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寺田悠希の使命 2

「そんなことだろうなとは思ってたよ」

「えー、驚いてくれると思ったのに」


 そいつは残念だったな。

 それに、なんとなくそうだろうなとは思ってたんだ。

 爺ちゃんも悠ねぇも、一度案内された人が案内人になってんだ。その後、悠ねぇに案内された俺が案内人になっても不思議じゃないだろ。


「そう言われたらそうなんだけど、別に断ってもいいんだからね? 次の人が来るまでこの真っ白な世界に閉じ込められるんだし」

「なんだその苦行……」


 こんな何もないところに半永久的に閉じ込められるとか、常人には耐えきれないだろ!?

 ……いや、俺たちは魂だけの存在だから、発狂も何も無いんだとは思うけどさ、……流石に暇すぎるよな。


「私なんて、『現世に強い後悔を持ったまま亡くなった親族』が来るまでここから出られないって、おじーちゃんが教えてくれなかったから、ずぅっと待ってたんだよ……?」

「そりゃあ、ドンマイとしか言いようがないな……」


 とはいえ、結局は次の人が来るまで待機せざるを得ないわけか。

 それも『現世に強い後悔を持ったまま亡くなった親族』という、限られた条件を持った人のみ……。

 ――――何というか、割に合わない苦行を強いられてるんだな『黄泉還り』の案内人って。


「で、どうするの? やる? やらない?」

「ちなみに、やらなかったら何かあるとかあるのか? たとえば……、地獄に落ちるとか」

「やだなぁ、そんな歳して地獄なんて信じてるのー?」

「いや、悠ねぇがわざわざ案内人になる理由がわかんなかったから、そうじゃないかと」

「違うし! 私がお世話になったから、その恩返しじゃないけど、次の人のことをちゃんと案内してあげようって思ったの! ……案内、出来てた、よね?」


 あー、もう……。泣いてる暇なんてないんだろ?

 紆余曲折あったかもしれないけど、俺は悠ねぇに案内してもらって良かったと思ってるんだから。

 だから、もう泣くなよ。


「う、うん。ありがと……。そ、それで、ならないって選択をしたら、うちの家系は二度と『黄泉還り』出来なくなるんだって」

「なるほど……、ちなみに理由は?」

「それは口伝されてないみたい。でも、元々は全ての家系で『黄泉還り』が出来ていて、初盆の盆入りは晃が橙子ちゃんと会ったように、『黄泉還り』してきた同士の人たちのやりとりも多くあったみたいだよ」

「なるほどなぁ」


 もしかしたら、遥か昔は生者の人たちも『黄泉還り』について知っていたのかもしれない。

 だからお盆が生まれて、盆入りの日に死者の魂が戻ってくるとされたんじゃないだろうか。

 ……なんて、今考えたってどうしようもないんだよな。


「こうやって俺に選択を迫っているってことは、悠ねぇが続投することは出来ないんだよな?」

「そうそう。いや、やれたとしても、もう二度とやりたくないけどね!」

「そうだよなぁ……。悪い、考えさせてくれ」

「四十秒で答えてね」

「短いな、おい」


 時間がないって言ってたけどさ……。

 なに、そんなにあと少ししか時間がないのかよ?


 ――――だとしたら、愚痴ってる暇なんてないな。


「ちょっとだけ話してもいいか?」

「しょうがないなぁ。どうしたの?」

「たった一年で、何もかもがこんなに変わってしまうなんて、きっと、生きている間は思ってもみなかったんだろうと思う」

「変わったんじゃないよ、みんなが晃の死を乗り越えたの」


 変わったんじゃなくて、乗り越えた……?


「そう。さっき晃が言っていたけど、もちろん変わらない人なんていない。でも、あの人たちは違う。みんな、晃の死を受け止めて、前に進むことを選んだ。ただそれだけだよ」

「そうか……そうだよな。そう考えると、俺は凄く幸せ者だ」

「うん。晃は幸せ者すぎて、寛大な私でも嫉妬してしまうレベルで幸せ者なんだよ?」

「……ちょっと待て、悠ねぇが寛大だった思い出が、全くといって無いんだけど?」


 からかってたのかどうかはさておき、悠ねぇはいっつも俺のものを取っていた気がする。

 それこそ、ガキの頃の俺といい勝負するぐらいに、悠ねぇは欲張り屋さんだった。

 その強欲さに、ほんの少しだけ憧れもしたっけ。


 ――――だから、ちょっとだけわがままを言ってみるか。


「あー、やっぱり悔しいなぁ。もっと、もっと生きていたかった」


 健治とバカなことで盛り上がっていたかった。

 安室教授から色々な事を学びたかった。

 徹先輩の夢を応援したかった。

 克正と舞の子供の成長を見たかった。

 橙子ちゃんのお墓に花を供えてやりたかった。

 満秀爺ちゃんが望んでいた人みたいになりたかった。

 文乃にもっと様々な事を教えてあげたかった。

 結実と喧嘩しながらも肩を寄せ合う日々を送りたかった。

 父さんと母さんにもっと親孝行してやりたかった。

 兄さんとまた心から笑い合えるようになりたかった。

 悠ねぇに俺は幸せに生きてるから心配すんなと言ってやりたかった。


 ――――けど、もう何一つとして叶えられない望みになってしまった。


「でも、もう叶わない願いなんだから、俺ができることはただ一つしかないよな」


 どれほど手を伸ばしても、その願いに手が届くことはないと『黄泉還り』中の悠ねぇは言ってた。


 ――――けど、違う。


 確かに、俺は死んでしまった。

 もう、みんなの側にはいられない。

 共に未来へと歩むことすら、二度と許されることなどありはしない。


 だとしても、叶えられる願いだってある。

 家族の幸せを応援することだって出来るんだ。


 だったら、俺は――――。


「悠ねぇ、俺も案内人になるよ」

「……この真っ白な世界に、いつまで閉じ込められているか分からないよ。それでも、案内人になってくれるの?」

「ああ。やっぱり、俺は誰かの役に立ちたい。それに……」

「それに?」

「それに、俺がみんなから忘れ去られたとしても、もう一度みんなに会いたいんだ」

「私みたいに、誰にも会えないかもしれない。覚えていたとしても、他人の空似程度だと思われるよ。私がそうだったでしょ?」


 そうか、悠ねぇが突然乱入してきたのは、そういった意味も込めてやっていたのか。

 母さんの手料理を食べて、急に泣き出してしまったのは、きっと、自分の家族を思い出したからだけじゃなくて……。


「それでも構わない。自分が生きていた跡さえ残ってくれていたら、それで充分だ。……なんてな。ただの自己満足だよ。何もせずこのまま消えてなくなるよりも、俺が生きていた奇跡を、もう一度だけ味わってみたいんだ」

「――――うん。それなら、安心して晃に任せられそうかな」

「ああ、任せとけ」


 いえーい、とばかりに悠ねぇが右手をあげるもんだから、俺もそれに合わせて右手を掲げて力強くハイタッチ……。


「――――――――っ!!」


 ハイタッチできるはずの腕は空を切り、代わりに悠ねぇの右腕は、細かい光の粒子になって消えた。

 呆然としてしまった俺を見て儚げに笑った悠ねぇは、肩を震わせながら俺から背を向ける。

 ……泣いている姿を決して見せないように。


 ――――ああ、もう時間なのか。

 じゃあ、ちゃんとさよならしなきゃな。


「……そしたら、私は先に行くね!」

「おう、()()()()()!」

「ちょっと……! それ……っ!!」


 パッと振り向いた悠ねぇは、相変わらず表情がぐしゃぐしゃになっていた。

 ほら、もっと泣けよ。今まで散々からかってきやがったから、最後にもう一回くらい、からかい返してやる。


「――――それを、今になって……っ、言うのは、ズルいよ……!!」

「ほんと、悠ねぇはすぐ泣くよな」

「う、うるさいなあ………っ!」


 ……なんて、冗談だよ。冗談。


「子供のころ言ってくれただろ。『きっとまた会えるから、笑顔でバイバイしよ!』って」

「晃ぁ……」

「だから、笑ってくれ。そんな顔で別れたくない」

「……うん。もうっ、泣きに来たくせに、偉そうなんだからぁ……! 次会った時は泣かせてあげるから!」

「ああ、その時まで覚悟しとくよ!」

「――――じゃあ、また今度ね! 晃!!」

「――――ああ、また今度な! 悠ねぇ!!」


 じゃあね、なんていいながら助走をつけて、悠ねぇは俺の胸元へと突っ込んでくる。

 下手すれば結構痛そうなタックルだけど、避ける必要なんてない。

 そんな嫌がらせはもう必要ない。


 ――――お疲れ様と、今までありがとうと、精一杯の気持ちを込めて、初恋の人をぎゅっと抱きしめた。


 胸の中に飛び込んだ悠ねぇは、そのままゆっくりと瞳を閉じて……


 細かい光の粒子になって、どこかへと消えてった。


 ……でも、良かった。

 最期にとびっきりの笑顔が見れたから。

 やっぱり、悠ねぇは笑っている顔が一番好きだな。


 もう会えないと思うと、やっぱり涙がとまらないけど。

 また、からかわれたいって思ってしまうけど。

 ――――それでも、笑って消えた悠ねぇをまた悲しませるなんて出来ない。


 だって、俺はいつまでたっても、誰かの笑顔のために頑張る男だからな。


「……さて、ちょっとだけ寝てから、どうするか考えなきゃな」


 強引に涙を拭って、白い空間に横たわる。

 浮遊感のおかげか、なかなかに寝心地がいい。


 今になって思い返すと、死ぬ直前も、『黄泉還り』の時も、ずっと何かをしていた。

 もう肉体なんて存在しないのに、疲れていると感じてしまうのは、きっと精神的な物……いや、魂か。

 魂が、いい加減に休憩したいと訴えているんだと思う。


「みんな、ありがとな。それと、俺からは何も返せなくてごめん。けど、みんなのおかげで、俺は幸せだったよ」


 安室教授、徹先輩、冬弥君、文乃、克正、舞、健治、結実、父さん、母さん、兄貴、そして悠ねぇ。


 本当に、ありがとう。


「……だから、これで本当にサヨナラだ。俺は先に休ませてもらうよ。


 ――――――――おやすみ」


 別れの一言を終えてゆっくりと瞳を閉じると、まるで水の中に潜っていくかのように、深い暗闇が俺の体を包み込んだ。




 《俺が案内人になるまで あと614197時間》

次回、終章です。

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