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ディメンションゲート  作者: 藤井 サトル
1巻 運命を変える者
3/35

最初に出会うのは

 大和の意識がなくなってからどれくらい経っただろうか。

 倒れていた大和は起き上がりながら首を振って回りを確認するが何も見えず、認識できるのはここが真っ暗な世界だという事だ。

 状況を理解しようと、手で回りを探ってみたがその手には何も触れられず、冷たい地面の感触しか感じることはできなかった。

「……ここはどこだ?」

 自分の部屋ではない事は明らかだ。停電したとしても窓から太陽の光が入るはずだからこそ別の場所だとわかる。


 地面はあるみたいだな……


 四つん這いの状態で体重をかけても軋んだりする音が無かった為、立ち上がっても問題ないと判断した。

 大和は一先ず立ち上がろうと片膝を立てると、先ほどから感じていた違和感の正体に気づく。

「何で……靴を履いているんだ?それも……俺の靴だよな……これ」

 この暗闇で自分の体がはっきり見える事について疑問を持つ前に自分がよく履く愛用しているシューズを視認する。


 この靴事態はさして特別な物ではないが、自宅の部屋に居た大和がこの靴を履いている事は無かった。

 思い出す為に大和は自分の額に指を当て目をつむり、この状況になる前、自分がやっていた事を掘り起こしていく。

「……確か、ゲームをやっていて……テレビが光って?……気づけばここに?」

 大和は目を開けてからも記憶の隅に何かが引っ掛かり腕を組んで首をかしげる。

「あとは……何か忘れているような……?」

 しかし、思い出す事も出来ない大和は気のせいという形にして再び辺りを見渡した。


 せめて……明りがあればいいんだけどな。こう真っ暗じゃ何も見えないから状況も判断できないし


 何度見ても暗く明りはどこにもない。何か持っていないかと大和は長ズボンのポケットに手を突っ込むが、右のポケットにも左のポケットにも何も入っていなかった。

 「そりゃそうだ、家の中にいたんだしスマフォも財布ポケットには入れてないよな……」

 なけなしの希望……になりえるか分からないが、靴を履いていた事を考えると都合よく入っていてほしいものだと軽く嘆いた。


 とはいえここで落ち込んでいてもしょうがないか。ただ、回りを把握したくても真っ暗で何も見えないし、今俺が出来る事は声を出す?……まてまて、そんな事してホラー展開とかだったら真っ先に死ぬ奴じゃないか?


 気持ちを切り替え暗い世界でただ一人ぽつんと佇みながら大和はどうしたものかと考える。

「あ、あの……」

「う、うわ!」

 突如響いた女性の声は弱々しく、消え入りそうな声だった。

 だが、そのような声でも真っ暗な世界で一人きりだと思い込んでいた大和を驚かすには十分だった。

「っきゃ!」

 そして、声をかけた主は大和の驚いた声に驚いて軽く驚きの声を上げた。

「び、びっくりした……」

 大和は声の聞こえた方向に振り返ると目の前には等身大の淡く光ったクリスタルが空中に浮いていた。

 『人』だと思って振り向いた大和は目の前の存在が何なのか分からず首をかしげてしまう。


 これは何だろうか?石……いや、クリスタル?


 そのクリスタルは薄い水色で、透明度がある。

 大きさとしては大和とほぼ同じ高さで、真上から見たら六角形に見えるだろう。

 そして上下の先端部分は先細りになっていて、誰かが造形した様に美しく整えられていた。

「え、えっと。そのごめんなさい」

 またもや大和は首をかしげる。この声はクリスタルから聞こえてくるのだ。

「え~っと、スピーカーか何かがついているのかな?」

 しかし、透けているクリスタルの内部にはそれらしい機械は見当たらない。

「そんなものついていません!」

 機械が見えない以上、クリスタル?の言っている事が本当なのだろう。という事は

「い、石がしゃべっている!?」

「い、石だってしゃべります!」

 大和の言葉に反応したのかクリスタルの声は先ほどの弱々しさは無く、ちょっと声を荒げての抗議が返ってくる。

「いやだって、普通、石はしゃべらない……」

「でも、しゃべれるんですよぉ。それに石って言い方はひどいです……」

 クリスタルが気落ちしてしまったのか、今度は弱々しく泣きそうな声になっている。

「あ~ごめん。クリスタル……でいいのかな?」

「は、はい!それでお願いします」

 クリスタルの声はパァっと明るく元気な声に切り替わっていた。

 そして、そのコロコロと変わる様子がおかしくて大和は自然と笑ってしまう。

「酷いです、人が一生懸命話しているのに!」

「悪い悪い、って人じゃないだろ」

「……そうです……けど……」

 少し間をおいて返事したクリスタルを見て、触れてはいけない話題だったかと思い少し焦りながら別の話題を探す。

「あー、ところでここはどこなんだ?」

「……え?あ、あー!ここですよね!」

 クリスタルが素っ頓狂な声を上げた後、取り繕うように話を続ける。

 しかし、質問に対しての反応が鈍かったことから、ヤマトはクリスタルを見ながら大丈夫かコイツ?と不安を覚えた。

「ここはですね………………………真っ暗な世界です!」

 クリスタルはたっぷりの間を開けた後、大和に言った言葉は誰が見てもわかる情報だった。

「そんなことは見ればわかるだろ!」

 もし顔があったらきっとドヤ顔で言っていたであろう目の前のクリスタルに大和は怒りながら突っ込む。

「っていうか、こういう時のお約束ってのがあるだろ?漫画でもアニメでもゲームでも映画でも小説でも……せめて『異世界の入り口です。』くらい言ってくれよ!」

 非日常的な、もっと言えば小説等のファンタジーな展開を少し期待していた分、このクリスタルの対応に大和はがっかりしてため息を一つ吐いた。

「……」

 ところが大和の抗議からクリスタルはなんの反応もなく無言になっていた。

「あ、あのクリスタルさん?」

 そんなクリスタルを見て大和はが怒ったのか?と様子を伺いながら声をかけた。

 しかし、返ってきた声からは怒ったような雰囲気は微塵も感じられず杞憂に終り安堵を得る。

「え、あ、はい!……そういうのがお望みなんですか。ではちょっとやり直しますね」

 少し納得がいかないが、それでも気分を変える為に大和も最初に合った言葉を言いなおした。

「あー、ところでここはどこ?」

 するとクリスタルの纏う雰囲気が変わった様に思えた。

「ここは……」

 クリスタルは少しの間を置いて大和を焦らす。

 大和の喉に唾が通りゴクリと飲むと同時にクリスタルが次の言葉を発した。

「異世界から異世界へつなぐゲート。ディメンションゲートの中です」

 そのクリスタルのセリフを聞いて大和は心の中で雄たけびを上げた。


 うおおおおおおおお!やっぱりファンタジーってこういうのだよな!しかも俺の好きなゲームのタイトルを、こ!こ!で!持ってくる憎い演出!いや、確かに≪ディメンションゲート≫プレイ中に画面が光って移動していたのだからここは本当にゲームの中なんだよな!


「ディメンションゲートの…中……」

 胸中をハイテンションの雄たけびで埋め尽くした後、大和も雰囲気を壊さないように反応する。まるで、ロールプレイをする感覚で言葉を返した。

「君が……俺をここに呼んだのか?」


 まさにゲームの!漫画の!アニメの!小説の!映画の!よくあるラノベの主人公!さぁ、この流れのまま俺を冒険の舞台へ連れてってくれよ!


 すでに心は異世界モードだ。行ってくれと言われれば一発OKする程に大和はうれしさの渦の中にいた。

「え?いえ。違いますけど」

「なんで素に戻ってるんだ……」

 大和は膝から崩れ落ちる。

 これから導かれた勇者の様に冒険に出るだろうと思っていた気持ち、クリスタルの勇者を異世界へと導く雰囲気、そして、それらを味わっていた胸の高鳴り。それらが一瞬で霧散した。

「え、ええ!?でも、私は貴方を連れてきていないですよ?」

 大和は残念な子を見る様にクリスタルを見る。


 そうか、嘘がつけない子なんだね……


「そうか、嘘がつけない子なんだね」

 立ち上がりながら大和は思っていた言葉を声に出してしまっていた。

「ううう、ひどい。そんな残念な子を見る目で……」

 勢い余ったとは言え、また泣かせてしまったのか表情は読み取れないが儚い声で言われてしまい大和は罪悪感を覚えてしまう。

「あ~、ごめんよ。……そ、それより君は俺をこの先の別世界に導く事はできないのか?」

 大和は何とか雰囲気を変えられないかと思い無理やり話題を変える事に努めるがそれは無理だった。

「出来るけど……私は残念な子だもん…やっぱできないもん……」

 ちょっと拗ねた口調で体を動かしながら大和をチラ見する仕草をしつつクリスタルはそう言った。

「出来るのか!?その、謝るから機嫌直してくれ!!」

 まだまだ拗ねると思っていたが、意外にもクリスタルは次の言葉を発するまで少しの間を開けた。

「……本当に行きたいのですか?行ってもいい事はないかもしれないですよ?」

 そしてその言葉は真剣味を帯びていた。それについて少しだけ大和は気圧される。

 だけれどもクリスタルはここが≪ディメンションゲート≫と言った。ゲームの世界だ。それなら好きなキャラクターの『セラ』にも会えるんじゃないだろうかと大和は考える。そして、大和がここに来る前に見た魔王との戦闘。その時に見たムービーのようなリアルさの画面。そしてこの空間に導かれた俺。すべて関連性があるんじゃないかとも。それ故にクリスタルへの返答は決まっていた。

「そうだな。でも良い事もあるかもしれない。それなら行ってみたい」 

「……本当に行きたいのですか?」

「ああ、本当に行きたい」

「どうしても行きたいのですか?」

「ああ、どうしても行きたい」

 しつこく聞いてきたクリスタルは間を開ける。まるで何かを考えているみたいに。だが、その沈黙も一つの溜息が流れて終わった。

「しょうがない……ですね。わかりました。ゲートを開いて送り出します」

 ついに根負けした。とでも言いたいように諦めたような口調でクリスタルは大和を送ると言う。

「でもこれだけは覚えておいてください。無茶はしないで……」

 それは懇願にも似た響きだった。

 だけど、のんびり『セラ』を探して、運命的な出会いになったらいいくらいに考えている大和はそれを軽く受け止めてて返事をするのだ。無茶をする気なんてサラサラないから。

「おう!」

 元気よく返事をする大和を見ながらクリスタルはアクアマリン色の体を淡く光らせてゲートを開く。

 突如、空中に渦を巻いている白い光が現れた。

「これを潜れば………世界です……」

 どうやらコレがクリスタルの開いた『ゲート』らしい。

 ここから異世界……いや、きっと≪ディメンションゲート≫の世界に繋がっているのだろうと、今後の楽しい未来を思い描きながら大和は頷いた。

「それじゃあ、行ってくる!」

 勢いよく光の渦に飛び込んだ大和はこの暗闇の世界から消えていく。

「……止められなくて……ごめんなさい……」

 クリスタルがポツリと呟いたその言葉は、大和に聞こえたか聞こえていないか。クリスタルが知る術はなかった。

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