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127.社交クラブ

放課後になると、早速ライラは社交クラブに顔を出す事にした。

学園の一角にあるエレノア様の社交クラブ。

ハイソサエティな女性ばかりの空間は、ライラにとっては近づきがたく、気後れをしてしまう。

ヨシュアという差し迫った目的がなければ、決して訪れたい場所ではない。

意を決して物々しいドアを開けると、ライラを待ち構えていたアリアナ、ミーシェ、マリアから喜びの歓迎を受けた。


「ライラさん!!!お待ちしてました」

「よ……よろしくお願いします」


三人娘から、前のめりな歓迎を受ける一方、他のメンバーは遠巻きにライラの様子を伺っている。

ライラはその中に、驚きのあまり口が開いているヨシュアの姿を見出した。

エレノアがライラを社交クラブのメンバーに紹介し、ライラも簡単な挨拶を済ます。


「今日はお食事のマナーを勉強しましょう。ライラさんとヨシュアは初めてだけれど、いつものメンバーには再確認になるわね。さあ皆さん、席について」


エレノアがメンバーに席につくように促す。


「ライラさんは私の隣にいらっしゃい。ヨシュアはアリアナの隣に座ってね」


エレノア様の隣、というのは名誉なことなのだろう。社交クラブのメンバーの視線が一斉に自分に集まったことをライラは感じた。ヨシュアも嫉妬の入り交じった目でライラを睨みつけている。

意外と権力の形式にこだわる、とライラはメモをとる。今日ここに来た目的は、社交クラブで品性を磨くことの他、ヨシュアの情報を得るためでもあるのだ。


お食事のマナーの勉強のためだけに用意された料理の乗る長テーブルに向かう途中、ライラは何かに引っかかり思わず転びそうになる。

幸いにも多少よろけただけで済んだが、ライラが引っかかったのはどうやらヨシュアの足であることがわかった。

文句を言いたい気持ちを抑え、ここはひとつ愛想笑いでもしながら話しかけようと思ったライラだったが。

「エレノア様の隣なんてお前には勿体ない。次は遠慮しろよ」

そんなライラにヨシュアは嫌味を言ってきたのだった。

「何それ……。まさか、今の足、わざと……?」

「さあ?ごめんね?」

優しく微笑むヨシュアの表情から、ライラは先程の足はわざとだったのだと確信した。

敵は油断ならず、隙を狙って攻撃してくる、とメモをする。



いよいよ全員が席につき、エレノアの講釈を聞きながらの食事が始まった。

エレノアの講釈の合間に起こる談笑にヨシュアもそつ無く参加して、クラブのお姉さま方達の間で株を上げている。雰囲気から察するに、異性というよりかは「可愛い年下の子」という扱いを受けている。

中性的な顔立ちに、まだ声変わりする前の高い声という相貌と相まって、天使が人間の形をとったらきっとヨシュアになるだろう、というような印象を周りに与えているのだ。

暫く眺めていても、そこには隙も弱点も見当たらない。


一方のライラというと……


「ライラさん、ナフキンの折り方が違うわ」

「皿を持ち上げて食べてはいけないわ」

「今日の料理の場合は魚はナイフを使わずに食べるのよ」

ヨシュアに気を取られてエレノアの講釈を話半分に聞いているせいでマナー違反の数々をエレノアに指摘される結果となった。

「まいったわ。品行方正のパラメーターを上げるつもりだったのに、ヨシュアの前で品位のなさを露呈してしまってる……!」

これではいけないと、気を取り直す。ヨシュアにギャフンと言わせるどころか、これでは逆にヨシュアに大きく差を開けられてしまっているではないか。

そもそもどうしてヨシュアは社交クラブなんかに出入りしてるのだろう?食事の所作を見ている限り、ヨシュアにマナー講習が必要とは思えなかった。

食事が終わり、デザートが運ばれてくる。

ライラの前に置かれたプレートは、他の人のものよりもフルーツが多く、ソースで何やら文字が書かれている。古臭い言い回しで、「ようこそ、歓迎します」と書かれ、アラザンなどを散りばめて可愛らしくしたプレート。


「エレノア様、これ……」

ライラがエレノアに訊ねれば、エレノアから笑顔と共に返事が返ってくる。

「せっかくライラさんが来てくれるので、少し特別なものにして頂いたの」

「あ……ありがとうございます……!とっても可愛いです!それに美味しそう!!」

「喜んで頂いて嬉しいわ。マナーで1番大事なものは相手を思いやる心。今日、ライラさんには色々言ったけれど、自然とお礼がいえるライラさんは一番大事なものを持っているわ。頑張りましょう」

こんな事まで気をつかってくれるだなんて、エレノアは本当にライラが来ることを待ち望んでいたようだ。

昨年散々逃げ回ったことをライラは今更ながら悪く思う。昨年の今頃は、乙女ゲーム攻略と新入生歓迎パーティーで着るドレスの手配に駆けずり回っており、それどころではなかったのだ。


ふとヨシュアを見ると、羨ましそうな顔でライラとエレノアを眺めている。ライラと目があうと、ヨシュアは慌てて目を逸らしてしまった。

「……?フルーツが羨ましいのかしら……」

ヨシュアはフルーツ好き、とメモをする。敵の情報は多ければ多い方がいい。



社交クラブの終わり、メンバー達が別れの挨拶をして優雅に去っていく。ドアの脇に立って皆を見送るエレノアが、ふとヨシュアに声をかけた。

「そのロザリオ、直ったのね」

「ええ、エレノア様に拾って頂いたおかげです」

2人の会話を小耳に挟んだライラが思わず異議を申し立てた。

「ロザリオを拾ったのは私でしょ」

ヨシュアは、不躾な輩を目にしたとでもいうような冷ややかさでライラを一瞥すると言った。

「そういえばライラにも拾ってもらったね。わざわざ主張しなくとも忘れたりしないよ」

「何その言い方!しかも、そういえば、って、やっぱり忘れてたんじゃないの?」

思わず反論してしまい、言った瞬間に後悔するライラであった。好感度を上げなくてはならない相手に口答えはまずいだろう。

「なーんて、今のは冗談です!」

慌てて誤魔化そうとするライラだったが、場の雰囲気は下がったままだ。

敵の挑発に乗らないように気をつける、とメモを取るライラ。


そんなライラにお構い無しにヨシュアはエレノアと会話を続ける。

「あの時、エレノア様が気づいてわざわざ追いかけて届けてくれなければ、どうなっていたことか」

ロザリオを右手で握るヨシュアにエレノアが優しく声をかける。

「その宝石も、ヨシュアとロザリアの元に戻れてほっとしているのではないかしら?」

「いえ、宝石なんていうほど高価な石ではないです」

ヨシュアはロザリオの中心部に据えられている石に大事そうに触れながら言った。

どうやらその石はヨシュアにとって大事なものらしく、ロザリオを落とした際に石だけ外れてしまったようだ。

「でもとっても綺麗だわ」


その瞬間、ライラは見た。ヨシュアの耳がほんの僅かだけれど赤く染まるのを。

「ええ。ありがとうございます、エレノア様。“私の言葉があなたに喜ばれますように"」

ヨシュアはエレノアにお礼を言うと、最後に独り言とも祈りともつかない言葉を呟く。

「……」


“私の言葉があなたに喜ばれますように"


ライラには、どこかで聞いた覚えがあった。

“僕の言葉が、僕の思いがあなたに喜びをもたらしますようにーーー"

前世の乙女ゲーム『ときプリ』で、ヨシュアが主人公に愛の告白をした時のセリフに似ている。

細かい部分は微妙に違うけれど、大意は同じではないのか。


「もしかしてエレノア様……ヨシュア攻略に片足突っ込んでるんじゃ……」


メンバーが全員部屋から退出し、エレノアも帰っていく。

ライラは今日の収穫について、一人考えるのであった。


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