10.パーティ
パーティーが始まった。
ディーノは苛立ちを隠せない様子でダンスの時を待っているようだった。僕だってディーノの立場だったら困惑するし怒るだろうと思ったから、さすがにディーノに同情してしまう。もし、このままライラが来なければ、エレンがライラの代わりに踊る事になっている。
ギルとエレンの挨拶が終わり、いよいよダンスの時間になる。
ディーノがエレンとホールの中心に出ようとした時、夜会用の淡いグリーン色のオフショルダードレスに身を包み、階段脇からライラが駆けてきた。
「遅くなり、申し訳ございません。」
「何を今更!」とディーノは言っているが、まあ、その通りである。
「踊れるのか?」
「どんな場面でも完璧に踊れる自信があります。貴方の足は引っ張りません。どうか信じて下さい。」
多分、ギリギリに出てきたこと自体が考える隙を与えさせないと言う彼女の計算だろう。
実際、もう時間が無いので前に出るしかない。
眩い光の中、ホール中心に2人が手を取り進んで行く。会場がその一点に集中する。
ライラが目を伏せ一息ついて左手をディーノの腕に添え、ディーノを見つめた。
ディーノがライラをホールドする。
音楽が鳴りはじめた。それからは流れる星のようだった。ホールの光を絡めとりながら、
淡いグリーンのドレスがキラキラと舞う。
ん?あのドレス見間違えじゃ無ければ、本当に発光してる・・・。え?そんな素材この世界にあるの??
凄く気になるが、それより2人だ。
ダンスの練習はしていないはずなのに、お互いひとつも乱れずに曲についていっている。ディーノは最初こそ驚いた顔だったが、直ぐにライラの力量がわかったのか、少し笑みを浮かべながら、アドリブで振り付けを仕掛けたりもしてる。
楽しそうに笑いながら、ゆっくり音楽が流れる。2人から目が離せない。
ディーノが踊りながら何かライラの耳元で呟き、顔を赤くしたライラの肩口にキスを落としていた。
ああ、これもスチルで見た事がある。ライラの踊りのスキルをマックスまで上げた状態でディーノのエンディングを迎えると貰えるオーロラのドレスを装備しているライラにディーノは感嘆し、「私は貴方を少し舐めていたようだ。この無礼をお許し下さい。私に貴方を知る権利を。」とキスをする。一周目ではまず見られないスチルだ。
音楽が止み、割れんばかりの拍手が2人を包む
ルークは
「流石、ライラ嬢だな」
と満面の笑みを浮かべてる。
ギルは
「妖精はこの世にいたのだな。」
と呟いて、次にライラと踊る為に我先にと前に出る準備をしていた。
ホール袖で残されたエレンは複雑な表情をしている。元々、中々こないライラの代わりを頼まれて、直前まで自分が踊るつもりだったのに、横から急に取られたのだ。踊る事自体に執着は無かっただろうが、複雑な心境になるなと言う方が無理だろう。
この後、ゲームではエレンがホール袖に帰ってきたライラの前に出て、ライラのダンスが上手くても、下手でも『何処でその踊りを覚えてきたの?町では踊りも教えて貰えるのですね。とても短期間で覚えたように思えなかった。』と言う。
今までの流れからするとごく普通の感想を言うのだが、ダンスの出来がよかった場合は単なるやっかみからの嫌味、ダンスが散々な場合は市井の者は踊りも踊れないのねと王族が市民を馬鹿にした発言と捉えた攻略キャラクターの1人ーその時点で親密度が1番高い相手ーがライラの近くに来て、エレンから守ってくれる。その後に自分の選んだ攻略キャラクターとダンスを踊るイベントの発生だ。
ライラがホール袖のエレンの近くに戻ってきた。エレンは完全に驚いた状態で、口を開けてしまっている。
僕はエレンに駆け寄り、エレンの腰を抱き、意識をこちらに向けさせた。
そして、ライラには僕からエレンがいうはずのセリフを言った。
「ライラ嬢、随分と遅かったね。『何処でその踊りを覚えてきたの?町では踊りも教えて貰えるのですね。とても短期間で覚えたように思えなかった。』」
さあ、答えろ。
ライラが、ギル、ルーク、僕の方を見て、静かに笑った気がした。
次はご褒美イベントだ。
ライラがゆっくりと口を開く。
「お褒めにあずかり光栄です。それでは、私と一緒に踊って頂けますか?ウィリアム様。」
ライラが選んだのは、僕だった。




