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ディメンションゲート  作者: 藤井 サトル
1巻 運命を変える者
6/35

依頼をこなそう

 太陽が昇り始め、鳥たちが鳴き始める早朝、大和は既に朝食を済ませ宿を出る準備が整っていた。

「これくらい早ければセラとプリムを待たせる事はないよな……」

 大和はボソリと独り言をつぶやいた後、まだ暗い窓の外を眺める。

 そもそもこの早い時間から宿を出るのはセラとプリムに集合時間を聞き忘れたからではあるのだが、時間を把握する方法を持っていない事に気づいた大和は『いっそ早く宿を出て宿屋の前で待っていればいいか』との結論に至った。

 大和が部屋を出て、宿の店主に軽く挨拶をした後、宿の扉を開き外に踏み出した。

「おはようございます」

 予想外にもセラが一人で立ち大和に向かって手を振り、開口一番に笑顔で挨拶をする。

 『まだ居ない』と思っていただけに不意打ちの笑顔がまぶしく、そして、たったそれだけの事だが大和の心拍数を跳ね上がらせるのには十分だった。

「お、おはよう」

 少しだけ上ずった声で挨拶を返してしまい、恥ずかしさで顔が熱くなる。

 セラはその大和の様子をみて首を傾げ、おもむろに額に柔らかい手を伸ばしていく。

「大丈夫?顔、赤いけど風邪ひいちゃいました?」

「い、いや。大丈夫、大丈夫だから」

心配して手を伸ばしてくれたセラの手が近づいてきた事で大和はつい反射的に身を引いてしまった。

「そう、それならいいけど無理しないでくださいね?」

 大和の体が後ろへ下がった事でセラは指を止め、少し気易かったかな?等と思いながら腕を引っ込めた。

 そうやって腕が離れていくのを見て、残念に感じる半分、女性へのスキンシップに慣れていない事から安堵する部分もあった。

「ちゃんといるわね」

 声が聞こえてきた方向に振り向くと、いつの間にかに来ていたプリムが立っていた。

「おはよう、プリムちゃん」

「ええ、おはよう」

 プリムの右手には依頼書と思われる紙を筒状に丸めて手に持っているのが見える。

 おそらくそれが、今日やる依頼の内容だろうと大和は察する。

「とってきた依頼はこれよ!」

 プリムがその紙を広げると、依頼内容が書かれていた。

 どうやら昨日のプリムの報告を受けたギルドはモンスターが大量に出現した理由を探りたいらしい。

「プリムちゃん、依頼もいいけど私たち名前も教えてないよ!」

「あ、ああ!そうだったわね」

 セラの訴えでうっかりしてたと少し照れながらプリムは頷いた。

「私はセラ・ミフォートです。よろしくお願いします」

 セラはプリムから大和に向き直して微笑みながら自分の名前を名乗る。

「プリム・ローズよ。よろしく頼むわね」

 それに続くようにプリムも大和に向いて名乗った。

 その最初に警戒していた顔も今じゃ微笑む様になってくれたプリムに嬉しくなる。

 大和も二人の挨拶に続いて返事をする。

「ああ、俺のほうこそよろしくな」


 名前を教えてもらう事が出来たのは進歩だな。昨日はセラの名前を口にしたのはなんとかごまかせたけど、これ以上くだらないところでボロを出すのは避けたかったから助かる


「さて、早速ギルドの依頼の話だけど、昨日スライムが大量に出たのには理由があると思うの」

「理由なんてあるの?」

 セラがプリムに尋ねた。

「ええ、そうね。モンスターが大量に出現する理由はいくつか存在するけど、今回は恐らく親玉がいると思うわ」

「親玉?」

 セラが初めて聞くといった様子で首を傾げる。

「モンスターのリーダーと言ってもいいわね。そういった強いモンスターに集まって大量に出現するケースは珍しくないわ」

 大和はそこまで聞いてゲームの内容を思い出す。


 スライムの親玉か……ボスってことだよな。スライムのボスは確か2種類だったけど居るとしたら流石にビッグスライムの方だよな


 大和が考えるのは『スライム』を巨大化させたモンスターである。もう一種類ボスになりえる凶悪なモンスターがいるが出てこないだろうと思う。それは、そもそもゲーム中盤の最後に出てくる灰色の悪魔(スライム)であり、戦えば間違いなく負ける事が確定する程、強いのだ。この序盤の段階では出てこないはずである。

「その親玉を倒せばスライム達は集まってこないと思うわ」

 出てくるのは『ビッグスライム』だろうから、大和も倒せるだろうと考えプリムの言葉に頷いた。

「ところで、ヤマトの武器なんだけど……」

 セラの言葉で大和は武器を持ってない事を思い出し、ポケットから昨日プリムにもらったゴールドが入った小さな布袋を取り出した。

「あ!……昨日もらった14ゴールドしか持ってないんだけど、何か武器買えるかな?」

「無理ね」

「無理です」

 二人同時に声をそろえて言われ、がっくりと肩を落とす大和。その様子を見てクスリと笑ったセラが口を開く。

「あの、もしよかったら昨日お貸しした武器使いますか?……ただ――」

 『店売りされている剣とかと違って扱いにくいかも』と続けようとしたセラの言葉を大和は遮った。

「いいのか!?是非借りたい!」

「え?」

 セラの武器を見たギルドのハンターの人達は皆してこう言う。

 『そんな、有るか無いか分からない刃を持つ武器に命を預けられない』と。

 いろんな人に言われてきた結果、セラは人前であまり武器を見せる事をしなくなっていた。そして大和も同じように『実物として刃が見えていない武器より、鉄の剣とかのほうが安心できる』そう言って断られる事も考えていた。

 だけど、大和の言葉は予想に反したもので、セラは困惑して気の抜けた声で返事をしてしまった。

「……えっと、ヤマトはその……私の武器でいいんですか?」

 自分で『武器を使うか?』と聞いておきながらこの言葉を発して矛盾していると気づいているが、撤回しないのは大和の返答を聞いてみたいとも思った。と言うよりは肯定してほしいことを願っての言葉だ。だからセラは待つ。大和の返事が例え『お金がないから。』等の理由でも……。

「セラがいいのなら俺は使いたい。その武器すごくカッコいいし、それに、昨日借りたけど使いやすかったから――」

「っぷ。あははははは」

 突如プリムが盛大に声を上げて笑った。

「な、なんだよ」

 何か恥ずかしい事を言ったのかと思い、大和は頬を赤くする。

「ごめんね。ただ、真正面からセラの武器にそんな事を言ったのは、私が知る限りでヤマトが初めてだったから、ついおかしくって」

「そんな事ないだろ?」

「一時期、ギルドのハンター達はセラの武器を見に来ては茶化してたからね。私はてっきりヤマトも同じようにするのかと思ってみてたけど。予想がはずれたわ……」

 プリムもセラと同じ事を考えていたらしく、そのうえで見守り、茶化すようなら過去に笑ってきたハンター達の様に一発腹を殴ろうと考えて身構えていた。だが、大和の返答は全く予想していなかったもので、身構えていた自分がおかしく思えたのだ。

「本当に私の……武器でいいんですか?」

 三度聞いてくるセラはそう言いながら大和に近づき手を差し出した。その掌には昨日使用したエネルギーセイバーの『ヴィンター』が乗っている。

 そして大和は当然ながら笑顔で答える。

「ああ。借りてもいいかな?」

 セラの表情がパァっと明るくなる。


 その笑顔から推測するにセラの武器を認めてくれる人がいるのが嬉しいのだろう。

 実際、ゲームのシステムとして仲間は武器屋で色々装備を変えることができるが、セラはこの武器エネルギーセイバー以外を使う事が出来ない仕様である。更に言えば仲間もこのエネルギーセイバーを装備することが出来ない。完全にセラ専用装備なのだ。

 因みにゲームのストーリーを進めていくと、エネルギーセイバーは自作である話を仲間達との会話で聞くことが出来る。

 そしてシステムの一つとしてエネルギーセイバーをセラは改造して強化することが出来る。

「もちろんいいよ!使い方教えてあげるね!」

 セラは弾んだ声を上げながら大和のすぐ横に移動する。直後にふわっと女の子の甘い匂いが大和の鼻孔をくすぐる。

 ギルドにいた時よりさらに近い距離間に心拍数が一気に上昇するが、セラはそんなこと知らずにちょっと興奮しながらエネルギーセイバーの使い方を教えていく。

「このボタンを押すとエネルギーを圧縮して刃が作られるの。それからこのボタンは回せて、回すと圧縮するエネルギー量が増えてより硬い刃が出来るんだよ!」

「刃の強度を変える事が出来るってことか」

「うん、最大の強度にすればどんなモンスターだって切る事が出来ちゃうんだから。その反面、エネルギー量を少なめに設定すると硬度が下がってモンスターを切ったときに折れちゃうから気を付けてね」

「折れちゃっても何度でも出せるならあまり気にする必要ないんじゃない?」

「そんなことないよ。刃を出すと当然エネルギーを使うんだけど、刃をしまえばそのエネルギーを回収するから、ちゃんとしまえば長持ちするけど、刃が折れちゃうとエネルギーの回収が出来ないから消費が激しくなっちゃうよ」 

「じゃあ、ずっと強度を最大にしちゃだめなのか?」

「うん、刃を維持している時もエネルギーを消費しちゃうんだけど、エネルギー量が多ければ多いほど維持している時の消費量が増えるから、調節することが大事なの」

「なるほど、強度の調節もしっかりしないと使えなくなるってことか。とりあえず強度は中間でいいか」

 大和は以外に大変だなと思いながら円形のスイッチに三角の印が5箇所刻まれているのを確認し、真ん中に合わせる様にメモリを回す。

 説明して満足したのか笑顔でセラが大和から離れる。そのタイミングを待っていたのかプリムが口を開いた。

「説明終わったみたいだし、それじゃ偵察しに草原へ行くわよ」

 大和はまだ、セラが近くにいた余韻が残っていて心臓がドキドキしているが、それを表に出さないように努めながらプリムに「おう!」と返事をした。

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