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11.ダンスのお相手

本日2回目更新

ライラが僕にダンスを申し込んだ。

ギルは僕を見るし、エレンは僕の隣で身体を強ばらせている。エレンに触れている腕から彼女の動揺が直に伝わってくる。

一言の相談もなしに直前まで姿を見せなかったライラ、マナー講座を立ちあげるもエレンのもとには来ないライラ、かと思えば、兄のギルバートにはエスコートされ、実際に友達以上恋人未満な扱いを受けているライラ。

ここで僕までライラの手を取ってしまったら、エレンは傷つくのだろう。それは嫌だ。


「ライラ、君と踊れる僕は幸運だ。それでは後ほどご一緒しよう。生憎、今は先約があるのでね。」

そう言うと、エレンの腰を抱いている手に力を入れてエレンと一緒にホールへ向かう。

「え?ウィル、ちょっと、約束って・・・」

エレンが何か言いかけているが、黙らせるために手にさらに力をこめ、エレンの身体を抱き寄せて歩く速度を早める。

ライラは、僕の言葉に信じられないといった様子で眉間に深い縦ジワをいれながら俯いて何か考え込んでいる。今までのライラからはにわかに信じられない挙動不審ぶりに物凄く違和感を感じる。

すかさずギルがライラの前にたち、

「私とも踊って頂けますか。ダンスをしているあなたを今度はもっと間近で見ていたい。」とダンスを申し込む。

ギルの言葉に我に返ったライラは、

「はい、ギルバート様。大変光栄です。」と優美に微笑みながら答え、2人はダンスホールの中心に向かっていった。

ギルとライラとは違う方向に進路を変え足早に歩く僕の前に今度はディーノが立ちはだかる。

「エレノア様にウィリアム、御機嫌よう。ウィリアム、エレノア様は僕と踊る約束をしている。離してもらおうか。」

そう、僕はエレンとは踊る約束なんてしていない。約束をしていたのはディーノだ。まあ、半ば強引に約束を取り付けたのは想像に難くないけど。

「悪いが、それは出来ない。それに、学長が君を労うために近づいてきているから、そちらの対応をすませたらどうかな、ディーノ。」

僕の言葉にディーノが会場を見回した隙にまたエレンを連れて歩き出す。正直、ディーノを上回る強引ぶりである。

「ちょっ・・・・・・ウィル!」

エレンが僕の腕を引っ張る。

「どうしたの?あなた変よ。」

エレンが僕の足を踏む。

「ウィルってば!」

ついにほっぺをつねられた。

さすがに足を止めてエレンに向き合う。


「ウィル・・・・・・。何でこんな・・・。」

見れば心配そうな瞳が僕を覗き込んでいる。冷静になれば、およそ紳士的とは言い難い自分に気づき、しょげる。

「うん・・・ごめん。何というか、上手く言えないけど、・・・・・・・・・・・・一緒に踊ってくれる?」

今更な申し出が可笑しかったのか、エレンがちょっと笑った。


音楽がはじまり、ホールは色とりどりのドレスが舞っている。その中を僕とエレンもくるくると踊る。エレンとは練習では何度も一緒に踊ったことがあるが、年齢的にまだ社交界デビューしていない僕らは、このような正式な場で踊ることは始めてだなあ、なんて感慨にふける。

さっきまでの僕は少し苛立っていたと思う。

ライラが僕をダンスの相手に選んだことにも、エレンを軽んじることにも、そんなライラに惹かれているギルにも、変わらず脳天気なルークにも腹が立っていた。でも、エレンとのダンスが楽しくて、今は先程のことなんかどうでもいい。

音楽はあっという間に終わった。少し名残惜しさを感じていると、エレンが口を開く。

「誘ってくれてありがとう。ウィルと踊れて楽しかったわ。」

「僕もだよ。エレンの次の相手はディーノかな?」

エレンは律儀なので、一度約束したことは必ず守ろうとするところがある。僕がさっきディーノにした仕打ちも、僕の代わりに悪いと思ってしまっているかもしれない。

「ええ、そうなるかしらね。ウィルはライラとかしら。」

「ライラとは踊らないよ。」

僕の返事にエレンが驚愕する。

「えっ・・・。どうして?だってさっき、後ほどって・・・。」

「どうしても何も、踊りたくないから踊らないよ。」

「それではなぜ約束するようなこと・・・。」

「ああ言っておけば角が立たないでしょ。」

これにはエレンがちょっと怒ったようだった。

「そーゆーことするから女子が誤解するのよ・・・!」

このセリフは中等部の頃からか、エレンによく言われている。いつもだいたい僕が女生徒に何か言った後に、背中に刺さる手刀とともに言われることが多いのだが。

「大丈夫だよ。急に用事が入って忙しくなったことにするから。そんな訳で僕はこのままバックレるさ。」

「そういう問題では・・・!」

言いかけて、エレンがふと口を止める。

「・・・そういえば、ディーノとは、具体的にいつ踊るとは約束していないの。だから、・・・・・・もう1曲くらいなら付き合ってあげても良いわ。」

今度は僕が驚く番だった。

「・・・喜んで。」

にっこり頷くと、再び僕はエレンの手をとり、踊りの輪に入っていった。


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