13.野性のマッスル
新入生歓迎パーティーも終わり、学園にも日常の落ち着きが戻ってきた。
そんな中、僕はパーティーで見たライラの態度が気になっていた。ライラのダンスの申し込みに対し、「後で。」と返事をした僕に驚いたライラ。
しかし、僕の返事自体、そんなに驚くようなものではない。先約があれば、断ったり後で踊るということは普通によくあることだ。確かに僕は誰とも約束をしていなかったけれど、そんなことはライラの預かり知らぬところ。それに、女性からのダンスの申し込みは一般的でないことを考えれば、ライラの言葉は僕のダンスの賞賛に対する単なる社交辞令的な返答で、そこにはダンスの申し込みといった意味合いはないと思われても仕方のない状況でもあった。
なのに、ライラはダンスを踊らなかった僕に驚いたのだ。まるで、ライラが申し込んだダンスは断られるわけがないと思っているかのように。確かに、前世のゲームでは、ご褒美イベントとして必ず自分が選んだ相手とダンスを踊ることができた。
これは一体何を意味するのだろうか。
それに、僕やルーク、そしておそらくギルもだろうーライラが僕らの親密度が最も高くなる返答を1度も間違えていないという事実も気になるし、ディーノとのダンスにしたってそうだ。偶然というには出来すぎている。
そこで僕は、エレンにあるお願いをしたのだった。
時は遡ること1時間前ー
「エレン、お願いがあるんだが、良いかな。」
「珍しいわね。どんなことかしら?私にできることなら。」
「ライラの目の前で、ルークのことを''野生のマッスル''と呼んでみて欲しいんだ。」
「・・・・・・え?」
"野生のマッスル''は、前述の通り前世でやった乙女ゲーム「ときプリ」ファンの間でついたルークの呼び名である。僕の仮説が正しければ、おそらくライラは僕と同じで前世の記憶があり、しかも「ときプリ」をしていたはずだ。''野生のマッスル''という、懐かしいワードでライラに揺さぶりをかける。一体どんな反応をするだろうか。
「いいけど・・・野生のマッスルってどういう意味の言葉なの?」
「説明は難しいけれど、まあ、スポーツが得意みたいな意味だ。」
「んー良く解らないけど、ウィルにとって大切な事なのね。わかった。」
「ルークはあれからずっとライラと対戦したがってるんだ。ほぼ毎日放課後はライラが逃げないように授業終了直後を狙って、ライラを捕まえようとしている。ライラは毎日断っっているみたいだから、ルークがライラから断られていなくなったあたりで言ってみて。」
「毎日、断られてるの・・・。そう。」
「丁度ライラが受けてる授業が終わる所だ。急ごう!」
毎日断られるなんて、私だったらめげちゃうわ。とちょっとブルーになってるエレンの手を引いてライラの所に連れて行った。
予想通り、ライラがルークにクッキーのような物を手渡ししつつ、やんわりと断っている所に遭遇できた。
「僕は此処に隠れているからよろしく!」
とライラがいる方向と逆の入り口の教卓の下にさっと隠れた。
「ええっ!?」
突然の振りに驚いたエレンだが、さあ、行ってとウィルが手をヒラヒラさせている。もう行くしかない。そもそも、野生のマッスルって一体何なんだろう。疑問に思いつつも、エレンはライラの近くの窓に寄り、窓の外を見ながらひと息ついて、ライラに話しかけた。
「毎日、ルーク様からお誘いがあるみたいですね。とてもお忙しそうで。」
それに気付いたライラがエレンの方を見る。
「こんにちは。エレノア様」
「こんにちは。ライラさん。ルーク様はこうと決めたら一直線なお人柄なので、きっとお誘いをお受けになるまで、永遠と誘われますよ。野性のマッスルだけあって体力と気力は底しれません。」
「そうですわね。凄いわ。野性のマッスル。実際目にすると、こんなに熱気を感じるものだとは思わなかったわ。」
「もし、本当に嫌であれば、きっぱりと断るのが大切よ。野性のマッスルと言うだけあって鈍いけど、人の嫌がることはしないわ。」
「ご忠告ありがとうございます。でも、本当に都合が悪いだけなので、お構いなく。」
恋愛に疎い者が見たら、ころっといってしまいそうな可愛い微笑みを浮かべて一礼しライラは教室を出ていった。
教卓の裏に隠れていた僕はライラが居なくなったのを見計らいエレンに駆け寄った。
「天才だな君は!」
「あれで良かったの?」
「もう、ばっちりだよ。ナチュラル過ぎて、ライラは自分が野性のマッスルと言う単語を使っているのにも気付いてなかったよ。二回会話に強調して入れてくれたのも良かった。」
流石、流石と褒めちぎる僕に少し照れながら、エレンはまた、何か困った事があったら言ってねとクラブに行ってしまった。
野生のマッスルという単語はこの世界には存在しない。当然、ルークのことを野生のマッスルと呼ぶ人間は学園内どころか世界中探したっていない。エレンが発した野生のマッスルという言葉に対して、普通はどんな意味か聞くか、せめて戸惑った顔くらいするだろう。なのに、ライラのあの平然とした受け止めよう。確実にライラはあの言葉を知っている。
彼女が僕と同様、「ときプリ」のプレーヤーだとして・・・。
あのルークが貰ってた、クッキーはまさか、デートもしないで好感度を1日分上げられるラブリースマイルハートクッキーでは?
ラブリースマイルハートクッキーは海運王の息子アルベルト・フェラーとの親密度が4段階(1段階知り合い、2段階少し話せる、3段階向こうが、興味を持って話しかけてくれる.4段階信頼されてきた)にまであがっていないと購入出来ない。
それを毎日、食べてる?ルーク大丈夫か?
僕はルークの元へ、詳細を確かめるべく行く事にした。




