134.ダンスの相手
新入生歓迎のためのパーティー。
今年は、生徒会長になったギルと、新入生の代表で選ばれた1年生の女の子のダンスがパーティーの最初を飾った。
ギルが新入生の女の子とホールの中央に進み出る。
新入生の女の子は終始ギルの姿に釘付けで、その目はハートになっていた。
そうだよ、普通はこうだよ。
まったく、肝心のライラはどうしてギルにときめかないんだろう。もう少し乙女ゲームのヒロインらしく、ときめきを満喫してくれても良いのに。
パーティーの始まりを告げるダンス。音楽に耳を傾けながら、優雅に踊るギルと、そんなギルに瞳と心を奪われている新入生の女の子をホールの壁沿いでエレンと一緒に眺める。
「お兄様、かっこいいわ」
エレンが思わず放った言葉に僕も完全に同意だ。
見れば見るほどギルはかっこいい。
「本当。まったく、どうしてあのギルの姿でライラに響かないんだろう……」
思わずため息のように呟いた僕だったが、すぐさまエレンから容赦ない現実が突きつけられた。
「そもそも、見てもいないみたいだわ。ライラさん」
エレンの言葉を聞いてエレンの視線を追うと、その先にライラと、ライラに腕を掴まれたヨシュアがいた。
ライラもヨシュアも2人で何やら騒がしくしており、確かにギルの姿などまったく見えてない様子だ。
よく見ればその奥の柱の陰にアルベルト。
給仕のスタッフに指示を出したりしているところを見ると仕事で来ているんだろうが、私情も入ってそうだな。
昨年もああやって物陰から見てたんだろう。
そういえば、昨年はディーノがライラの肩にキスしたんだっけ。今の2人の関係を考えると信じられない出来事だ。
僕だって、昨年もエレンと踊った訳だけど、今年はまさかこんな心境で踊ることになるなんて一年前にはまったく想像できなかった。
改めて自分の気持ちの変化を自覚して、なんとなくエレンの顔を見ることができず、そのままライラとヨシュアをぼんやり見ていると、僕の視線に気づいたライラがヨシュアを引っ張ってこちらに向かってきた。
「ヨシュア?アリアナと踊るのではなかったかしら?」
ライラの隣にいるはずのない人物をみてエレンが訊ねた。
「アリアナさんは急な腹痛で倒れられたので、私が代わりにヨシュアと踊ることにしたんです」
ライラが堂々と答え、ヨシュアは隣で物憂げそうに息をついた。
「そう……。アリアナは大丈夫かしら?」
心配するエレンにヨシュアが答える。
「そんなに大した事ではないようですが、今日はゆっくり休む必要がありそうです」
エレンとヨシュアが話している隙に、ライラが僕に話しかけてきた。
「やっぱりヨシュアは転生者じゃないわね。転生者だったら、私が“選択"しても、昨年のウィルみたいにダンスを拒否できたと思う。ヨシュアはアリアナさんと約束したけれど、私がヨシュアを“選択"したから、アリアナさんを排除する乙女ゲームの強制力が発動したんだと思う」
僕は戦慄した。
今年、ライラに選ばれなかった事に感謝しよう!転生者であったことに感謝しよう!
そうして、以前にライラが「試す方法に心当たりがある」と言っていた訳も、ヨシュアとアリアナがダンスの約束をしても落ち着いていられる訳もわかったのだった。
「乙女ゲームの強制力って……この世界は一体どうなってるのさ?」
「さあ……。私もウィルと話したり、いくつかイベントこなすまでは、こんなに強い力が働いてるとは思ってもなかったけど。おかげでヨシュアと踊れるわけだし、便利よね」
おいおい……。これで選ばれた方は溜まったものじゃないんだぞ。
少しは攻略キャラの身にもなってくれ。
「あ、オープニングダンスが終わったみたいね。ヨシュア、いきましょ」
ライラがヨシュアを引っ張っていく。
2人を見送りながら、エレンが呟いた。
「……お兄様、ライラさんと踊りたいって言っていたけど、あれじゃあ申し込む隙もないわね」
「あとで1回くらい踊れれば良いんだけど……」
そうは言いつつも、前世のゲームではダンスを踊ることが選択できる攻略キャラは1人だけだったという事実を思い出す僕だった。




