、使用人か……?気の毒に」
アルベルトは金貨の入った皮袋を男性の骸骨の横に戻し、死者たちに丁寧に土をかけ、立ち上がった。
「行きましょう。ここには用は無いですよ」
一連の出来事の間、僕は震えているエレンを支えていた。
大丈夫だから、と繰り返す僕に、エレンの返事はない。その代わりに僕の体にしっかりとしがみついている。
アルベルトの隣にいたギルが僕達の方に向き直り、エレンに話しかける。
「エレン、すまなかった。早くここを立ち去ろう」
エレンが声を出さずに頷く。
それから、ギルは申し訳なさそうな顔で続けた。
「ウィル、エレンを連れて学園に戻ってくれないか?私は……先程の分かれ道に戻って右に進んでみる。ライラ達が心配だ。エレン、こんな時に一緒にいてやれなくてすまないが……」
エレンが首を横に振り、掠れた小さな声で言う。
「ウィルがいるから大丈夫……」
エレンの返事を聞いて僕とギルは頷き合う。
「エレンを王宮に送ったら、応援を頼んてくるよ」
「ああ。近衛隊長のハンスに話を通せ。この洞窟のことは公にはしたくない」
「ルークのじいちゃんだね。わかった」
ギルとアルベルトは急ぎ足で来た道を戻っていく。
遠ざかっていく2人の背中を見送りながら、僕とエレンもゆっくり同じ道を進んでいく。
「エレン、大丈夫?少し休んでから行こうか?」
「いいえ、歩くわ。ここに居たくない」
顔面蒼白なエレンを支えながら傾斜を下っていく。
「足元気をつけてね。隣は川だし踏み外したら大変だよ」
「ええ。……あら?」
「どうしたの?」
「ヒールが地面に刺さっちゃったみたい。ちょっと待って、抜くから……」
エレンが少し身を屈めて地面の窪みに挟まった方の靴の踵を左右に揺らして靴を引き抜こうとすると――――
「―――!?」
地面の窪みから亀裂が入り、そのままエレンの足元が崩落した。
「エレンッ―――」
エレンを支えていた方の手に力を込める。
けれどもエレンの体は重力に引きずられ、一瞬のうちに僕も共々、道の隣を流れていた川の中に飲み込まれてしまった。




