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ディメンションゲート  作者: 藤井 サトル
1巻 運命を変える者
2/35

壊れ始めた運命

「助けに来たんだ!!」

 水上大和は目が覚めると同時に叫んだ。それも自分の部屋でだ。

 Tシャツを着て寝ぐせでぼさぼさになっている黒髪も気にせず大和は状況を把握するためにうつ伏せのまま回りを見る。

 両手にはゲームのコントローラーがしっかり握られている。視界を上にあげればテレビがある。4K型のでかいやつだ。そのテレビ画面に映っているのは現在ドはまりしているゲーム画面だ。フィールドに佇んでプレイヤーである大和の操作を恨めしそうにまっているような気がする。

 そこから察するにどうやら自分はゲームのプレイ中に寝てしまったらしい。

「夢……か?……え?まじで?ここからセラとの冒険デートが始まるってところだろ!?」

 しかし、そのゲーム画面よりも先ほどの夢の方が大事であり、目が覚めて意識がはっきりしてくると自分の見ていたものが羨ましすぎて大和は落胆した。

 その理由というのも好きな女の子――と言ってもゲームのキャラクターだが――と運命的な出会いを果たしたのだ。そしてこれから冒険に出るという流れになるはずだった。ゲーム好きの男が妄想する極上の物語が今始まるはずだったのだ!――だが、『目が覚める』というごく当たり前の行動一つで全て台無しとなったのだ。


 ……今寝れば夢の続きが見れるかな?


 大和はすぐさまそう思い、コントローラーを操作してゲーム画面をスリープ状態に設定してから、同じ体勢のまま目を閉じて今見た夢へ思いをはせるのだった。


 ゲーム≪ディメンションゲート≫。

 大和がハマっているゲームの名称でジャンルは一人用のロールプレイングゲームだ。そして大和が口にした女の子『セラ』がそのゲームの主人公である。

 予め言っておくとこのゲームで仲間になるキャラクターは全員女性キャラクターだ。

 それ故にゲームをプレイした男性プレイヤーは好きな仲間キャラクターと恋仲になる等の妄想する人が多かったりもする。

 また物語としては主人公の女の子≪セラ・ミフォート≫が旅に出てしまった姉を探しにいく内容で。主人公『セラ』は優しく、まじめで、健気にも頑張り屋の性格である為、大和は好きなキャラクターとしてハマってしまったのである。

 とはいえ、物語内でもいくつか不明点があるせいか、ゲーム全体の評価としては意見が真っ二つになる。その不明点を『ダウンロードコンテンツで捕捉されると綺麗に終わるんじゃないか?』派と『投げっぱなしジャーマンスープレックスだろ』派である。それでもコメントを残すあたり多少なりとも期待しているんじゃないかと思える為、ゲームをプレイしている人は多いのだと伺える。


 また、このゲームの物語には4つのエンディングが用意されている。

 一つはノーマルエンドだ。ノーマルエンドと言ってもラスボスに会う前に終わるエンドとなる。そもそもこのゲームのラスボスは別世界からの侵略者であり、最終的には『セラ・ミフォート』とその仲間達はラスボスの脅威に恐れ世界から侵略されないように世界と世界を繋ぐ扉である『ディメンションゲート』を封印して束の間の平和を迎える内容となる。


 二つ目はハッピーエンド。最後に見ると感動する内容であるらしい。『らしい』というのは、まだ大和がこのエンディングを見ていないのでどういうストーリーになっているかまるで分かってはいない。


 そして、残り二つがRPGに珍しく鬱エンドとなっている。

 この鬱エンドを二つ用意するという斬新さからダウンロードコンテンツで何かしかけてくるんじゃないかという噂が立ち、このゲームが人気になった理由でもある。だが、皮肉にも見たプレイヤーの心を抉っていく内容のせいか、匿名掲示板では『二つ連続で鬱エンドを見るな』とよく書き込まれるのだ。だが、鬱エンドの分岐点前でセーブを行えばすぐに見れてしまう為、幾人の猛者達は二連鬱エンドに挑戦し、そして心がポッキリと折られてしまい、ほかの人が二の轍を踏まない様に匿名掲示板に書き込んでいく事が多い。


 この二つある鬱エンドはグッドエンドとバッドエンドに分かれている。『鬱エンドと言えば基本バッドエンドじゃないの?』というセリフは攻略サイトや匿名掲示板での情報交換で度々でてくる言葉だ。だからこう解釈してほしい。精神面に小ダメージを受けるエンドと精神面に大ダメージを受けるエンドだと。

 鬱エンドルートに入る条件としてはゲーム内にある『魔剣ソウルイーター』という剣を入手するかしないかの差だ。そして入手してしまえばハッピーエンドの条件を満たしていようとも問答無用で鬱エンドにルートに切り替わってしまうのだ。


 この鬱エンドのキーとなる『魔剣ソウルイーター』は親しいものを切り殺す事で刃の鋭さが増す。殺したものが親しければ親しい程に攻撃力を上昇させる。そしてデメリットである精神汚染が始まる。

 この武器を入手すると自動的に『セラ』の武器として装備されてしまう為、そこから魔剣の精神汚染が始まり、鬱エンドルートに直行という流れだ。

 更に言うとこの精神汚染の描写まで作り込まれている。例えば町から宿に入る等の場面切り替えで『セラ』が徐々に狂っていくセリフを描写していく。そして徐々に狂った『セラ』は仲間を姉をその魔剣で切り殺してしまう。


 剣を入手した後の鬱エンドの分岐点はラスボスの世界に乗り込む時に出る選択肢だ。

 主人公である『セラ・ミフォート』が選べる選択肢は「魔◆を倒■■も戻??い」と「◆王を倒し?ら帰□」の二つである。攻略サイトや鬱エンドの情報を全くしらない人が見ればバグっているように見えるだろう。しかし、物語を進めるうちに分かるのだ。このセリフが『セラ・ミフォート』の精神汚染開始の合図である事に。

 この選択肢「魔◆を倒■■も戻??い」は何となく予想出来るかもしれないが、ストーリーを見た人は『魔王を倒しても戻らない』という内容だとわかり掲示板で書き込む。ネタバレではあるのだが、何故書かれるかと言うとこちらが鬱エンドのグッドエンドになるからだ。

 一人だけになった『セラ・ミフォート』はラスボスの世界に進む。その時に出るラスボスの魔王はフードを被ったままの容姿だ。もちろん、戦闘の演出はでるのだが実際にはイベント戦闘であり、『セラ・ミフォート』が狂った強さを見せつける。フードを被ったままの魔王を何度も切りつけて瞬殺してしまう描写だ。それ故にこの時点で魔王がどんな姿をしているかは分からない。

 そしてラスボスの魔王を倒すとその世界が保てなくなったのか世界の崩壊が始まる。鬱エンドのグッドエンドでは『セラ・ミフォート』はその崩れていく世界に残り泣きながら笑って呟くのだ。「みんな……ごめんね……」と。


 もう一つの分岐である鬱エンドのバッドエンドを選んだ場合は魔王を瞬殺するまでは同じである。そこから世界が崩壊した直後に『セラ・ミフォート』は脇目も振らずに走り出す。ディメンションゲートを通り元の世界へと帰還する。英雄の帰りだ。たった一人でもやり遂げて帰ってきたのだ。だが、狂った『セラ・ミフォート』ではそれを感慨深く思う事はもうできない。

 世界へ戻った後はセラが住んでいた町、ゲームとして始めた時に居る一番最初の町に戻る事となる。ここで他の建物に入ると台詞はでるし、NPCに声をかけても無言を貫きまだ手は出さない。

 だが、町に、自分の家についた『セラ・ミフォート』はついに最後の人である部分までもが汚染に食いつくされたのか、『セラ・ミフォート』の帰りを祝いに来た人に刃を向ける。一言もしゃべらずに切り殺してしまうのだ。そしてそれが引き金となり家の外に出た『セラ・ミフォート』は次々と殺して歩くのだ。町の入口の門番、武器屋や道具屋の主人、噴水で集まっている人々。そして皆殺しを完遂した後、再び自分の家へ入ると椅子に座り「助け……て……」と呟く。血の涙を流しながら。


 さて、大和は既にハッピーエンド以外の三つのエンドは攻略済みだ。例にもれず大和も『俺くらいこのゲームが好きだったら二連鬱エンドくらいできらぁ!』と意気込んでやってしまった。もちろんダメージは負ったもののそれでも『セラ・ミフォート』の幸せな姿が見たい一心で3週目のセーブデータでラスボス前まで進行したのだ。

「昨日のBADENDは酷いものだったな……」

 結局、二度寝をすることが出来なかった大和は目をパッチリと開けてうつ伏せから起き上がり、コントローラーのボタンを押してスリープ画面を解除する。

「鬱エンドなんか見たから夢でセラを見たんだろうか」

 あんな姿の『セラ・ミフォート』を見てしまえばやるせなくもなるし、何とか出来ないものかと考えてしまう。とはいえゲームの中のお話だ。心内ではもやもやするものがあるがハッピーエンドを見て終わりにするのが最良と考える。

 スリープが解除されたことでテレビ画面は真っ黒からゲーム画面に切り替わる。先ほどと同じフィールドにキャラクターが立たされて放置されている状態だ。

「さてハッピーエンドの攻略を再開するか」


 ゲーム画面は空が真っ赤に染まっていて、周りは町が崩壊した。と言わんばかりに瓦礫が至る所に転がっている。そんな場所に主人公の女の子が立っているのが映し出されている。ここが『セラ・ミフォート』の居た世界の壁を越えてやってきた異世界だ。


 既にハッピーエンドルートになる様にフラグは確率されているため、このまままっすぐ進めば侵略しにくるラスボスとの戦に入れる状態だ。そのラスボスとなる魔王を倒せば最高エンディング。つまりハッピーエンドになる。


 しかし、大和にも気になる事がある。

 実はこのゲーム、ネットの攻略サイトを見てもわかっていない部分が多い。そのうちの一つが『コネクトシステム』というものだ。

 この『コネクトシステム』はキャラクターとキャラクターの絆を繋いで強化するシステムであり、それが行える主人公の事を『コネクター』と呼ばれている。問題なのはこの『コネクター』でコレが何なのかゲーム内ではっきりされていない。『コネクター』という単語が出てくるのが主人公の『セラ・ミフォート』とその姉である『リエル・ミフォート』のステータス画面だけであるのだ。


「何となく仕様ミスってだけじゃない気がするんだよなぁ。ハッピーエンド見たらまた初めからやってみようかな」


 そんな事を呟きながらもゲームを進めていると魔王との対峙イベントが始まった。


 ――その直後に画面にノイズが走った。


 ノイズはほんの一瞬、画面に横線がピリッと来る程度のものだが、大和はノイズが走ったことすら気づかずゲームのイベントを進めた。

「あれ、なんだこれ」

 大和がふと気になったのは魔王との戦開始直後だった。ようやく姿が拝めると思っていた魔王の姿が見えなくなる異変があったのだ。

 いや、見えないだと語弊がある。正確には黒い(もや)に包まれていて、そこに存在するのに姿が見えなくなっているのだ。

「演出なのかな?」

 ハッピーエンドの条件が整った魔王戦はこういうものなのかもしれない。そう考えた大和は些細な事としてゲームに意識を戻し進める。

 戦闘を開始した大和のキャラクター達は攻略推奨レベルより高いため、魔王から受けるダメージは低く、また、こちらが与えるダメージは魔王のHPを大きく削る。

「ノーマルエンドと鬱エンドを見た後の周回データだからな……負ける事はないよな」

 このまま楽勝にエンディングにたどりつける。大和はそう確信していた。


 しかし――。


「よし、このHPなら主人公の奥義で倒せるだろ!」

 ゲームキャラクターの『セラ・ミフォート』のコマンドで奥技を選択するとテレビの中で『セラ・ミフォート』が声を張り上げた。

「フルドライブ!」

 そう言うと彼女が扱うエネルギーを刃にする武器、エネルギーセイバーのピンク色の透明度ある両刃が輝く。

 そこから彼女はその武器で華麗な連撃を繰り出す。攻撃が魔王にヒットする度に4桁のダメージを与え続け、魔王のHPがどんどん減っていき、HPを削りきって倒せる。そのはずだった……。

「なんだよこれ……」

 しかし、二つ目の異変は直ぐに起きた。

 5発目の攻撃でダメージを与え、魔王のHPバーが残りほんの数ミリとなったところで6発目のダメージがすべて0になったのだ。

「イベントか?でも攻略サイトには何も書いてなかったぞ」

 セラの連撃は6発目では終わらない。7発目、8発目と続く。

 だが、大和が動揺している間もセラの連撃は全てダメージは0だった。

「この一撃に未来をかけます!」

 セラの連続攻撃の最後に行われる一撃必殺の演出。

 刃がより一層の光を放ち増して真紅の様な輝きが最高潮まで高まった瞬間、セラはその一撃を放った。

「ディメンションブレイク!」

 桃色の刃が三ケ月状に飛び黒い靄が掛かった魔王を切り裂いた。



 ……だが、それでも魔王の残り僅かとなっていたHPは削られなかった。



 そして主人公側のターンが終了した。

 ゲームのシステム上、次は魔王が動き出すターンとなる。

 ところが魔王が動き出す前にテレビ画面にノイズが走った。それも今度は長く、たっぷり10秒は画面が乱れる。

 ノイズが無くなり画面が正常に戻った。そう見えたのだが直ぐに次に映し出された画面によって否定された。

 ゲーム画面の質が明らかに変わったのだ。

 テレビゲームの映像ではなく、まるで――。


「アニメ映像……と言うよりムービーか?」

 大和が唖然とテレビ画面を見ている中、魔王が黒い靄を口の様に開いた。

「ククク、流石だと言っておこう、だが、あと一歩足りなかったな」

 セリフを言い終わった後、映像の中の世界で魔王の攻撃がセラや仲間を襲う。

 魔王の奥技と思われる連撃を受ける主人公達にゲームでは必ず有ったダメージ表示は出なかった。その変わりに主人公達の悲鳴や叫びが聞こえ、切られた箇所からは血液が飛び散り、ゲームにはなかった描写が映し出される。

「何がどうなってんだよ、これも演出なのか……」

 あまりにもリアルで本当にあるかのような映像に衝撃受けたせいで、大和の両手からコントローラーがスルリと抜け落ちてコトっと床との衝撃に音を鳴らす。

 テレビ画面で映し出される残虐的な光景も終わりを迎える頃には、ゲーム内のキャラクター達は倒れている。

 そして、最後に残ったゲームの主人公『セラ・ミフォート』も膝から崩れ落ちた。その一瞬まで大和は目を離すことは出来ず、いたたまれなくなった大和はついテレビに右手を伸ばし画面に指が触れた。

 直後、テレビが眩く光ったのだ。それも大和を包むほどの強い光で――。


「何だこれ!?」


 大和は左腕で目を隠す様に覆い、そのまま立ち上がろうとするがバランスを崩してしまい頭からテレビに突っ込んでいく。


「うわっ!!!」


 目を覆っていた左腕も崩れたバランスを立て直そうにも両手は空を切るばかりで無意味に終わる。

 そして、テレビ画面に近づくと共にまぶしい光の中、その奥にセラが見えた気がした。一瞬口を動かしたようにも感じたが光が邪魔でそれも定かではなく、ついには大和の意識を奪っていった。

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