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139.地下聖堂イベント(ライラ視点)

ヨシュアの恋愛イベント発生条件を満たした私は、早速礼拝堂にいくと意気揚々とヨシュアに話しかけた。



一瞬嫌な顔をされた気がしたけど、案の定、追い返されるような事はない。

ウィルからも聞いていたけれど、恋愛イベント発生時の拘束力は凄いわね!一体この世界はどうなってるのかしら?

まあ、そんな考えても無駄なことはどうでもよく、今はただ、ヨシュアとの好感度を上げることに専念しよう。



ヨシュアと私は、偶然にも(!)祭壇の裏側、敷布された机の下の床に扉を発見する。大きさとしては、扉というよりかは少し大きめの窓だ。


謎の扉の出現に、ヨシュアは大変驚いていた。

私の方は、前世のゲームで既に何度も体験済み。この世界が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界なのだと現実から改めて突きつけられた事に対する感慨はあっても、扉の出現には今更驚きもない。

けれど、ヨシュアの手前、驚かないのも体裁が悪いので、わざわざ驚いたフリをする。


「扉!?どうしてこんな所にあるのかしら?」


……。はあ、不毛だけれど仕方ない。


「……ねえ。何だかセリフが棒読みなんだけど。もしかして驚いてない?」

「そっ、そんな訳ないじゃない!何言ってるのよ!それより、ちょっと開けて見ましょうよ」


まさかのヨシュアの突っ込みに慌てて否定する。


いかんいかん。ちょっと返事が適当過ぎた。もっと女優にならないとだわ。


2人で協力して力いっぱい扉を開けると、折り返しの階段のその先に地下聖堂らしきものがあるのが確認できた。

扉を開けた付近には、ご丁寧にも松明もある。

当然の成り行きのごとく、地下聖堂にテンションが上がったヨシュアと一緒に地下に降りていく事になった。

地下に続く階段はあまり長くなく、ほどなく階段を下まで降りて地下聖堂の床面に降り立った。



それなりの広さのある地下聖堂の真ん中には、松明の明かりを受けて白く輝く十字架が立っていた。

前世に存在していた某宗教とシンボルが同じだけれど、この世界の宗教とは別物である。乙女ゲームの世界で攻略キャラに聖職者関連が登場するという事は、何らかの宗教が存在するということでもあるが、ゲームのタイトル画面の後に表示される「ゲーム中の団体は全てフィクションで実在する団体とは無関係」という注意書きが示すとおりなのである。



「学園にこんな場所が存在するだなんて……」


私が前世の某宗教が乙女ゲームに及ぼしている影響について考えている一方で、ヨシュアは十字架を前にただただ息を呑んでいる。

私はヨシュアの横に立つと黙って十字架を見つめた。


………。よし、これでよし。


本当にこれで好感度が上がったのかしら?


イマイチ実感が湧かないけれど、ゲームの恋愛イベント通りだから問題ないのだろう。

ゲーム中では、「2人で十字架を見つめた」でイベントは終わっていたのだから。


「……あれ?何だ?十字架の根元に何か彫ってある」


ヨシュアの言葉にそちらを見た私は思わず息を呑む。

「こんなものが存在するの?」

彫られた形が、『ときプリ』のタイトルロゴのシルエットに激似だったのだ。

シルエットだけで、流石に日本語では書かれていなかったけど……。

いやいや、単なる偶然だろう。十字架だって、シンボルとして使われているくらいだもの。

思えば恋愛イベントも発生するこの世界、タイトルロゴの名残くらい何処かに残っていても良いのかもしれない。


「何の象徴かわからないけど……、十字架に書かれてはいるけれど、この歪な形は神を現すものではないと思う。神は規則正しい対称の中に顕れるものだから」


神を現すものではない、か。

ヨシュアの言葉に、確かに『ときプリ』のタイトルロゴじゃあね、と何となく納得する私。


「かといって、悪魔でもない。教会の人間は、悪魔を表現するのにわざわざこんなわかり易い歪な形は取らない。悪魔というものは、神に似た姿をして人々に悪徳を囁くものだから」

「歪って言うけど、そこまでかしら?」


『ときプリ』のタイトルロゴが可哀想になってきた。


「神の創造物を歪めて表現する事で何らかの教訓を伝えようとする物だと思うけど……」


アカン、ついていけないわ。

聖職者ってどうしてこう観念的なのかしらね。

ほっとこう。

恋愛イベントも無事消化した訳だし。


「取り敢えず、一旦戻りましょう」


ヨシュアを促して階段を登る。


「あれ……?」

「何だよ、早く進んでよ」

「扉がいつの間にか閉まってる……。開かないわ!!」



***



「……とうするんだよ」


膝を抱えて十字架の元に座り込んでいるヨシュアの顔色は冴えない。

あの後、何度も2人で扉を開けようと奮闘したものの、扉は一向にびくともしなかった。


「ライラが行くなんて言うから」

「誘ってきたのはヨシュアでしょ」


そうは言いつつも、恋愛イベントを起こそうとした私のせいだろう。

外に出られなくなるなんて想像してなかったけど。


「まったく……こーゆーオチがあるなら、ゲーム中でちゃんと教えておいて欲しかったわね」


ヨシュアの隣に座ってため息をつく。

地下聖堂とはいっても、周囲の壁は、掘ったままの岩壁だ。

荒々しい岩肌を眺めていると、頬にひんやりとした風があたる。


「……ん?風?」


不思議に思って松明を持って近づいてみると、どうやら聖堂の奥は洞窟が続いている。


「ライラ?何してるんだよ」

「ヨシュア、ここ見て。洞窟が奥まで続いてる」

「一体、ここはどうなっているんだ?」


地下にわざわざこんなものを作るなんて、何か理由があるんだろう。

どこに続いているかもわからない。


ただ、来た道が戻れない以上、目の前に道が開かれてるなら、その道を行くのが道理というものだ。


「扉は開かないんだし、進むしかないわね。……行くわよ!」

「……マジかよ……。……って、ちょっと待て、僕を置いていくな!」


私が洞窟に進んでいくのを見たヨシュアが慌てて追いかけてくる。

そうして私達は2人で洞窟の中を進んでいった。


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