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ディメンションゲート  作者: 藤井 サトル
1巻 運命を変える者
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プロローグ

 草木が生い茂るこの草原は爽やかな風が一つ吹くたびに地面から生えている葉が揺れ動く。その葉と葉が擦れ合いサーっと音を奏でる。

 一見平和に見えるこの草原にはモンスターという人を捕食する怪物が存在している。

 『スライム』――液体をビニール袋に入れて地面に置いた様な姿をしているこのモンスターは人を見るや本能的に捕食対象として襲う。

 モンスターとして見れば最弱種ではあるのだが、戦う術を持たない人にとっては脅威であり非常に危険の存在だ。それ故にこのモンスターを討伐する人間は少なからずとも存在する。

 『スライム』は近づかなければ襲われる事はないのだがこの草原より更に西に向かうと自然の恵みが豊富な森がある。

 そして、草原より東には町があるのだ。その町から森にある果物や薬草類となる自然の恵みを取りに行く途中、或いはその帰り道で人が『スライム』に見つかり襲われる。というのはよく聞く話だ。


 もちろん人が寄り付かなければモンスターも活発に動くことはないし、この草原も静けさで満たされている。つまり、何時だって静寂の空間を壊すのは唐突に表れた人間だという話。

「うわああああああああああああああああああああああああ」

 この静寂に亀裂を入れるように響いた悲鳴は男性がの声だ。

 東の町から出向いてきた少女はその声を聞いた。とは言えそういう悲鳴を聞くことも1度や2度の事ではない。そういう悲鳴は毎回同じで今回も『スライム』に襲われた人があげた声だろう。と推測した。

 過去何度か襲われている人を助けたことがある少女はこの考えで間違いない。そう結論づけると急いで救助に向かう事に決めた。

 とはいえ、自分自身も気を付けて行かねばならない。『スライム』に襲われて悲鳴をあげた人がいるという事は、自分も襲われる対象に含まれるのだ。モンスターとしては強くない『スライム』でも奇襲を受ければ死んでしまう。ミイラ取りがミイラになるような結果を避ける為に少女は辺りを見回しながら警戒を強めるほかない。

 どの草葉の陰に『スライム』がいるのか分からない以上、見落とせばそのまま自分の命まで落とす事になるのだから。


 ――おかしい。警戒しながら見回してきたのでたどり着くのは少し時間が掛かったかもしれないが、悲鳴の発生源と思われる場所に来ても何かが動く気配は何一つない。

 では『スライム』から逃げおおせたのかもしれない。と少女はより遠くを見るように東を向くが町が見えるだけで人の影は無い。

 それならばと西を振り向くがこちらは森があるだけで同じように人の影は無い。

「あれ……?」

 確かに悲鳴は聞こえた。草原のどこかに人がいないとおかしいはずなのだが見つからない。救助が遅れれば遅れる程、悲鳴を上げた人が『スライム』に殺されてしまう可能性が高まる。どんな人でも無暗に人が死ぬのは嫌なのだ。最悪な想定を避けたい。そう考えれば考える程焦る少女は長い黒髪を揺らしながら辺りを見回す。

「どこにも人がいない……?」

 やはり……既にスライムに捕食されてしまったのだろうか。

 少女は嫌な考えがじわりじわりと頭の中を侵食してくる感覚に襲われながらも必死で周りを見渡した。

 だが、その考えは残念ながら的外れだったことに気づくことになる。

「そこからどいてくれーー!!!」

 やはり人の声だ。だが『どいて』とはどういう事だろうか?

 そして聞こえてきた方向もよくわからない。左右前後からではなく――上。

「避けてーーーーっ!!」

 少女は顔を上げて空を見上げる。『なんで上に人が?』とか『人が落ちてくる?』とか。そんな事を考える暇などなかった。上空から少女は人が降ってくるのに驚き、当たるかもしれないその距離を前にしてつい目をつぶってしまう。

 直後にズドンっ!と、草原に衝撃音が鳴り響き、地面が揺れ、砂ぼこりが舞った。

「っきゃ!」

 それらに驚いた少女は短く悲鳴をあげた。


 そして、現状を理解する。人が恐ろしく高い場所から落ちてきたのだと。

 自分が昔、木から落ちた時に足をくじいた事がある。高さは建物の1階と2階の間くらいの高さだっただろう。たったそれだけの高さでも痛かったのだ。今目の前に落ちてきた男はもっとひどい事になっているのかもしれない。


 そう考えた少女は一呼吸おいて少しでも気持ちを落ち着かせてから恐る恐る目を開ける。

 予想に反し、視界に映った男の体は五体満足であるどころか怪我をしているようには見えなかった。そうなると次の心配毎は体の内部だ。見た目だけの話ならば足をくじいたときと同じである。だが、見て分からない傷というのが有る為に体内で酷い怪我を負っているかもしれない。

「あ、あの……大丈夫でしょうか!?」

 心配になり少女は仰向けに倒れている男に向かって声をかけた。

 意識があるなら返答してくれるはず。だけど、もし意識が無かったら。と有りえてしまう可能性の中でも最悪な想像が頭をよぎる。

 それが杞憂に変わったのは男からの反応があったからだった。

「いっつっつ……」

 男は手を後頭部に当てながら上半身だけ起こした。

 意識がある事にほっと胸を撫で下ろした少女はすぐさま男に近づいた。

「今、治癒魔法をかけます!!」

 少女は掌に魔力を集めた。

 魔法――魔力と知識、そして技術が合わさる事で使用できる超常現象であり、この世界には必須ともいえる現象。

 少女は掌を相手にかざして集めた魔力を魔法名と共に解き放とうとする段階で予想外にもその男の人が掌を向け、上体を起こしながら拒んだ。

「いや、だいじょうぶ……だ……」

 男が初めて少女の顔を見ると、その反応は時が止まったように動かなくなり、そしてその視線は少女の顔をじぃっと見つめていた。

 それは何か特別な存在、又は、意外な人物に出会ったかのような反応だったが少女がそれに気づくことは無い。

「え、えっと……」

 怪我をしているだろうと思っていた男の人に治癒魔法を止められ、更に見知らぬ男に見つめられているのだ。

 いったい何をしているのか分からず少女の困惑は動揺にかわった。

 そんな動揺する少女を|余所≪よそ≫に男が意外な言葉を口にした。

「セラ……セラ・ミフォート?」

 そう、出会った事も見たこともない男が口にしたのは少女の名前だ。

「え?な……なんで私の名前を……」

 驚いている少女を見ながら男は言った。

「俺の名前は|水上大和≪みずかみやまと≫!……君を――」

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