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143.出会い

「あの……君たちはどこから来たの?」


いきなり話しかけてきた若者は、どことなく飄々としていて、話終わると首を少しだけ傾けて口角を上げた。その様子が何となく人懐っこい。

細身の体にまとったジャケットとズボンは、仕立ては良いが土埃がついている。

最初の驚きが収まりつつあった私は、若者に返事をした。


「いきなり驚かさないで。そもそもあなた誰?そっちこそ、何故こんな所にいるのよ」


こんな薄暗い、滅多に人が通らない場所で話しかけられたら誰だって驚くに決まっているが、驚かされたおかげで少し言い方がきつくなってしまった。


「ごめんごめん。まさかこんな場所で人に会うとは思ってなかったから。自己紹介から始めようか。僕はヘクター」


ヘクターと名乗った若者は、私の文句に気分を害する様子もなく笑いながら謝罪した。歳は20歳くらいだろうか?アルベルトと同じくらいに見える。


「私はライラ。で、こっちがヨシュア」

「初めまして、ヘクター。早速ですが、僕達は迷い込んでしまってほとほと困っているんです。ここから出るにはどうすれば良いのでしょう?」


ヨシュアが、子猫のような、それはそれは庇護欲をかき立てられる姿と声音でヘクターにたずねた。

私の前とは態度が全然違う。変わり身が早いというか……。まったくヨシュアには呆れてしまう。


「出口か……。まいったな。僕も探してるんだ。君達が何か知らないか期待して話しかけたんだけど」


ヘクターが困り顔で答えた。

ヘクターの答えに落胆しながらも、私は新たな疑問を彼に投げかけた。


「ちなみにヘクターはどうやってここに来たの?」


年齢的に学園の生徒ではなさそうなヘクター。私たちと同じ、礼拝堂の秘密の扉からここにたどり着いたようには見えない。

ヘクターは首を横に振りながら私の疑問に答えてくれた。


「王都の近くの森で泥棒と揉み合っている最中に崖から落ちてしまったんだ。しばらく気絶して、目が覚めたらここに居たって訳」

「王都近くの森?じゃあここは既に王都の外なのね……」


私は唖然としてしまった。

洞窟の天井、岩壁の隙間から見える空の下は王都の外であるらしい。


「ねえ、その崖って登れないの?」

「もし簡単に登れる崖だったら、こんな所をさまよってないよ。かなり高かったから」

「ふうん。ケガは?よく無事だったわね」

「諸々運が良かったんだろうね。そこだけはラッキーだったよ。君たちの方はどうやって来たんだい?」


ヘクターの疑問に、今度はヨシュアが答える。


「僕達は、ある建物の地下に洞窟を発見して進んできたんです。というのも、建物の地下に偶然閉じ込められてしまって。その建物と地下を結ぶ扉は、入ることはできるが出ることは叶わない作りになっていました」

「押しても引いてもビクともしないし、やりようもなかったわ。それで道が続いていたからそのまま進んだんだけど、まさか王都の外に出るなんてね。お腹も空くし……」


ヘクターに私たちの辿った経緯を説明する中でついつい愚痴もこぼれてしまった。


「それは大変だったね。そして、僕も君たちも、それぞれ一方通行の道から来たって訳だ。うーん……。そうしたら、出口がある可能性があるのは、僕も君たちも通っていない、あっちの道かな」


ヘクターは、私たちの視線の先、二又に別れている洞窟の右を指し示している。


「そういう事になるわね。ここで話をしていても何にもならないし、行きましょうか」


早速歩き出す私の腕を捕まえてヨシュアが小声で話しかける。


「おい、あいつの事信用する気か?かなり怪しいぞ」

「怪しいのは私たちも同じよ。どうせ二又の道のどっちかを選ばなきゃならないんだもの。可能性が高い方に行きましょう。それに、ヘクター、悪い人には見えないわよ。実際、服も汚れてて確かに崖から落ちたって言われればそんな感じだし」

「人を見かけで判断するな」

「……。ヨシュアが言うと説得力あるわね」

「それ、感心する所じゃないから。わざと嘘をつかれている可能性は?下手したらこの秘密の洞窟の秘匿のために、殺されるかもしれない」


ヨシュアは、ヘクターが、この秘密の抜け道について何かを知っている可能性を考えているようだ。


「いざとなっても、ヘクターは武器を持ってないみたいだし、今なら2対1。勝てるわよ。それに、もしヘクターがこの抜け道を使って何かをしている組織の人間なら、少なくとも組織のボスに私たちを引き合せるんじゃない?それなら洞窟の外に行ける」

「……どうだか」


ヨシュアは私の腕を離して洞窟の奥に視線をやった。


「おーい!早く~!あっ、まさか、別々に行くつもりだった?!旅は道連れっていうでしょう!?」


私が歩きだそうとしたのとほぼ同じタイミングで歩き出していたヘクターが、私たちの少し先で手を振って私たちを呼んでいる。


「ここで色々考えたって仕方ないか」

「そういう事。でも確かに、何か変なことが起きたらすぐに対応できるように気をつけておかなくちゃね」


ヨシュアと2、3の言葉を交わし、私はヘクターに手を振りかえす。

こうして、私とヨシュアにヘクターを加えた3人は、道を進んでいくのだった。


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