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137.新入生歓迎パーティー 残響

「ウィリアム様~~~!!!!」


ホールに戻った僕を待ち構えていたのは、カトリーヌが僕を呼ぶ声だった。


「カトリーヌ嬢…。もう少し静かに登場できないの?」

「聞いてくださいませ!ルーク様が!ダンスの時に!『……行こうか?』ってさり気なく誘って下さったんです!超かっこよかった!」


僕のツッコミをそのままスルーして、カトリーヌのマシンガントークが始まった。

話の内容から察するに、どうやら無事にルークとダンスを踊れたようだ。

好きな人と踊ったダンス、宝石のように輝く時間だったんだろう。今の僕にはカトリーヌの気持ちが心の深いところでもってわかる気がする。


「カトリーヌ嬢、おめでとう。良かったね」

「これもウィリアム様とディーノ様のおかげです!ありがとうございます!良かったら、友情の証に私と踊りません?」

「……やめとくよ」

「どうしてですか?!この間みたいに引っ付いたりしませんよ。ちゃんとまともに踊りますから」

「……ちょっとさっき足を痛めたみたいだから」


本当は、足なんて別に痛めてない。エレンと踊ったダンスを上書きしたくなかったし、もう少し感慨に浸っていたかったから、しつこいカトリーヌに僕は嘘をついた。

それにしても、″この間″というのは、平和の祭典の時のことか。本人にもまともじゃない自覚があったようで何より。


「まあ。ちょっと軟弱すぎじゃないですこと?見せてくださいまし」

「大したことないし、休んでれば大丈夫だから」

「そうですか……」


なんだかんだ言いつつ心配してくれているらしいカトリーヌ。その様子を見ていたら、ちょっと悪い事した気分になってしまった。

そこに通りがかったのはディーノだった。


「あ!ディーノ様!」

「ウィリアムにカトリーヌか」


カトリーヌの声に気づいたディーノはツカツカと僕達の所にやってきた。

相変わらずの早足である。


「ディーノ様、ごきげんよう。お陰でルーク様と踊れました!ありがとうございます」

「良かったな」

「ディーノ様は誰か踊りたい方とは踊れましたか?」

「……まだだな。ウィリアム、ライラを見なかったか?折角だから踊ろうと思ってるんだが」


ディーノのやつ、ライラと踊りたいのか。

この2人の関係はいまいちよくわからない。ダンスの得意なディーノの事だから、単純に上手い人と踊りたいだけなのかもしれないけど。


ライラはヨシュアを『選択』したと言っていた。新入生歓迎パーティーのダンスイベント、複数の攻略キャラと踊ることはできるのだろうか?前世のゲーム上では選択したキャラとしか踊ってなかった。

しかし、この世界の現実ではゲームに描かれてない事象も起きているから何ともいえない。

『選択』で親密度の高いキャラを選べば、ダンス後は恋愛イベントが発生するから、他のキャラとダンスはできないだろうけど、ヨシュア相手にイベントが発生するとは考えにくい。


「ライラ?さっきまで居たけど……」

「ライラさんが見つかるまで、良かったら私と踊りませんか?」


僕が前世のゲームについて考えながら、曖昧な返事をする横でカトリーヌがディーノにダンスを申し込んだ。


もしかして、カトリーヌはディーノにも友情を感じているのだろうか。


「お前と?……必要以上にくっつくなよ。平和の祭典の舞踏会でウィリアムと踊った時のような振る舞いはごめんだぞ」


ディーノがカトリーヌに答える中で、平和の祭典での僕とカトリーヌのダンスをディーノが見ていた事を僕は知った。

どれだけ目立ってたんだ……。


「大丈夫です!あの時は、色々必死で巨乳アピールしてたんですけど、ディーノ様にはそんな必要ありませんから」

「はあ?!あれがアピール?逆効果だろう!しかも、男の前で巨乳とか普通言わないだろう!お前、男女の距離感というものがまったくわかってないな!」


カトリーヌの言葉に、ディーノの中の何かのスイッチが入ったみたいだ。

普段大きく表情を崩すことのないディーノが、顔を歪めて声を荒らげた。


「ディーノ様もわかっているとは思えませんけど……。普通、女性にはそんな風に大声でまくしたてないと思いますが」


とぼけた感じでディーノに答えるカトリーヌには、どうやらディーノの怒号に対する耐性がつきつつあるようだ。


「調子が狂う……。まあいい、踊りに行くぞ」

「はーい。足踏まないでくださいよ」

「貴様、僕を誰だと思ってる?」


暖簾に腕押しのようなカトリーヌの様子に、ディーノの毒気も抜かれたようだ。

憎まれ口を叩きあいながらディーノとカトリーヌがホールの真ん中に向かって行く。

ディーノ、カトリーヌとも踊るんだ。

もしかしてディーノは単なるダンス好きなのか。

うん、単なるダンス好きなんだろう。



……そういえば、ギルはライラと踊れているかな?


ディーノとカトリーヌがいなくなり、再び1人になった僕はぼんやりとホールの中心を眺める。

シャンデリアの下、くるくると回る男女は皆楽しそうだ。

さっきまでエレンと踊っていた感覚が僕の中に蘇る。

本当に、かけがえのない時間だった。

今日この日を胸に、これからは、僕はエレンの幼馴染に戻って、ちゃんと振舞おう。



「ウィル、ここで休んでるの?」


名前を呼ばれて声の方を見上げると、エレンがいた。エレンはそのまま僕の隣の椅子に腰掛ける。


「エレン。ダンスはもういいの?」

「ええ。充分だわ」

「……」


なんとなく気恥ずかしくなって、沈黙してしまう。えーと、何か話題。


「ギルはライラと踊れたかな?」

「……さっき、お兄様がライラさんに声をかけている所を見たわ。ライラさん、お兄様に話しかけられているのにローストビーフを頬張り続けていたから、社交クラブの精神がまだ伝わってないみたい」

「……そっか」


ライラは品行方正とか言う以前の問題かもしれないと僕は苦笑した。

再び沈黙が訪れる。

その沈黙を破ったのはエレンの方だった。


「ウィル、今日は私と踊ってくれてありがとう。ダンスを申し込んでくれて嬉しかった」


改まって言うエレンに、僕の心が温かくなる。


「僕の方こそ。……あと何回くらい踊れるかな」

「どういう事?」

「今後エレンと踊れる機会なんて、もう数えるくらいしかないかなって思って」


「……まだ沢山あるわよ」


「卒業するまではエンデンブルクには行かないよね?」


エンデンブルクの国名を出した途端、エレンが俯いてしまった。その手はドレスを握り締めている。


「あのね、ウィル。このドレス……平和の祭典の舞踏会で着るために作ったものなの」

「さっき言っていたよね。ごめん、ちゃんと分かってなくて」

「ドレスの色を決めたのは私なの」


そこでエレンは言葉を切った。

だけれど、まだ何かを言いたそうにしているエレン。少し待ってみたけど、続きの言葉が出てこない。



銀糸で刺繍の入った青いドレス。

エレンは昔から青い色が好きだった。

アスティアーナ国の王族のシンボルカラーの青色。王女であるエレンらしい。

僕の瞳の色でもある青色をエレンが好きだということが、僕には嬉しかった。


「えーと?エレン?」

「……このドレスの色を選んだのは………」


そこまで言って、再び言葉を切るエレン。


何故青色を選んだか。きっと、エレンは王族のカラーだから、決意表明を込めて青を選んだんだろう。

でも、偶然にしてもこのドレスの色は僕の瞳の色だ。単なる思い込みだけれど、その考えは僕の心を心地よくくすぐった。

そして、僕はダンスの後で幾分か熱気にあてられていたのかもしれない。それに、冗談にすれば笑ってもらえるかもという奢りもあったと思う。

沈黙するエレンに対し、僕は思わず自分の言葉を続けていた。


「わかった。僕の瞳の色だからでしょ?良く似合ってる」


そう言った後のエレンの様子。

驚きに目を見張ったまま、完全に硬直してしまった。


―――――やばい。滑った。


「エレン?冗談のつもりだったけど、ごめん」


慌てて僕はエレンに謝った。


「わかってる、アスティアーナ国の王族が伝統的に大事な時には青色の服を着るって。エレンはそれだけ国の代表としてちゃんとやろうって思ってたって事だよね」

「ウィル……」


先程よりも硬直が解けたようなエレンの様子に僕は安心する。


「ウィル……あの……」


エレンが僕に返事をしようとした時だった。


「ウィル~~~!!!!」


でっかい声で僕を呼ぶ声がした。

何だか今日はよく名前を呼ばれる日である。

声と共にライラが僕のところに突っ込んできた。


「ライラ?騒がしいな」

「ギルが!ダンスのパートナーを探してるみたいなの!踊ってあげて!!」

「ええっ?!急に来て何言ってるのさ!ライラが踊りなよ!」

「私は先約があるの。ディーノと約束しちゃったのよ。だから代わりに!!」


ライラの瞳がキラキラ輝いている。

これ、絶対わざとだ……。


「嫌だよ。今エレンと話してるんだし。ね、エレン」

「あっ!エレノア様!ごめんなさい」


どうやらライラにはエレンが良く見えてなかったらしい。慌てて謝るライラ。


「いいのよ、ライラさん。それに、ウィルとの話はちょうど終わったところだったの。私も、お兄様とウィルが踊るところをちょっと見てみたいし」


………はい?


「エレン!?今、なんて言った?!」

「きゃああ!エレノア様!素敵です!」


エレンの言葉にライラが大興奮で鼻の穴を膨らませている。


「さあ、ウィル!ギルはあちらよ!お連れするわ!いざ!!」

「ちょ、待って!僕、ちょっと足痛めてて……って、あの」


僕の袖をぐいぐい引っ張っていくライラに、僕に向かって手を振るエレン。

新入生歓迎パーティーの余韻に浸る間もなく、最後の最後で慌ただしくギルと踊る羽目になったのだった。

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