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太陽の島

きらきらと輝く日差しの中で、心地よい潮風を体に感じる。

僕は手すりに捕まって、海を眺めていた。

太陽の光が清らかな水面に反射して目に突き刺さる。

「生、そろそろお昼だよ。」

後ろから、名前を呼ばれる。

振り返り、「ああ、わかッ」口におにぎりを突っ込まれた。

もがもがと、困惑して口を動かす僕を見て、僕の幼馴染みの恋人は、いたずらっ子のような笑みを浮かべて笑っていた。


少し前、僕の専門学校は夏休みに入った。

夏休みに入るとすぐに、薊がにこにことした顔で、僕の家にやってきた。

「これ見てよ。」

そう言って見せてきたのは、一枚のチケットだった。

「なにこれ?アーキーバーよんはちのコンサートかなんか?」

アイドルのコンサートのチケットかと思い覗き込んだが、それはアイドルのアの字もないチケットだった。

「夏の無人島満喫バカンスツアーペアチケット。」

なんだか、胡散臭いタイトルのチケットだった。

「あのね。商店街で福引きで一等出て当たったんだ。一緒に行こうよ。」

期間は一週間、出発は明明後日だ。

「僕はかまわないけど、親御さんの了承は得たのかな。」

薊は大きく頷く。

「もちろん。許可は貰ったよ。」

そう言って満面の笑顔を僕に見せた。

「ならいいか。うちは放任主義だから、特に何も言われないだろ。」

かくして、無人島バカンスへの参加が決定した。


はい。回想終わり。

で、現在に至るわけだ。

口に入れられたおにぎりを咀嚼する。辛子明太子だ。

辛いの苦手なのに。

口のピリピリ感がよろしくない。

もぐもぐしてごっくんした。

「おお、食べた?美味しかった?じゃあもう一口召し上がれー!」

そう言って、眼前に辛子明太子おにぎりが突き付けられる。

「薊、なんだかハイだな。最高にハイだ。いつもの3000倍ぐらいハイだ。首を30回ぐらい取り替えたりしたのかな。」

そう言って、チビッ子のヒーロー、あんこマンになぞらえて、今の彼女を評価する。

「そうなんだよ。元気100倍を繰り返し繰り返し、もう首が痛いよ〜!ってそんなわけねーだろー!バシバシ。」

バシバシ。擬音を口ずさみながら肩をはたいてきた。

「そんなことより、着いたら何しようかー?虫網とかあるし、釣具も持ってきたし、水着に浮き輪に、それから後ね、ビーチボールとかあるし、何でもできるよ!」

今にも飛び上がりそうな勢いで、上機嫌をアピールする。

「あ、とりあえず、おにぎりか。はい。」

薊は僕が口にしないでいたおにぎりを、再び僕の口の前に置く。

辛子明太子のおにぎりを、辛子明太子、辛子、辛い、痛い、嫌い。

「もうしわけないんだけど、僕今ッ」お腹空いてないんだ。そう言うよりも早く、再びおにぎりが口に投入された。

入れられた分は、きちんと噛んで飲み込む。

「お腹空いてないんだ。」

遮られた一言を口にすると。

寂しそうな顔をしながらおにぎりを引っ込めた。

「そうなの?わかった。仕方ないな。今回は、私が貴方を立ててあげましょう。」

そんなやり取りをしている内に、目的地の島が見えてきた。

太陽の島という、爆発しそうな芸術作品と同性同名の島だ。

僕は薊の鞄を勝手に漁り、中からガイドブックを取り出して読む。

「太陽の島。丸い形をした島で、回りに等間隔で小さな小島が点在していることからこの名前がついたと言われている。ちょうど、太陽のデフォルメをイメージして貰えると分かりやすい。島は真ん中になるにつれて地面が高くなっている。また、この島は赤道直下にあるため気温が高く、それゆえに太陽の名が使われているとの説もある。」

島そのものに関する説明はこれだけだ。

次のページをめくる。

「虹輪村。この島には昔、島の沿岸沿いをぐるりと一週するように、わっかになった村があった。虹輪の由来は太陽を見るとき、回りに見える虹だろう。」

他にも色々と島に伝わる言い伝えや伝承なども記載されている。

後は、なんともインチキ臭く、ありがちな財宝がどうたら海賊がどうたらとかいう客寄せの誇大広告も書かれていた。

どうやら大海賊のキャプテン・クラーケンとかいう髭もじゃ野郎が、金銀財宝を島の何処かに隠したという話らしい。その財宝は、未だに誰にも見つけられていない。

僕はクラーケンなんて海賊の名前は生まれてから一度も聞いたことがない。ずいぶん無名の「大」海賊もいるもんだと思った。

しかし、一緒に見ていた薊は、そう思わなかったようだ。

「財宝か!いいねいいね!これだよ!無人島にはこれがなくっちゃ!クラーケン、イカの化け物だったよね。どんな海賊だったんだろ。」

はしゃぎ回る薊を見て、僕は苦言を呈した。

「そんなの嘘っぱちだろうさ。もし仮に財宝があったとしても、今まで誰も見つけられてない宝なんて、僕たちが見つけられるわけがない。」

そういうと薊はきらきらと純朴で太陽のように眩しい眼差しで言った。

「いいや!見つけるんだよ!発見者になるんだよ!生も頑張るよ!」

僕は黙って苦笑いをした。

そんな財宝の伝説より、僕はこの島に昔あった村の、血生臭い化け物の伝説の方が気になった。

ガイドブックには「啓魔落(けいまら)様の伝承」という見出しで記載されている。

啓魔落様は三つ首を持つ。

一つは蜘蛛の頭。

もう一つはナマズの頭。

そして最後にフクロウの頭だ。

また首から下は熊の体になっていて、背中には三枚のコウモリの羽が、そして尻尾はタコの腕のようになっている。

啓魔落は、自信に生け贄を差し出したものに祝福を与えた。

生け贄を差し出すのは、雨や雪の夜でなければならず、そして、生け贄は穢れなき少女(ガイドブックによれば、第二次成長期以前の少女)でなくてはならない。

生け贄を捧げるときは、生け贄の首を1度切り離し、そして、その首を再び胴と縫合しなくてはならない。

生け贄にされた少女は、まず一人、足の先から徐々に、ナマズの頭に食い殺される。

次に一人の少女が蜘蛛の頭とフクロウの頭に、頭と足を同時に食われる。

最後に一人残った少女は、ナマズの頭にまず胴から食われ、続いて蜘蛛とフクロウに、頭と足を食い尽くされる。

そうして、最後に啓魔落様は、祝福をもたらしてくれる。

僕は気が付いたことがあり、薊に声をかけた。

「このけいまらって、多分、キマイラの訛りだよな。ライオンの頭にヤギの胴体、そして蛇の尻尾っていうキマイラより、見た目はだいぶけいまらの方がグロいけどさ。」

薊は僕の方を向いて言った。

「ああ、そうかも知れないね。でもさ、それつまんないよ。そんなのより財宝話の方が楽しいよ!」

それはそうだな。

「これからたくさん遊ぶんだよ?暗いの禁止!暗所禁止令を発令します!」

そういって、手でばってんを作った。

そうこうしてる間に、船は島についた。

太陽の島についたというアナウンスが流れ、僕たちは島に降り立った。


島についた僕たちは、とりあえず、島の真ん中の辺りにあるペンションに行って荷物を下ろした。

僕たちの部屋、というか泊まり客の部屋は全て建物の二階にある。

一階はキッチンや談話室などの共通スペースだ。

僕と薊は同じ部屋に泊まる。

シングルベッドが二つあり、窓からは海が一望できるいい部屋だ。

「いい部屋だねぇ。」

薊が感嘆の声を上げた。

「本当だねぇ。」

薊に同意を示す。

さて、じゃあ、とりあえず、このいい部屋で一休み「さっそく探検に行こ!」しようと思ったが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。

部屋を出て、外に出る為にロビーへ降りると、他の泊まり客に出くわした。

手にしたカメラで館内を無許可、かどうかはわからないが撮影している。

まったく、やれやれ。

こうもなんでもパシパシパシパシはよくない。

まるでパパラッチのようじゃないか。

館内は撮影禁止ですよ。いや、知らないけど。

隣を通り抜けようとすると、パシャリと写真を撮られた。

「いいねいいね。カップルかい?若いカップルというのはぐっと心の涙腺に突き刺さるものがあるね。涙が出そうだ。」

ウンウン。と頷きながら訳のわからないことをほざき始める。

「涙腺にだけじゃなく、ナイフでも心臓に突き刺しておいたらいかがですか。」

とりあえず、そんな提案をする。

「おお!なかなか言うね!カメラじゃ言葉まで写せないのが残念だ。言葉撮れるカメラがあったら絶対撮ったのに。」

さして気分を害した様子もなく乗っかってくる。

「つまりテープレコーダーですね。デパートの三階に売ってますよ。どうぞ行ってらしてください。」

しかし、男は首を横に振る。

「ダメだダメだ。テープレコーダーは言葉が画として写らないだろ?俺が欲しいのは、声がカタマリンで空中に実体化したのが写るようなカメラなんだ。」

パシャリ。今度は薊が撮影された。

「こちらのお嬢さんはやに無口なんだな。彼氏の分の穴埋めかな。」

まだ、一言も言葉を発してない薊に向かって、邪気のない表情で問いかける。

代わりに僕が答えた。

「いいえ。普段はどちらかといえば逆ですが、目の前の存在があまりにも規格外過ぎて心の配電盤がショートしてるんですよ。」

薊の回りには、変わり者と評されるような人間はいないからな。免疫がないのだろう。

「そうかショートか、ジリジリビリビリ。ビリビリルラか。なら仕方ないな。」

男はそう言って、また辺りを撮影し始めた。

しかし、はっとしたような顔で一旦撮影を中断し、男は僕たちの前にきた。

「えっと、はじめまして。僕は福本。福本(フクモト) (アキラ)。よろしくね。職業はカメラマンだ。」

そう言って福本さんは、僕に握手を求めてきた。

「はじめまして。そして、さようなら。白井(シライ) (ショウ)です。こちらは小鳥遊(タカナシ) (アザミ)です。」

僕は握手をした。

「ま、数日間。仲良くしようではないか。じゃ、さらば。」

僕の肩を叩いて、福本さんは去っていった。

「すっごく気さくな人だったねぇ。」

薊はしみじみとした顔でそう言った。


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