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110.お菓子作り2

ライラがピンクのレースをふんだんにあしらっている白いエプロンを取り出して身につけた。

「……天使」

思わずギルから感嘆の言葉が漏れる。

「ギル、眼を輝かせて感動してるところ悪いけど、天使は不味い。現実に戻ってきて」

僕は目の前で手をひらひらさせてギルを呼び戻す。ライラはボウルに材料をテキパキと入れていく。

「ウィルは残りの卵を割って。卵白と卵黄は別にするのよ。ギルはかき混ぜる?こうするの」

ライラがギルに手本を見せる。ボウルと泡立て器を渡されたギルがライラの真似をして卵をかき混ぜる。

「こうで良いか?」

「ええと、それじゃ混ざらないでそのまま回転してるわね……。なんて説明すれば良いのかしら?……ちょっとギルの手に触ってもいい?失礼するわ。ごめんなさい」

ライラは泡立て器を持っているギルの手をつかむと、そのまま泡立て器をボウルの中で回し始める。

「こんな感じなの。この感覚、伝わるかしら?」

「あ、ああ……」

ライラに不意に触れられて、ギルが動揺している。しかし、決して嫌そうな感じには見えない。なんだか良い雰囲気だ。

これ、僕お邪魔かもしれない……。

「ウィルは残りの卵白もボウルに入れてね」

ライラはギルの手を離すと砂糖を計量しながら僕に指示をした。

「はいはい」

答えながらギルを見ると、少しぽーっとしてるように見える。

ライラ、罪なやつだな。


「こんなもんかしら?そろそろ全部1つに混ぜて生地を完成させましょう」

「このまま流し入れれば良いのか?」

「そうそう……。で、ざっくり混ぜてっと」

「今度は余計なもの入れるなよ」

念の為ライラに釘をさす。ライラは肩を竦めてみせた。

「ウィルがいたらできないわね」

そうしてライラはできた生地を指でひとすくいして味見をする。

「うん、美味しいと思う!太りそうな罪深い味だわ……。2人も食べてみて」

「え?しかし行儀悪くはないだろうか?」

ライラの言葉にギルが戸惑いながら返事をした。

「味見だから良いのよ!」

再び生地を少し食べるライラを見て、ライラの真似をしてギルもボウルから生地を指ですくって口に入れた。

「美味しい……」

「でしょ?」

2人がにっこり笑い合う。何だろうこの新婚家庭に土足で踏み込んで当てられてる感。

この2人のカップリングって、やっぱりいいよな……なんて考える僕。

「ウィルも味見する?」

「いや、僕はいいよ」

ギルバート×ライラの余韻に浸りながら答えると、ライラがケーキ型を僕に手渡しながら言った。


「じゃあ生地を型に流して……で、ギルのほっぺについた生地を取ってあげてね」

「……え?」

「ほら、あの白い柔肌に触れるチャンスよ!」

ギルを見れば、確かに頬の端、唇に近い場所に生地がついている。

「ほらほらさあさあ。ステテコパンダ様ならこんな美味しいシチュエーション、見逃す訳ないわ」

「……やる訳ない!」

即座に否定する僕。

「直接唇でかすめ取ってくれてもいいわ。ギルごと味見しちゃって!」

「変態!!何でそんなこと思いつくかな」

「ステテコパンダ様の同人誌で見たことあるネタよ。ほら、冬の新刊」

「僕かよ!」

あまりの話に思わず鳥肌が立った。


「ライラが取ってあげてよ。その方がギルが幸せになれるから」

「ウィルがしてくれた方が私は幸せ」

「ギルの意思は無視かよ」

「そんなのお互い様でしょ。どっちも直接ギルには聞いてないんだから」

「男にそんな事されて喜ぶ男なんていない!」

「そんな訳ないわ。相手に自分を意識してもらうチャンスよ!」

「……2人で何を揉めてる?早く型に入れて厨房に持っていかないか?」

ライラと言い合っていると、ギルが僕達の仲裁に入った。

「えっと、そうだね。型は……って僕が持ってるのか」


型を机において生地を入れようとした時、突然生徒会室のドアが開けられた。

「いや~何だか甘い匂いがしてると思ったら、君たちは何をしてるんです?」

「ルノワール先生!珍しいですね……」

普段は会議がある時しか生徒会室に来ないルノワール先生の姿に僕は驚いた。

「すみません、もうすぐ片付けます」

「生徒会室でお菓子作りですか?」

「明日皆さんに配るお菓子を作っていて……もう終わるのですみません」

ライラがバツの悪そうな顔でルノワール先生に答える。怒られると思ったのだろう。しかし、意外にもルノワール先生は優しく微笑みながら言った。

「そういえば明日はバレンタインデーでした。皆さんに配るお菓子とは、感心な事ですね……おや?」

うんうんと大きく頷いていたルノワール先生は、どうやらギルの顔についたお菓子の生地に目を止めたようだった。

「ギルバート君、口の端についてますよ。……これ、使ってください」

そう言いながらルノワール先生は自身のポケットからハンカチを取り出した。

「すみません、ですが……」

「大丈夫、先生のハンカチをこうして裏側に折り返せば綺麗な面が使えます」

割と強引に勧めるルノワール先生に押し切られる形でギルが先生のハンカチを手に取る。

こうして、僕とライラの目の前でギルのほっぺについた生地はルノワール先生のハンカチに拭き取られていった。

「ちょっと、こんな展開望んでなかったんだけど!?」

「僕に文句言っても仕方ないだろ?」

ヒソヒソと話す僕達2人を余所に、ルノワール先生は上機嫌で生徒会室を後にした。

「ライラさんも、あまり頑張り過ぎないようにして下さいね~。ハッピーバレンタインイブ!」

「「「…………」」」


「先生……すごく機嫌良かったけど、どうしたのかしら」

「さあ……?と、とにかく型に入れてさっさと学食の厨房に持っていこう」

「そ、そうね」

そうして僕達は学食の厨房に生地を持っていき、オーブンで焼いてもらうよう頼んだのだった。


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