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118.新学期

新学期。

希望に満ち溢れて登校している新入生達を見て自分が進級した実感が湧いてくる。

目に止まったギルの姿も、いつも以上にしゃんとして見えて、どことなく新学期の雰囲気だ。


「おはよう、ギル」

「ウィル、おはよう。その格好はなんだ?もうすぐ入学式だぞ、着替えてきた方が良い」

「もう少ししたら行くよ。隣空けておいてね!」

今年は昨年の様に倒れてはいられないので春休みから僕は走り込みを始めた。ランニング姿で学園の敷地を走りつつ、新入生たちの姿の中からある人物を探す。

攻略キャラクター最後の1人――ヨシュア・リンドだ。

自分の可愛さを熟知してるベビーフェイスの年下彼。前世でも、庇護欲を掻き立てられる中性的なキャラに、守ってあげたいと年上の女性ファンが多かった彼だ。

新入生の中でも一際目立つ彼は直ぐに見つかった。早速ヨシュアの虜になったお姉さま達が彼の道案内をかってでている。


ヨシュアを遠目で確認した僕は、そのまま彼を通り越して講堂方面に走っていく。しばらくすると、視線の先にライラが仁王立ちをしているのが見えた。

ヨシュアが来るのを待っているのだろう。

新学期のはじまり、もうすぐライラとヨシュアの出会いイベントが発生する。

出会いがなければ、その後に仲良くなることも嫌われることも出来ない。出会いイベントでは、会話の選択肢も存在しないし、僕の嫌いな攻略お助けアイテムが介在する余地はない。このイベントに関しては、余計な事をせずに見守る事を事前にライラに伝えていた。




シャラン、と鎖が切れて新入生が身につけていたロザリオが滑り落ち、地面にぶつかって音を立てる。

私はロザリオを咄嗟に拾いあげると、目の前の新入生に差し出した。

「どうぞ。壊れてはいないみたいだわ」

「ありがとうございます。……まさか鎖が切れるだなんて……」

お礼を言いながら視線をあげる新入生と目があった。

「……あなたは……?」

「ライラ・スペンサー」

「ライラ、素敵な名前ですね。僕はヨシュア・リンド。鎖が切れるなんて、何て不吉なんだろうって思ったけど……君と僕とが出会うための神様の計らいだったのかもしれないって思います」

そうして新入生はロザリオを私から受け取ると、天使のような微笑みを浮かべるのだった。




…………。

以上が「ときプリ」でのヨシュア出会いイベントだ。僕は目の前のライラに声を掛けた。

「ライラ、気合い入ってるね。でも、仁王立ちはよろしくないんじゃない?」

「ウィル、邪魔しないって言ったでしょ。後ろにでも下がってて」

いつもと違ってライラは真剣そのものだ。いつもは僕の方がライラにペースを乱される事が多いから、こんな状況は貴重かもしれない。ちょっとからかっていこうかな……なんて考えていると、遠くにヨシュアの姿が見えた。

ライラとヨシュアが接触するまで後50メートル。


「ウィル、ライラさんの後ろで何をしているの?」

聞き慣れた声に振り返ると、いつもの三人娘を従えたエレンが僕の傍にやってきていた。

「エレンにアリアナ、ミーシェ、マリア。おはよう」

「ウィリアム様おはようございます」

「新学期もウィリアム様とエレノア様のお話を聞かせてくださいね」

「ちょっと、何を言ってるのよ、ミーシェ」

「エレノア様、お許しください。私たち楽しみにしてますから」

「マリアまで……」


「もう!ちょっとここじゃなくて別の場所に行ってよ」

のんびり挨拶を交わす僕とエレン達にライラが文句を言う。


その時、シャラン、と何かが落ちる音がした。

ヨシュアがロザリオを落としたのだ。

すかさずライラが落ちたロザリオを拾いあげる。流石の反射神経だ。まるで獲物を狙う野生の獣みたいだ。

「はい、落としたわよ。これ」

「ありがとうございます。……まさか鎖が切れるだなんて……」

目の前に現れた新入生ヨシュアは俯きながらお礼を言う。

「どういたしまして」

ライラの声に顔を上げたヨシュアは、僕達の顔を代わる代わる見て言った。

「あなたがたは……」

「ライラ・スペンサー」

「ウィリアム・ヴォルフ」

「エレノア・ディア=アスティアーナ」

「アリアナ・グランデ」

「ミーシェ・バートン」

「マリア・ベル」

「……もしかしたら、神様が御縁を結んでくれたのかもしれませんね。新しい出会いに祝福を」

そう言って、ヨシュアはニコリともせずにそのままスタスタ歩いて行ってしまった。



「ウィル!!どうしてくれるのよ!何だか出会いが薄まった感があったんだけど?!」

僕はライラに胸ぐらを捕まれガクガクと揺らされた。

「そんな事ないよ!無事に出会えて良かったじゃない。ロザリオも拾ったし、バッチリ大丈夫だって!あんなに素早くロザリオを拾える人間なんて他にいやしないよ」

ライラから逃れたくて適当な事を言ってみるが、ライラは僕の胸ぐらを離そうとしない。

そうこうしていると、今度は後ろから突然何かがぶつかるような衝撃を受けた。衝撃の余波でライラがよろけて僕から離れる。

「ウィリアム様!こんにちは!!」

「カトリーヌ嬢!?なんでいるの?」

どうやら先程の衝撃は、カトリーヌが僕にぶつかってきたせいみたいだが、何故、隣国メールスブルクで僕の事を散々振り回してくれたカトリーヌがここにいるのだろう?

僕の疑問に、カトリーヌは意気揚々と答えた。

「愛の力で国境を越えてきましたの」

カトリーヌの大声に周りの人たちが一斉に僕たちを見る。

「愛ですって?!」

「どういうこと?!」

「聞いてないですわ!!」

アリアナ、ミーシェ、マリアが愛の力のくだりだけを聞いて騒ぎはじめた。周辺の人々もざわめき立っており、誤解が一瞬で伝播したことに僕は冷や汗をかいた。

そんな僕にはお構い無しに、カトリーヌは今度は内緒話のように声をひそめると、驚くべきことを告げた。

「ルーク様と一緒に居たくて学園に通わせて貰えるよう父にお願いしましたの。ただ、ルーク様の名前を出すと反対されると思いましたので、父にはウィリアム様の傍に行きたいという事にしてるんです。そこの辺り、話を合わせておいて下さいね!」

「ええっ!?ちょっと勝手なことしないでよ」


「愛って凄いわね……」

エレンが感心したように茫然と呟いている。

「ウィル……。変なのを連れて来たわね」

ライラの冷ややかな言葉が僕に刺さった。


***


入学の式典は講堂で行われる。新入生以外は自由席だけど……。


「カトリーヌ嬢!新入生の席は向こうだろ?あっち行きなよ」

何故か講堂内に入ってからも僕達についてくるカトリーヌに、新入生の場所に行くように促すと、驚きの返答が返ってきた。

「あら、私は2年生に入学したのです。ここであってますわ」

「はあ?飛び級制度なんてないだろ?どういう事だよ」

「その辺は愛の力で乗り越えましたの♡」

にっこりと微笑むカトリーヌに、ライラがボソッと呟いた。

「……金の力ね」

「年度末に講堂の内装の改修工事の話が突然持ち上がっていたが、原因は貴様か」

突然の冷たい声に顔を向ければ、そこにはディーノが立っている。

「氷の公爵様……!ではなくて、ディーノ様……!」

カトリーヌが慌ててディーノにお辞儀をする。

「また僕に妙なあだ名をつける気か?相変わらずだな」

ディーノが呆れながらカトリーヌに言うと、カトリーヌは少し身を縮こませながら答えた。

「ディーノ様も……相変わらずなようですね」

まあいい、と答えると、ディーノはカトリーヌの隣に座る。


「なんだ、皆ここに固まってるのか?俺もここに座ろうかな」

カトリーヌの本命、ルークの登場だ。

皆が次々にルークと挨拶を交わす中、カトリーヌは隣のディーノの陰に隠れようとする。

「おい、マッチ棒では壁にならないんじゃないか?」

ディーノは苛立たしげに言いながら、深く椅子の背に身を沈め、視界の遮蔽物となることを拒否した。

「だって、久しぶりのご尊顔で緊張が……!」

心の準備が整っていない、と慌てる様子のカトリーヌに気づいたルークは、カトリーヌの存在に驚いたようだったが、少し目を細めて挨拶をした。

「……よろしく、カトリーヌ嬢」

「は……はいぃ」

声をかけられただけでカトリーヌはすっかり舞い上がっている。

「恋する阿呆が1人増えた……」

ディーノが面倒くさそうにカトリーヌを眺めている。

「ウィル、あのお嬢さんはお前の相手でなかったか?何があったのか説明してくれ」

ギルは訳がわからないといった様子で隣の僕に尋ねてくる。

ギルに求められるまま、舞踏会初日以降にカトリーヌと僕とルークの間に起きた出来事を話しながら、僕は今年度も騒がしくなりそうな予感がしていた。

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