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120/164

120.第一段階

「だっ駄目です。やっぱり、緊張します」


カトリーヌが顔を両手で覆いつつ、指の隙間から目の前の人物をチラ見している。


「緊張って、これルークじゃないよ。ルークのお面だよ。ほら、体を見てよ。ヒョロヒョロでしょ」

僕はお面を被っている人物の腕を持ってぶんぶん振ってみせた。

「…ウィリアム。人にこんなもの被せて、殺されたいのか?」

ルークのお面の下から不機嫌そうなディーノのくぐもった声が聞こえる。

ディーノが不承不承ながらもお面をつけてくれているのは、この間枕を贈ったのが効いているのかもしれない。この間ディーノに押し付けた枕は、後で生徒会室を見てもどこにも無かったから、どうやらちゃんと持って帰ってくれたらしかった。


ディーノが付けているルークの顔のお面を両手の隙間からチラチラとみるカトリーヌ。

「ウィリアム様、意外な特技ですね。後でこのお面下さい」

「直視も出来ないのに?」


ルークを前にするとカトリーヌは緊張のあまり動けなくなってしまう。毎日毎日、カトリーヌからルークへの想いを聞かされている僕は、こんなにルークが好きなのに本人とは一向に触れ合えないカトリーヌが不憫に思えてきてしまった。

そこでその弱点を克服するべく、ディーノ協力の元、イラストのお面を使ってルーク(もどき)に慣れる所から練習をしてみる事にしたのだった。


「…これは重症だな」

「イラストですら顔を合わせられないとなると後は手紙かな?でも、手紙はルークが書くとは思えないし」

どうしたものか……と嘆息する僕。


「いえ、手紙のやり取りはしています」

と言いながら、カトリーヌは鞄から手紙の束を出した。

「えっ?見せて!!」

「お前、人の手紙を失礼だぞ」

「決して言いふらしたり、からかったりしないと約束する!今後の対策の参考にも是非!」

僕の熱意に押されて、「特に重要なやり取りをしてる訳ではないんですけど……」と躊躇いながら一通を渡してくれたカトリーヌ。

今後の対策のため、といいながらも、若干の好奇心の誘惑に駆られたことは否定しない!

人の事を咎めながらも、なんだかんだで気になるのだろう、一緒にルークの手紙を見るディーノ。


***


カトリーヌへ


何時も手紙をありがとう。君が最近、春の花が綺麗だと教えてくれたよね。

俺は花とかに疎いから、花は残念ながら見つけられなかった。

けれど早朝に走っていた時、冷たい空気に混じって、新緑の匂いがしてきたんだ。緑の間からは淡い丸い光が刺してきて、俺はそれが綺麗だと思った…。

君が春を教えてくれてとても幸せな気持ちになったから、この話をしたのだけど、どうだったかな?

今度、君が見つけた花がどれだか教えて欲しい。


byルーク


***



「何……これ?」

僕が知っているルークじゃない!嘘でしょ、ルーク…。

「見てはいけないものを見てしまった気分だ……」

意外な内容にディーノも驚きを隠せない。

思わず、ディーノと僕は顔を見合わせる。

2人で文通出来ているって事は、カトリーヌは本当に顔を見て話せないだけなんだろう。


「手紙のやり取りはしている……。話題がない訳じゃないのだから、ルークに何度も会って免疫をつけるしかないんじゃないか?単なる慣れの問題だろ」

「それは僕も言ったんだけど…」

僕は横目でカトリーヌを見る。

「顔を見ると頭が真っ白になってしまうのです」

「そうだ!トレーニングの差し入れをしてみるのはどう?」

「それなら頭真っ白でも出来そうだな」

「ちょうど最近、走り込みを始めたんだ。今度ルークを誘ってみるよ。僕のついでにルークに飲み物でも差し入れしてみるのはどう?」

「ルークは見ずにウィリアムを見ながらルークに渡すんだ」

「逆に難しいよね」

「やってみせます。お2人の気持ちに応えます」

「よし、そうと決まれば決行日を決めるぞ」

「私は差し入れを考えてみます!」


決意を胸に部屋を出ていったカトリーヌ。それを見たディーノが目を凝らしながら言った。

「あの女、あんなに綺麗だったか?」

「頑張る女の子は昔から可愛く見えるものなんだよ」

「あいつも例外ではないと…」

「大概、ディーノって失礼だよね」

「そういうお前は独善的だがな」

ディーノといつものような言葉の応酬をする。まったく減らず口だ。

「……とう」

「えっ?何?」

突然ディーノの声が小さくなり、僕は思わず聞き返してしまった。

ディーノが少し気まずそうな顔をする。しばしの沈黙の後、ディーノから信じられない言葉が飛び出した。


「枕だ。礼を言う」


不意打ちのお礼に僕は唖然としてその場に立ち尽くしてしまった。ディーノはそのまま教室を出ていった。

「……」

暫く固まった後に、僕はルークを誘いに向かったのだけれど、すっかりディーノに枕の使い心地について聞くのを忘れてしまっていた事を後悔した。


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