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事件発生

僕たちが遊びに出ると、ぽつりぽつりと、小雨が降ってきた。

「雨だな。どうする。」

薊に問いかける。

「うーん。まあ、大丈夫だよ!なんとかなるって。いこいこ!」

そう言うので、僕もそれに付き従った。

そして、結論から言うと、大丈夫ではなかった。

雨はすぐに強くなり、どしゃ降りになった。

雷が遠くで光っている。

「あー!濡れるー!急げー!」

僕たちは、ペンションまでの道程を駆け足で通った。

そして、結論から言うと、ずぶ濡れになった。

ペンションに帰った僕たちを、吉田さんが出迎える。

吉田さんは僕たちを見て、どこかに立ち去り、すぐに戻ってきた。

手にはバスタオルを持っている。

「どうぞ。お使いください。」

「ありがとうございます。」

頭を下げてバスタオルを受け取り、体を拭いた。

部屋に戻り二人で寛ぐ。

雨脚は段々と強くなっていった。

どす黒い空には一切の光がない。

まるで、空を巨大なゴキブリの皮膚が覆ってるような天気。とでも言おうか。

下手したら、しばらくペンションから出られそうにない。

「すごい雨だね。嵐かな。」

時折、空に稲光が走る。

「そうだね。大荒れだな。」

二人で窓辺に立ってのんびりと外を眺める。

夕飯時になって、吉田さんが僕たちを部屋に呼びにきた。

「お食事のご用意ができましたので、食堂にいらしてください。」

「はい。」と返事して食堂に降りた。

食堂には、泊まり客の半分がすでについていた。

ヤクザ探偵にヤンキース、女性二人組と、それから真央だ。

真央は、入ってきた僕たちを見て目を見開いた。

どうやら僕たちに気が付いたらしい。

反対に、僕たちは気が付かないフリをして、真央から離れた席に座った。

しばらくしてから入ってきた彰さんと神名さんが僕たちの両隣につく。

彰さんが薊の隣に、神名さんが僕の隣にだ。

これで、泊まり客が全員この食卓に揃った。

すぐに薊が立ち上がって言った。

「チェンジ。」

僕と薊が席を入れ替わる。

「だいたい、あなたなんで、生の隣に寄りたがるの?」

薊が神名さんに文句をつける。

「なんていうのかな。明確な理由は存在するよ。けど、それを言葉で表現しようとすると、なんとなくと言うしかなくなる。」

「よくわからない。」

薊が小首を傾げた。

「わからなくていいよ。ただ、別に惚れたはれたに入りたいわけじゃない。」

どんな理由なんだろうか。

そんなやり取りをしていると、吉田さん親子が料理を運んでやってきた。

吉田さん親子は配膳を終えると、自分達も席についた。

何事かと思って見ていると、弁明するように口を開いた。

「申し訳ない。私たちも食事まだでして…、食事がとれるスペースがここ以外にないのですよ。」

皆を見回した吉田さんが軽く頭を下げる。

別に対して気になるようなことじゃない。

これでこの食卓の席は全て埋まったことになる。

一番に真央が。

二番から四番にヤンキースが

五番に吉田さんが。

六番から七番に女性二人組が。

八番に神名が。

九番に薊が。

十番に僕が。

十一番に彰さんが。

十二番にガキー太郎が。

十三番にヤクザ探偵がついた。

不吉な十三番には、毎回ヤクザ探偵が座っている。

迷信は気にしないタイプなのか、それとも、不吉とか縁起が悪いとか言われる物に正面からバトルしたくなるタイプの性格なのかもしれない。

誰かが言ったいただきますの声と共に、皆が料理を貪り出した。

料理は、すごくうまかった。

今日は家庭的肉料理の決定版、すなわちハンバーグだった。

皆が口々にうまいうまいと言ってハンバーグを食した。

食事を終えると、すぐに吉田さん親子は立ち上がり仕事に戻った。

回りの人たちから承諾され次第、食器をキッチンに運んで行く。

全ての食器を片付けると、吉田さん親子は食卓に現れなくなった。

食事を終えて、食卓でなんとなく客同士で話していると、真央が立ち上がり僕たちの方に寄ってきた。

僕のすぐ後ろに立ち、「ねえ。」と声をかけてくる。

「あんた、生、白井 生だよね。」

体を鳥肌がかける。

振り向かずに無視を決め込んだ。

いいえ違います。

僕は今だけ黒井 死さんです。

人違いですし、色違いです。

なかなか出ないんですよ。

レアですよ。

ですのでお引き取りください。

心の中でおどけて平静を維持することに努める。

僕と真央の間に薊が割って入った。

「私も彼も貴女のことなんて知りません。帰ってください。」

薊が冷たく拒絶するよそよそしい敬語で、真央を突き放しにかかった。

「私たち、貴女に話しかけられる縁も所縁も義理も、なにもないですから。」

「そう。…じゃあ、一言だけ、独り言、言っておくよ。」

一呼吸おいてから、暗い声のトーンで言った。

「あのときは、すまなかったね。」

それだけ言って、真央は食卓から出て部屋に戻って行った。

何がすまなかっただ。

そんな一言だけで、僕の…、あの…。

僕は憤りを、抑えようにも抑え切れない苛立ちを、必死に押し殺した。

そんな様子を見て、彰さんが近寄ってくる。

「なんだいなんだい。ただならぬ因縁って感じだったけど大丈夫かい?昔の女とか?」

「いいえ。ただの知らない人ですよ。」

僕は彰さんの顔を見ずに言った。

「そうか。」

彰さんはポンポンと、僕の肩を叩いてくる。

僕たちの事情は一切、理解していないのだろうが、励ましてくれているのだろう。

「少年。世界は広い。海は大きい。空は無限大だ。辛い心は、優しく温かい世界に解き放て!」

そんなおふざけに、少し気分が明るくなった。

「解き放ったら解き放ったで、ごみのポイ捨ては法律で禁止されてるから罰金ニ万とか言われるのが、この優しく温かい世界ですけどね。」

おどけて言うと、心の熱が平常に戻ってきた。

「ゴミはゴミ箱に。エコロジック・モンキーなものでして。」

何を言ってるのかわからねぇとは思うが、どうにか気持ちをニュートラルに戻す。

息を吐いたらもう平気。

お騒がせしました。

続いてヤクザ探偵が、そして、一緒に女性二人組がいなくなった。

次に、ヤンキースの金髪パンチと山姥が、リーゼントを残して去って行った。

喧嘩でもしたのだろうか。

それか、リーゼントと金髪パンチが山姥をめぐって三角関係になり、勝利したのが金髪パンチとか、そういう昼ドラがあったのか。

しばらく、残り物の五人でお話をしていると、金髪パンチと山姥がやってきて、入れ替わりにリーゼントが消えて行った。

金髪パンチに彰さんが声をかける。

「あの二人と喧嘩でもしたのかい?」

ずばっと核心に切り込んで行った。

金髪パンチは首を振って答える。

「いえ。そういうわけじゃないんすよ。けど、なんてぇかな。まあ、色々、訳はあるんすよね。」

金髪パンチの話は要領を得ない。

「三角関係とかだったり?」

さらに無神経に、彰さんが切り込んで行った。

「いやいやいや!ないないない!ないわー!」

ものすごい勢いで否定したのは山姥。

「皆、ただの遊び仲間やんな。」

何故か訛る山姥。

三角関係でもないようだ。

まあ、用事なんかいくらでもあるか。

僕はその辺りで、その話への興味を無くした。

しばらくして、食堂に吉田さん親子がやってきた。

「皆さま。こちらでしたか。ケーキがあるのですが、いかがですか?」

食堂にいる人たちは全員、ください。と注文した。

「では、お持ちします。」

吉田さんが、太郎に指示を出す。

「多分、他の人たちは部屋なのかな。声かけてきて。」

太郎は渋る。

「えーっ?なんで俺が?めんどくさい。オヤジ行ってくりゃいいじゃん。」

大の大人が、地団駄を踏んで嫌がる。

「いいからいきなさい。給料出さないぞ。」

そう吉田さんに言われると、渋々、太郎は食堂を出て二階に上がって行った。

「大変そうですね。」

彰さんが吉田さんに話しかける。

「本当ですよ。もうあれも二十歳になるんですけどね、てんでガキのまま大人になっちゃいまして。」

二十歳だったのか。年上だったのか。衝撃の真実だな。

「うわーお。」

小さく仰け反る動きを加えながら驚いてみた。

太郎を待ちながら、なんとなく時間を過ごしていると、二階から声が聞こえた。

「うやああああああああああああああああああああああああ!!!」

それはまるで、アポカリプスに記された終焉が訪れたような悲鳴だった。

食堂にいた人たち全員が顔を見合わせる。

「はあ。なんだって言うんだ。少し様子見てきます。」

呆れた顔で、吉田さんが食堂を出ていった。

ガキー太郎のよくあることなんだろうか。

お父さん、大変だな。

気になったのか彰さんが、吉田さんに付き添う。

「どうしたのかな。」

薊が僕の腕を引きながら尋ねてくる。

「僕に聞かれてもわかんないよ。僕、太郎じゃないからね。太郎に聞いてくれ。」

「すごい声、だったね。」

神名さんも、きょとんとした顔で僕たちに同意を求めてくる。

「ひとりのど自慢大会in太陽の島かな。」

僕が呑気にそんなことを言っていたら、勢いよく食堂のドアが空いた。

吉田さんが血相を変えて、まるで熊にでも襲われたかのような表情を見せている。

「皆、談話室に集まってくれ!大変なんだ!殺人だ!人が殺された!」

…えっ?

僕じゃないよ?


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