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119.閑話

新学期が始まってから数日が過ぎた。

ディーノは3年に進級して生徒会メンバーから外れたが、諸々の引き継ぎがあるため今のところは生徒会室に出入りしている。

生徒会室で書類を作成していたディーノだったが、ふとその手を止めると突然僕に話しかけてきた。


「ウィリアム、ソロモン・グランディを覚えているか?」

ソロモン・グランディ……。昨年の夏、ライラとアルベルトが巻き込まれた事件に関連して、妖しい薬を飲んで運ばれていった男子生徒だ。

「覚えているよ。昨年薬で入院した奴だろ。そういえば、未だに顔を見かけないなあ」

事件後、しばらく自宅謹慎になっていたけれど、流石にもう今は謹慎処分は解けているだろう。今まで気にしていなかったけど、未だに顔を見かけないのはおかしい。

「退学届が出ていた。ギルバート様がかなり気にしていたが……」

「ええっ!?そうなの!?」

ディーノの言葉に、思わず僕は大きな声を出してしまった。

僕に教えてくれたディーノの顔には、どことなく陰がさしている。

退学したんだ……。学園に来づらくなってしまったのかな。

僕は何とも言えない気持ちになった。

「しけた面をしているな、ウィリアム」

そう言ってくるディーノの顔は表情が乏しくて感情が読み取れない。僕と同じ気持ちなのか、僕をからかいたいのか。まあ、僕を慰めようとは絶対に思っていないだろう。

「ディーノだって、ショック受けてるんじゃない?」

先程の、少し陰鬱なディーノの顔を思い出して僕が言った。

「本人の選択だ。なぜ僕がショックを受けなきゃならない?」

……前言撤回。合理性で生きているディーノにそんな感情の機微は備わっていないのだった。陰鬱な顔はディーノの標準装備だった。

「折角同じ学園で学んでたんだ。途中でいなくなるなんて淋しいじゃない?」

「そうか?お前はそれどころじゃないだろう」


……なんだ?

ディーノの返答がどこか引っかかる。


「それどころじゃないって、どういうことだよ」

ディーノに訊ねる僕に、ディーノは一言返してよこした。


「カトリーヌ嬢との仲は順調の様だな」



……現在、僕はカトリーヌに四六時中つきまとわれている。

昨年はライラ、今年はカトリーヌ……。

昨年を思い出すなぁと遠い目をしたとして、誰も僕を責められない筈だ。

カトリーヌに関しては話せる相手が今のところ僕しかいないのが最大の問題だ。今日もルークを見かけただの、ルークが挨拶してくれただの、ルークを遠くから見たいから一緒についてこいだの……。

一途な所が彼女の可愛い所でもある訳だけど、ルークに対する日々の思いを、一日中聞かされてもね……。これがこれから毎日続いたら僕の気が狂いそうだ。

早く、早く彼女に友達が出来ないかと切に願ってやまない。


この付き纏いの弊害として、僕達の様子を見た者達は日に日に僕とカトリーヌが出来ていると言う噂を学園中に広げていく。

今後のお互いの為に良くないだろうと思うのだけど、カトリーヌときたら、お父様を誤魔化せるから良いとまったく気にしないのだ。

お父様を誤魔化す以前に本命に誤解されるかもしれない可能性は考えていないのだろうか。

それとも、僕がルークに弁解するだろうことを計算済みの行動なのか。



ディーノの口から出たカトリーヌの名前を聞いて、僕は両手でこめかみを押さえて頭を抱えた。

それを見たディーノは、愉快気な笑みを浮かべる。

僕は黙ったままディーノを睨みつけたが、これは逆効果だった。

「おめでとうウィリアム」

ディーノが晴れ晴れとした顔で僕の肩を叩いた。

ディーノは無言の僕にお構い無しにさらに言葉を続ける。

「あの女の、人の迷惑を省みずに自分の信念を貫く所は称賛に値するのかもな」


ディーノのこの様子だと、ディーノも既に僕とカトリーヌの噂を耳にしているのだろう。

「ディーノが僕と代わってくれたらなあ」

はあ、とため息をつきながらディーノに助けを求めてみる。

「お断りだ」

当然のようにディーノに断られた僕だったが、ディーノの前に荷物を投げ出しながら言った。

「タダでとは言わない」

「……どういうつもりだ?」

ディーノの顔つきが厳しくなった。

「僕の作った枕。ついに製品版が出来たんだ!あげるからさ」

「バカか!」

言うなりディーノは枕の入った包み紙を掴むと僕の方へ放ってくる。

僕はというと、ディーノが包み紙を放ると同時に椅子から立ち上がり、包み紙を受け止めずにそのまま部屋のドアに向かう。受け取り手のいなくなった枕の入った包み紙が、あえなく机に転がった。

「冗談だよ!でも枕はあげるから!」

僕はディーノに向かって叫びながら、逃げるように生徒会室を退散する。

思うに、ディーノには癒しが足りてないんだよな。だから僕を虐めてストレス発散してるんだ。枕が完成したら、渡したいと思っていたんだ。

「こら、待て!ウィリアム!」

生徒会室からは、ディーノの怒声が響いていた。


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