12.王子様の気持ち(ギルバート視点)
「周りの人を笑顔にしたい。たくさんの人が笑顔になるように、自分にできることを探したい。」
ライラ嬢からそう聞いて私は、とても驚いた。
ああ、こんな優しい気持ちで、義務では無く人の為に動く事が出来る人がいるのだと。
同時に、彼女のその気持ちを守っていきたい、助けていきたいという気持ちが沸き起こった。
新入生歓迎会時、ホールを舞うライラのダンスに夢中なった。何故、ライラと踊っているのが自分ではないのか疑問に思った。はやる気持ちを押さえて次のダンスの番を待った。
次は自分の番だと思っていたのに。
彼女の目はウィルを見ていた。
ライラ嬢がウィルを選んだ時、一瞬何が起こったかわからなかった。
ウィルとは子どもの頃からの付き合いだ。
小さい頃から何度もウィルに助けられてきた。彼は察しが良いというか、人の気持ちが読める人間だと私は思っている。特に沈んだ気持ちになった時に、彼の前向きにさせてくれる言葉に何度救われたか解らない。
王子という立場は色々煩わしい事が多く、親からも周りの大人からもやれ何をしろだのそれはいけないだの、かと言ってその通りにしていると、自分が無いだの頼りないだの。
要は何をしても何かしらの反発がある。
特に、王妃とその周りの者たちからは何をしても必要以上に叱られていた。本当の母は幼い頃に亡くなり、今の王妃と私には血の繋がりがない。恐らくはそういったことが王妃の私への態度に影響しているのだろうが、幼い頃の私は全て自分が至らないせいだと自分を自分で追い詰めた。
もちろん王子という立場に産まれた以上、勉強や武闘、国事を学ぶと言うことは大切な事だとは思っているし、新しい知識を吸収する事はとても楽しい。
だが、周りの大人達に対して張り付いた笑顔が標準装備になってしまったのは仕方の無いことだろう。本当はきっと悲鳴をあげていた心を自分で無理矢理押さえつけて、自分の出来る限りでずっと頑張ってきた。
聡明で国民からの信頼も厚い私の父、国一番の宝石、社交界の華だなどと言われる母。立派過ぎる両親に追いつくようにと毎日毎日呪文の様に言われて、頑張って耐えていると思っていたが、幼かった私は少し、いや、大分疲れてたんだと思う。
ある時、異国から来た楽団が従姉妹の産まれたお祝いにと演奏をしてくれる事になった。その時に披露された曲は当時、心が疲弊してた私にその異国の颯爽とした広い草原を思い起こさせた。それは何故だか心に染み入って、随分幸せな気持ちにしてくれた。
6歳を過ぎた頃、私に将来共に出来る友人をという話が父とその側近の間で出たらしく公爵家の同い年の長男を城に呼ぶ事になった。同い年の子は回りにいなかったのでその事は楽しみでもあった。
彼も彼で公爵家には似たような大変さがあると言う。彼は初めて愚痴を言いあえる大切な存在になっていった。いつの間にか自分の意見を飲み込む癖が出来てたようで、彼がひとつひとつ、私自身の好きな物や考え方など、今まで押さえつけるだけだった私の気持ちを丁寧に掬い取ってくれたのだ。その事が、私という人間を私に戻してくれた様な気がしている。
私が、自分の意見を言う毎に
彼は悪戯が成功したかのように「そうだと思ったんだ。」と屈託のない笑顔で笑ってくれた。
彼は本当に大切な友人だ。
ライラがウィルに惹かれるのも理解できる。
彼はとても魅力的な人だから。
ライラの事は守っていきたい。
できるなら、自分の手で、ライラの1番近くで。
この燻った気持ちは
何なのだろうか。




