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123.学食での遭遇

昨日のヨシュアから受けた衝撃を胸に、僕はお昼時の学食でライラを探していた。

「いた!ライラ、隣いい?」

「ウィル……」

ライラは椅子に座り、すっかり意気消沈していた。どうやら、今朝もヨシュアに挨拶をして撃沈したようだ。

「ライラ、ヨシュアに何言われた?」

「今日も駄目……というか、日に日に悪くなる。『こんなに毎日僕に顔見せてこなくてよいよ。それともよっぽど暇なの?』って言われたわ」

「……。前世でゲーム内の彼を知っている分、ダメージを受けるね……」

ゲームの中では、ヨシュアはいつだって穏やかで、挨拶をすれば天使のような微笑みと共に一日の始まりを祝福してくれるというのに。

盛大にため息をついたライラは、鞄の中から2枚の紙を取り出した。

「ちょっ……ライラ!何で持ってきてるんだよ?!」

ライラが手に持っているのは、僕が以前ライラに描いてあげたギルバートのイラストとアルベルトのイラストだ。慌てる僕に、ライラは精細さの欠けた顔で答える。

「最近毎日これ見て頑張ってるの。癒しがないとやってらんない」

「だからって誰かに見られたら……」

その瞬間、お約束のように風が吹き込み、ライラの手からイラストがヒラヒラと舞い上がった。

「やだ!折角ウィルに描いてもらったのに!」

ライラは慌ててイラストを追いかけるために立ち上がる。イラストたちは、ヒラヒラと不規則に流れると、数メートル先の床に舞い降りた。


「……ふーん。この絵、ウィリアム様が描いたんだ」


落ちているイラストの前で、綺麗に磨かれた革靴が立ち止まる。僕がそのままゆっくりと革靴から視線を上にやると―――そこにはヨシュアの姿があった。

ヨシュアは僕の描いたイラストをその手で拾い上げると、しげしげと眺めている。

ヨシュアに見られるだなんて恥ずかしすぎて死ねる。

「私のものなの。返して、ヨシュア」

ライラの要求にヨシュアは答えることもなく、僕の方に視線を向けてくる。

「この絵たちは、僕が今まで見てきたどんな細密画とも違うね」

「そうなの!綺麗でしょう?ウィルは凄いのよ」

ライラが何故か得意気にヨシュアに答える。

一方のヨシュアは、軽くライラを一瞥した後に、僕に再び顔を向けた。

「ウィリアム様」

何言われるんだろう……。この間が重い。

「君の絵は神への冒涜だ」

あまりの言いぶりに、僕じゃなくてライラが真っ白に固まっている。

「はい、返すよ。じゃあね」

そう言って、ライラの手に拾った絵を押し付けるとヨシュアはそのまま行ってしまった。


***


「何あのガキ!すっごい生意気!!前世にゲームでときめいた気持ちを全て返してほしい!!」

さっきまで意気消沈していたライラだったが、今は怒りのままカルボナーラにフォークを突き刺している。

「ライラ、ヨシュアってあんなに辛口キャラだったっけ?」

「いや、絶対違った!」

「だよね!思ったんだけどさ、もしかしてヨシュアも転生者……?」

僕は、昨日から考えていた可能性の1つをライラに打ち明けた。

ライラからの返答は、少し意外なものだった。

「うーん。私も少し考えたけど……違うんじゃないかしら。たぶん、私達がマイナススタートだからなのよ」

「マイナススタート?」

「ほら、ゲームでも、主人公をいじめた奴には結構冷たい事言ってたじゃない。きっと、ヨシュアって嫌いな人間には元々辛辣なのよ。ゲームで気づかなかったのは、ヨシュアの中で主人公の印象が最初から良かったからなのね」

「なるほど」

「それに、逆ハーレムルートのヨシュアを覚えてる?」

「ああ、主人公の事を異端扱いして殺そうとするんだよね」

そう、ゲーム中では、逆ハーレムルートに進むと主人公を取り合って攻略キャラ達が争うようになってしまうのだが……。

「殺すって突き抜けてると思わない?他のキャラはそこまでしないわ」

「確かに……。アルベルトが助けに来なかったら、あのまま殺されてたね」

そして、アルベルトは主人公のためにヨシュアを斬りつけて犯罪者になってしまうんだった。

「ほら、最後にアルベルトを睨みつけながら、『許さない、クズめが』とか言ってたじゃない。あれ、逆ハーレムルートで狂った結果かと思ってたけど、嫌いな人に対するヨシュアの素なのよ」

「考えすぎな気もするけど」

「まあ、いずれにしても転生者だったらそのうち分かるわ。確かめる方法に心当たりあるもの」

「えっ?」

「今はできないけど、そのうちね。でも、私は転生者じゃないと思うなあ」

確かめる方法って何だ?ライラは教えてくれるつもりはないようだ。しかし、ヨシュアが転生者じゃないとしたら、この世界に生まれてしまったせいで知らなくても良かった余計な事を知ってしまった感がある。

「あの天使の顔に裏があるだなんて、なんだかガッカリだね。信じたくないけど」

「しょうがないわね、ゲームには夢を見たいもの。ゲームとしてはあれで良かったのよ」

気持ちを落ちつける為と言って僕の絵を目の前に深呼吸しているライラ。

この世界では、僕のイラストは浮いているとわかっていたけれど、神への冒涜とは凄い言われようだった。

自分で楽しむ分には良くないか?ちょっと落ち込んでしまう。

「うー!怒りが沸いてきたわ!ギャフンと言わせてやりたい…。ステテコパンダ先生をそれこそ冒涜したあのガキを!」

「ストップ!!拗れる!確実に拗れる匂いがしたよ!その発言。ギャフンて言わせる事と好感度あげるのはイコールにならないし」

ちょっと落ち込んだので、ライラが怒ってることが僕には嬉しいけれど。好感度をあげることを考えたらギャフンと言わせるなんてとんでもない。

「だって!許せないんだもの!お前は神の代理人かっつーの!好感度が上がればイラストの見え方も違ってくるかもしれない……。好感度イコールギャフンよ」

その後もギャフンのゲシュタルト崩壊をしてしまうくらい2人で語りあって僕は気がついた。

「これ、ギャフンて言わされてるの僕達じゃない?」

「キィ〜。ヨシュア頭にくるわ!」

「好感度上げるなら、大人しく品行方正のパラメーター上げをしようよ。キィ〜って、まるで悪役みたいだよ?」

「あら、本当ね」


僕達が、わははと笑いあっていると、食事を食べに来たギルが同じテーブルについた。

「二人とも楽しそうだな。何の話をしてるんだ?」

椅子に座りながら問いかけるギルに、ライラが真面目な顔をして答える。

「品行方正について」

「品行方正で、大爆笑!?随分不思議な盛り上がりをしている…」

僕はギルの優雅に着席する所作を見て、思い付いた。

「丁度良いよ、ライラ。ギルは王子様で品格については完璧じゃない。二人っきりでレディとしての嗜みを教えてもらったら?」

ギルもライラと二人になれるし、この作戦完璧じゃない?と心の中で思う。

「何でウィルが勝手にギルの予定を組むのよ?」

「私なら構わない」

「じゃあ決まりだ!新入生歓迎パーティーまではギルにお世話になったら?マナー全般を教えて貰いなよ」

ライラと二人になれるチャンスだよ!という思いを込めてギルにウィンクする。

「まあ、ギルが良いなら……お言葉に甘えて、私、勉強するわ!」

ライラが拳を天井に突き上げた。

「しかし、一体全体、なぜ急にそう思い立ったんだ?」

ギルがライラに訊ねる。

ギルは昨年、社交クラブを立ち上げたエレンの誘いを散々棒に振っていたライラを思い出したのかもしれない。ちらとライラを見ると、ライラが真剣な顔でギルを見据えた。

「ウィルの絵を馬鹿にされたのよ…。その人をどんな形でも見返したい!」

「…ウィルを馬鹿に…ライラそれは本当か?」

ギルも自ずと真剣な顔になる。


いいや、僕は馬鹿にされてない。絵だし。


「本当よ、ステテコパンダ様……いえ、ウィルを神への冒涜とまで言い放ったわ!私それだけは許せないの」


だから、絵なんだって。


「本当か?信じられない。ウィルはむしろ神から祝福された存在だと私は思っている。マナーを学ぶことが見返しになるのだったら、喜んで協力しよう。ライラ、期間は短い。今日の放課後からどうだろうか?」


ギル、誤解だ。冒涜は絵なんだ。

「……二人とも、僕のために熱くなってくれるのは嬉しいけどさ、神への冒涜って言われたのはさ……」


「ウィルは黙って」

ライラにピシャリと発言を制止された。


………。

何ソレ?


ギルとライラは今日の放課後に練習する内容について真剣に話し合いを始めている。


僕のため……なんだよな?

なのに何だろう、この置いてけぼり感は……。


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