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131.ダンスのお誘い(エレノア視点)

ウィルと喧嘩してしまった。

残された時間を考えると、喧嘩なんてしてる場合ではないのに。

その後に和解はしたけれど、何となくわだかまりが残ったのを私は感じていた。

だから、ウィルが突然、新入生歓迎パーティーの話をふってきた時には正直驚いてしまった。


「エレン、新入生歓迎パーティーだけれど、ダンスの相手は誰か決まってる?」


ウィルの青色の瞳が真っ直ぐ私に注がれている。顔を少し傾けているから、銀の睫毛に前髪が少しかかっている。口の端は紡がれていて、表情は読み取れない。陶器みたいだ。


「いいえ、特には」


久しぶりの至近距離に、動揺すまいと努めながらウィルに答えると……。


「じゃあ、僕で。どうかな?」

「……えっ?」

突然のウィルの申し出に、私は思わず聞き返してしまった。

新入生歓迎パーティーでのダンス。

交流が目的でもあるため、生徒は大抵色んな人と取っかえ引っ変え踊る。1番最初のダンスに関しては事前にパートナーの約束をする人たちもいるけれど、誰とも約束しない人も割といる。

中等部の頃から行われていたこの新学期のパーティーで、ウィルは、私を含め今までに誰かと約束したことはなかった。誘われてもいつも適当にはぐらかし、当日になってからその時の気分で誰と踊るか決める。私はそれが悔しくて、中等部の頃は自分からは絶対に事前に約束を取り付けようとはしなかった。


私だって、今度の新入生歓迎パーティーで、ウィルとせめて1回くらいは踊れたら良いなとは思っていたけど……。

いっつもギリギリまで先のことなんか考えてないウィルと約束を取り付けるなんて難しいし、今更なんて言っていいのかわからないと思っていたところだった。


「僕と踊ってくれますか?って申し込んでる」

「……」

私が驚いたまま返事を返さなかったので、ちょっと拗ねたような口調で真面目な顔で言い直すウィル。

なんだか可愛いと思いつつも、これはどうしたことだろう?

あまりのことに、返事をせずに固まっていると、ウィルが心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「……まさか別の誰かともう約束しちゃった?」

「いえ!そういう訳じゃないけど……」

慌てて否定する私。


「じゃあ、僕でいい?昨年も踊ってる訳だし」

「………ウィルから言い出すなんて意外だわ」

ようやく、思った疑問を口にしてみる。

「……エレンがギルや僕以外と約束したら、要らぬ憶測で周りが騒ぐだろうからね。きっとヨシュアはエレンを誘うよ。僕と約束しておけば断りやすいだろうから」

……ウィルの返事を聞いて、私は少しがっかりした。

もうすぐ今までみたいに居られなくなってしまうから、とかそういう理由ではないのね。やっぱり私から誘わなくてよかった。


それにしても、ウィルの頭の中ではヨシュアは余程要注意人物になっているみたい。こんな事までしてヨシュアを私から遠ざけたいなんて。

この前、王女らしい振る舞いを、と苦言を呈したウィル。どうやら、その延長線上でウィルのヨシュアに対する印象はすっかり悪くなっているみたいだった。

「ヨシュアに関しては、いくら何でも考えすぎだと思うわ」

「幼馴染として心配しちゃいけない?」

ウィルの、いつもの主に女の子に対する世話焼きが出たのかしら?

ちょっとズレているとは思うけれど、その眼差しから、本当に私のことを心配してくれているのがわかる。


この前、平和の祈りの祭典のために隣国に行った時。

数々の相手とダンスを踊ったけれど、本当に踊りたかったウィルとは踊れなかった。

ウィルの瞳の色のドレスを着て、心の中で想うだけだった……。

それを考えたら。


「じゃあ、約束よ。ウィルと踊る」


ダンスの申し込みを受け入れた私に、ウィルは少しだけ目を細め、ごく普通に頷くだけだった。


少しくらい、嬉しそうにしてくれても良いのに。私はこんなに嬉しいのに。


ウィルを見れば、新入生歓迎パーティーの話をやめて、すでに別の話題に話を振っている。

学食のカフェテリアに新作スイーツがあるとか何とか。日常会話すぎて、さっきのダンスの約束が嘘みたい。ウィルにとっては、ダンスの約束も、何気ない日常のうちのひとつで、特別でもなんでもないのだろう。

そう思わずにはいられないくらい、ダンスの約束をした後、それについてのウィルの反応は薄かった。


ケーキの話に、「私も食べてみたいわ」とウィルに答えれば、ウィルは優しく微笑んで、「今度一緒に行こう」と言う。

こういう会話ができるのは、一体いつまでなのだろう。

ひとつひとつの小さな出来事が私にとっては大事だけれど、ウィルにとっては取るに足らない事なのかもしれない。

それでも、ダンスの約束が嬉しくて、私はウィルに微笑み返した。

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