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114.バレンタイン

今日はバレンタインデー。

学園では朝からある噂でもちきりだった。

ギルバート様とウィリアム様がバレンタインのお菓子を焼いたらしい。そのお菓子を貰える幸運な女性は一体誰だろう。


「凄いな……。昨日の午後に作ったのに、こんなに噂ってすぐに回るんだ」

僕が感心している横で、ライラもこの噂に驚きを隠さない。

「私も一緒に作ったのに。私の存在が完全に消えてるわ!」

「僕達が作るのが余程珍しかったんだろうね……ってライラ、どこ行くの?」

「さっきから、ウィルに何か渡そうと狙ってる女生徒の気配を感じるのよ。お邪魔だから行くね!」

ライラが走り出すと、あっという間に僕は複数の女生徒に囲まれたのだった。


***


「エレノア様!ウィリアム様がバレンタインのお菓子を作ったのですって!きっとエレノア様への贈り物ですよ!ウィリアム様と1番親しい女性はエレノア様ですもの!」

アリアナが興奮気味に私に知らせてくる。どうやら、お兄様がウィルとライラさんとお菓子を作ったというのは本当だった。

ウィルってば、今までそんな事なんてした事もなかったくせに。何で今年に限ってそうなんだろう。

もしかしてライラさんへの贈り物だろうか。

でも、お兄様も一緒でそんな事するかしら?

まさか、本当に私あて?


……わからない。

わからなすぎて心が掻き乱される。

「アリアナ、どうか落ち着いて」

興奮したアリアナを宥める言葉だったが、まるで自分に言い聞かせているかのよう。

「ハッ!すみません、つい興奮しすぎてしまいました。エレノア様は落ち着いてらして流石です」

「そんな事はないけれど……。でもあまり噂に振り回されてはいけないわ」

再び私は自分自身に言い聞かせるようにアリアナに話すのだった。


講堂に移動すると、席の一角にウィルが座っている。その前には贈り物の山。

昨年までと同じ光景。

これだけ貰っていれば、贈り物の有難味も薄れるだろう。

私も毎年、バレンタインデーにウィルに贈り物をする沢山の女性の中の1人だった。想いに気取られないために、お兄様とウィルの両方にあげていたのだ。

私が密かに隠した想いに、ウィルは気づかないし、私の方でもウィルに気づかれないように隠してきた。

「ウィル、おはよう」

「エレン!おはよう!」

挨拶の言葉をかけると、いつも通りのウィルの笑顔。

あれだけ色々あったのに、脳天気なものだわ……と思う反面、いつも通りのウィルにほっとする。

「今年も凄いのね。はい、これは私から」

ウィルの貰った贈り物の山を見ながら、昨日用意したバレンタインの贈り物をウィルに手渡す。

ウィルは少し驚いた様子で、意外な事を言った。

「……今年は貰えないと思った」

「どうして?」

違和感がそのまま口をついて出てしまった。慌てて言葉を付け加える。

「……逆に、今年だけあげない理由がないわ」

「それもそうだね。いつもありがとうエレン!」

そうして返事をするウィルはいつも通りのウィルだ。

この雰囲気なら……と、私は思い切って気になっている事を聞いてみることにした。

「ウィルがバレンタインのケーキを作ったって凄く噂になっているわよ。一体誰にあげるのか?って」

「エレンまでその噂知ってるの?確かにケーキは作ったけど、ギルとライラも一緒だったんだよ?僕の分は妹のキャシーにあげた。他に特にあげる人いないしね。もう手元にもないんだ。だから、皆が期待してるようなことは起こらないんだけどなあ」

ウィルの話を聞いて、力が抜ける。

自分以外の誰かにあげてないことに安堵したような、自分宛のもので無かったことに落胆したような、どちらともいえない複雑な気分になる。

「ウィル、今日は色んな人から尾行されると思うわ。皆誰にあげるのか、本当に知りたがっているもの」

「うわ、怖いなあ」

今日は大人しくしてよう……と身を竦めるウィルの仕草が可愛らしかった。

こうしていつも通り、時間だけが過ぎていってタイムリミットが来るのだろうか。そうして私はカイン様の手を取るのだろうか。

もしそうなったら……


「来年は、あげられないかも」

ふと、誰にも聞こえないくらいの小さな声で私はため息をついた。

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