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125.ラブリースマイルハートクッキー再び

学園の中庭に、何やら怪しい2人の男女の影。


「……あんまり思い詰めるなよ」

「大丈夫、これなら上手くいくと思うの」


意味ありげな会話をしている聞き知った声の方に歩みを進めると―――


案の定、アルベルトとライラがいた。


「ライラにアルベルト、何をしてるの?」

努めて笑顔で話しかける僕に、はっと振り向いた2人。ライラが手にしているのは―――忘れもしない、ラブリースマイルハートクッキーじゃないか!

「ライラ!何それ!まさかヨシュアに……!」

思わず声を荒らげる僕。

ごくり、と生唾を飲み込むライラ。

僕に取られることを危惧したのか、ライラはラブリースマイルハートクッキーを背中に隠した。

アルベルトは困ったように僕達2人を静観している。

「ライラ、品行方正のパラメーターを上げて頑張るって決めたじゃないか。ギルだって協力してくれてる。クッキーに頼らなくたって大丈夫だよ」

僕はライラに話しかけながら慎重にライラとの距離を詰める。もちろんライラの後ろにあるクッキーの動向に注意を払うことも怠らない。

「そんなの分からないじゃない。使えるものは全部使うべきだと思うけど?人事を尽くして天命を待つ、よ。ウィル、お願いだから邪魔しないで」

じり、と1歩後ずさるライラ。

「……僕はそういった人の心を弄ぶお助けアイテムの利用には反対なんだ。間違ってるよ。やめよう、ライラ」

「こっちは将来が掛かってるのよ。手段は選んでられないの。それともウィルが私の将来でも保証してくれるの?」

「保証なんて僕にはできないよ。けど……友達が悪い事をしようとしているなら、止めるのは当たり前だろ?だから止める」


「正論だけじゃどうにもならないわよ」

言うが早いかライラはラブリースマイルハートクッキーを持ったまま走り出した。

「あっ!待てこら!」

慌ててライラの後を追いかける。

こういう時のライラってどうしてこんなに早いんだろう。

ライラにはMAP機能が備わっているため、ヨシュアの居場所など手に取るように分かるのだろう、迷いなく駆けていくライラ。逆に僕の方はライラを見失ってしまったらその時点で行き先がわからなくなる。必死で追いかけたが、角を曲がったその先の回廊の突き当たりで見失ってしまった。


***


ライラを見失ってから、ヨシュアが行きそうな所を手当たり次第に探していく。

学園の建物を抜け、礼拝堂に行きついた僕は中を覗いてみる。


―――居た。


ライラがヨシュアに声を掛けている。

僕は礼拝堂の入口から中に滑り込むと、ゆっくりと2人へ近づいていく。礼拝堂には午後の日差しが窓から差し込み、落ち着いた明るさで暖かい。この雰囲気を鑑賞しているのだろうか、まばらながらも10人程度の生徒達がそれぞれの時間を過ごしていた。


「ふぅん?こんなものまで用意してくれるだなんて、君って本当に僕に興味があるんだね」

「そうよ。あなたと仲良くなりたいの。心を込めて作ったわ」

2人の声が届く範囲にまで距離を詰める。

正にライラがヨシュアにラブリースマイルハートクッキーを渡そうとしている瞬間に間に合った。またもや手作りだと言い張っている。

さて、どうやってクッキーを回収しよう。ヨシュアの目の前だから下手な事はできないし、ライラがこれ以上ヨシュアに嫌われるような方法は取りたくない。

やっぱり、アレかな……。

女性との絡みが何かと多いウィリアムのキャラ特性を存分に活かした感じで強引にライラのクッキーを奪い取る作戦。


気は進まないけど、やるしかない。

僕ならやれる!行くぞ!


僕は早足でヨシュアとライラに向かっていく。

一方のライラは、僕が近づいている事には気づかずにヨシュアと話を続ける。

「ヨシュア、受け取ってくれる?」

ライラから差し出されたクッキーを一瞥したヨシュアは、意地悪い微笑みを浮かべながらライラに言った。

「お菓子で懐柔しようだなんて、子どもだましも良いところなんじゃないの?」

「……」

「僕に好かれたいのは構わないけどさ、それならもう少し自分を省みる事から始めたら?」

「…………」


「だったら僕が貰うけど?」

僕はそう言って、ヨシュアとライラの間に割って入ると、ライラが差し出していたクッキーをつかみあげた。ライラを見れば、真っ白に固まっている。

「ライラのクッキーを要らないなんていう男がいるなんて信じられないな。でも、それなら僕が貰っても構わないよね?」

僕がクッキーを掴んだ手にヨシュアの手が一瞬伸びる。けれど、その手はすぐに思い直したように引っ込められた。

「ウィリアム・ヴォルフ先輩。またあなたですか。まあ、いいけど。あちこちで女性に手を出されているお噂は真実ってところかな」

ヨシュアは肩をすくめると、嫌味を言い残してそのまま礼拝堂の外に出ていった。



***


「おーい。ライラ。大丈夫?見えてる?」

固まっているライラの目の前で手のひらをひらひらとふる。

どうやらライラはヨシュアの態度に、すっかり心が砕け散っている様子だ。

しきりに話しかけていると、次第にライラの顔に活力が戻り、目があった。

「―――ウィルっ!」

目が合うなり、ライラは僕からとびずさり、あっという間に逃げていった。

なんだよ、せっかく心配してあげたのに、と思ったけれど、ライラからしたら僕から逃げてる途中だったのだから仕方ないのかもしれない。

礼拝堂に取り残された僕は、手に持ったラブリースマイルハートクッキーを見つめた。

あのまま僕が介入しなかったとしても、ヨシュアはライラからクッキーを受け取らなかったのかもしれない。

なにせあんなに散々な言い様だったのだから。

だけど、どうなんだろう。

攻略キャラがヒロインからのプレゼントを拒否。そんなことできるんだろうか?

前世のゲーム、「ときプリ」ではどうだったかな……と考えてみても、思い出せなかった。

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