140.洞窟(ライラ視点)
洞窟は結構な距離で先まで続いているようだった。
進むにつれ、直発光する鉱石が岩壁の間に垣間見えるようになり、洞窟の中は思ったよりも暗くない。
少なくとも、松明の明かりとの併用で歩くのに支障のない程度には足元が照らされていた。
岩壁には一定間隔で四角くくり抜かれた箇所があって、それは燭台とか何かを置くようなスペースのように思われた。
そのことはこの洞窟が自然にできた洞窟に人の手が加えられたものだということを指し示している。
「……秘密の抜け道を見つけてしまった感じね」
「一体何が目的でこんなものが……」
「さあ?ヨシュアの方がこういう事は詳しいんじゃないの?教会に併設されている洞窟って結構あるのかしら?」
「そんな教会、ちょくちょくある訳ないだろ。少なくとも僕は初めて見る。こんな……先の先までずっと続くようなのは」
「そう。歩いてればどこかにいずれ着くでしょ。着いた先がわかれば、目的の推論も少しは精錬されるかもね」
「お前、結構度胸は座ってるよな……」
ヨシュアと軽口をたたきながら進んでいく。
静かなよりは、悪態でもいいから騒がしい方がよい。
いつの間にか、私たちの声に混じって水のせせらぎが遠くで聞こえるようになった。
進むにつれ洞窟の天井が高くなり、ある一定の地点まで進んだら、私達はついには岩壁の隙間から見える夜空を発見した。
今夜は満月。月明かりが洞窟の僅かな隙間からこぼれ落ちてくる。
「やだ、いつの間にか夜だわ!」
「そこかよ!壁は登れそうもない程に高いし、登った所であの隙間じゃ出られないか。あ~あ、好奇心は身を滅ぼす、か。神よ、助けたまえ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、よ。外と繋がってることは良い事だわ。いずれ外に出られそうな希望がわいてくる!あ、ヨシュア、水!小川が流れてる!」
「おい、待てよ!急に行くな!僕を置いてくなよ」
私は視線の先に見えた小川にかけより、水を片手ですくって飲んだ。
「あ~、癒される!歩きどおしで喉が乾いてたの」
「お前なあ……」
ヨシュアは呆れながらも私の隣に来て水を飲んだ。そうして、そばにあった大きな石の上に2人で並んで休憩をする。
上から月明かりは降ってくるし、水のせせらぎが傍で聞こえるこの場所は、景勝地と言ってもいいかもしれない。
知らない道に迷い込み、いつ帰れるかも見通しがたたない状況で、景色を楽しむには少しばかり暗すぎるということを除けば。
「お腹空いた~!」
「言うな。余計お腹すく」
「ねえ、何が食べたいか言い合いっこしない?」
「それ、何のためだよ。余計にむなしい」
ヨシュアと話しているうちに、私はふとある事を思い出し、ポケットの中をまさぐってみる。
「……あった!」
私のポケットの中に、個包装されたラブリースマイルハートクッキーが1枚あった。
1枚のクッキーを前に、思わずごくりと唾を飲む。
とても美味しそうだ。
ふと横から感じる視線の先に目をやると、ヨシュアがこっちを見ている。
私は再びクッキーに視線を戻した。
……ヨシュアにラブリースマイルハートクッキーを食べさせるチャンスだわ。
しかし、空腹の今、理性ではなく本能に従うならば、クッキーは自分で食べてしまいたい。前回、プレゼントしようとして散々にこき下ろされた事を思い出すと、こんな状況でヨシュアにあげるのは癪にさわる。
「……」
私は首を横に振ると、ハート型のクッキーを2つに割って片方をヨシュアに差し出した。
全部ヨシュアにあげるのは余りに悔しいので半分だけあげることにしたのだ。
「はい、あげる」
「……ありがとう」
ヨシュアはお礼をいってクッキーを受け取ると一口食べた。
「美味しい」
私も続いて一欠片を口に放り込む。
「……なにこれ。何か変な味」
「……自分で作ったやつじゃないの?」
……そういえば、ラブリースマイルハートクッキーは手作りという設定でヨシュアに渡してたんだっけ。
「…そうだけど。味見はしないから」
「何だそれ」
そうして、ヨシュアと一緒にクッキーを食べながら、疲れた疲れたと愚痴を言い合う。
その私たちの会話がふっと途切れた瞬間。
「あの……君たちはどこから来たの?」
「「…………ッ!!!」」
予想しない方向からの突然の声に、私とヨシュアは総毛立った。
2人で声のした方に視線をやれば、割と身なりの良い若者がランタンを持って私たちを見ていた。




